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よろしくお願いします。

 俺はリリーの前に来て腰を屈めて聞いた。


「大丈夫か?」


「あ、あ、はい。でも私、ソニアお姉さまを危険な目に」


「荒事があったのは承知している。だが彼女が気にしないと言うなら気にすることは無い。無事でよかった。そして彼も随分と酷い目に遭ったようだが彼女がいれば大丈夫だろう。彼女は腕のいい治癒士だからな」


「でも、でも」


 リリーはボロボロと目から涙を流している。ここに至る経緯について詳しい事は分からないが、彼女なりに反省すべき所は多かったと言う事だろう。そこへクロとシンディがやって来た。


「マスカレード様。対象は全て無力化完了、アッガス様への引継ぎも全て完了致しました」


「トニー様についても問題ないようです。ソニア様がいて助かりました」


「そうか、それなら良かった。一応警戒は続けておいてくれ」


「「はっ」」


 報告が済むと二人は再びソニアとトニーさんの方へと戻っていった。


「良かったな、彼も問題ないそうだ」


「ううう、ひぐぅ」


 安心したのか、彼女はまた泣き始めてしまった。こう言うのは苦手なのだ。


「そんなに泣くんじゃないよ、()()()()()()。折角の奇麗な顔が台無しだ。さあこれで涙を拭くと良い」


 俺は懐からハンカチを出して彼女の目元を軽く押さえてやった。


「すみません、ありがとうございます、すみません」


「気にするな」


 いつもの気丈な彼女は見る影もない。俺はチラッとシンディの方を見た。ソニアはまだ治療中だしな。勘が良いのかシンディは直ぐに俺の視線に気が付いた。


「お呼びでしょうか?」


「すまんな、俺はそろそろ行かなくては。彼女を頼めるか?」


「承知致しました、お任せください」


 俺はリリーの頭を撫でて言った。


「俺はもう行かなくてはならない。今回の件で何か失敗したと感じる事があるなら次からは気を付ける事だ。犯した失敗は取り戻せない。しかし失敗から何かを学ぶことは出来るのだからな」


「はい、はい......」


「だからもう泣くな」


「はい......あの、あの......またお会いできますか?」


 涙でクシャクシャの彼女に会えないとは言い辛いな。どうしたものか。


「......またいつか会える日が来るだろう、そうだな君が立派なレディになった時に」


 彼女は黙って下を向くと小さくうなずいた。


「約束だ。その時には舞踏会(マスカレード)に招待しよう」


 俺はそう言うと俺は身を翻し、颯爽と屋敷を後にした...



--------------------------------------------



...後にした所で武装を解除し、上手い事やって来たお義父さんと合流して再び中へと入っていったのだった。事情を知るものからすると俺はさぞ滑稽に見えただろう。アッガスが笑いをこらえてたのは見えた。あのヤロウ。



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 あれから数日、私たちは元の日常を取り戻していた。サティお姉さまの状態もすぐに良くなったが、事件の事でソニアお姉さまやトニーお兄さまに聞き取り調査などが入ったのだ。


 ドン・ジャック一家はロイヤルジャックの強襲を受け一夜にして壊滅した。王家はこれから街の管理方法を徹底的に見直す旨の通達を出した。


 皆のリンクルアデル帰郷は予定より遅れていたが、その間に私はソニアお姉さまから色々と話を聞いた。お姉さまは怒るというより諭すような感じで私に色々な事を教えてくれた。


 私の軽はずみな行動で危ない目に遭ったが、ああしないとトニーお兄さまがどこに拉致されているかも分からなかった。だけど、もう少し冷静に動いていれば茶店で伝言を残すことも出来たかも知れない。


 場所を見つけた際にそのまま御者と共にフェルナンデス家へと戻ってきた方が良かったかも知れない。だがそれではトニーお兄さまは無事ではなかったかも知れない。


 様々な『もし』の中からいかにして確実に一番近い正解を掴み取るのか、それを学ぶように教えてくれた。私はこれまで以上にソニアお姉さまの事が大好きになったのだった。


 ただ、仮面の男(マスカレード)については誰も何も話してはくれなかった。偶然居合わせたというのだ。そんな偶然など起きるのだろうか? クロさんもシンディさんも知らぬ存ぜぬだった。


 本当に誰も何も知らないのだろうか? なぜソニア様は助けに来るのがマスカレード様だと思っていたのだろうか?


 私はサティお姉さまやソニアお姉さまに、マスカレード様がいつかまたお会いしてくれると約束してくれたことを話した。お姉さまに秘密など出来やしないもの。サティお姉さまはあなたがレディになれる日が来るのかしらと言ってたわ。酷いですお姉さま。


 あと、ハンカチを借りたままだという事も。


 ソニアお姉さまはその時が来れば返せば良いと言ってくれて、サティお姉さまは汚いから捨てたらいいのよと言ったわ。サティお姉さまは酷いと思います。ハンカチに残っていた香りはどこかでかいだ事のある匂いだったけど思い出せない。

 

 ハンカチの匂いをかいでる事は流石に秘密よ。あとハンカチに記されたHALと言う文字の刺繍。ハルという名前なのかしら? それともリンクルアデルのハルという商店で買ったのかしら?  


 そしてソニアお姉さまがリンクルアデルに帰る日がやって来た。とっても寂しい。でもまた数ヶ月したら商店の件もあるから来るかもって言ってくれたわ。だからそれまで我慢して待つわ。


 あのヒロシと言う男とはあれから会う機会が減ってしまった。当日あの事件の際に、家から出た後どこで何をしていたのか誰も知らないのだ。肝心な時にいつもいない男。そんなだから私と会うと気まずいのだろうと思っている。


 バルボア騒動の時にも彼は一緒にバルボアへ行ったらしいけど、途中からサティお姉さまとは離れてどこで何をしていたのか誰も知らない。それに陛下の演説の時もだ、あの時もどこかへ行っていた。


 仮面の男(マスカレード)が現れる時、彼はそこにいない。


 タイミングの悪い男だわ。



お読み頂きありがとうございます。

次回で一応の区切りとなります。

もう少しお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 頭の回転が悪い部類なんだろう。そこまでの情報があれば回転が良い奴はイコールになるからな。
2021/04/16 07:57 退会済み
管理
[一言]  まぁヒロシらと知り合いで勘のいい人なら、うっすらでもヒロシと”仮面の男”の関係に気付いただろうけど、リリーはまだまだ彼に”先入観”があるから気付くのはもうちょっと後になるでしょうねぇ。気付…
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