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よろしくお願いします。
壁に吊るされた私は横にいるソニアお姉さまを見た。
「ごめんなさい、お姉さま、ごめんなさい」
「リリーちゃん、希望を捨ててはダメよ。大丈夫きっと助けが来てくれるわ」
「助けなど」
「いえ、きっと来る。必ず来るわ。それより大丈夫? 私の手が自由ならヒールを掛けてあげるのに」
「私は大丈夫です、それよりお姉さまに申し訳な...」
「アニキィ、お先に頂きますぜぇ!」
コンターニと呼ばれた男は私の服を破りその手を伸ばした。これまでか。お姉さままで巻き添えに......みんな、本当にごめんなさい。私は溢れ出る涙を拭う事すらできない。私はその男の顔に唾を吐きかけた。
「このアマァ、また殴られてぇのかぁ!」
そして男が腕を振り上げると同時に入り口の扉が勢いよく開いた。まるで蹴り開けたかのように。
「な、なんだぁ?!」
そしてその瞬間に奥の窓が割れ一陣の風が舞い込んだと思った後...私とコンターニの間に一人の男が立っていた。男は私に背を向けて立っている。
「あ、あなたは......」
漆黒の髪、漆黒のコート、その手に携えるは身の丈以上もある槍のような武器。そして軽く私へと振り向いた時に見えたのは顔を隠すフェイスガード。彼は私に一言だけ口にした。
「少しの間、目を閉じているといい」
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リリーの服が破れてしまったが間に合った。近くで見ると多少出血はあるが最悪の事態は免れたように見える。本当に良かった。俺はリリーを見た後、その横にいるソニアへと声を掛けた。
「そっちの女はソニアだったか、また会ったな。大丈夫か?」
「ええ、きっと来てくれると信じていたわ」
「来るのが遅くなって済まない」
俺は偃月刀でソニアとリリーを繋ぐロープを断ち切った。
「まずはそこの彼女の手当てを、しかしあの男のケガが酷い。場が落ち着いたら彼を優先で治療を頼む」
「分かったわ」
「おいコラァ! お前何してくれてん...おまえ、まさか、仮面の男か? な...ぜ、こんな所に」
「彼女はお前のような薄汚い手で触れていいものではない」
「なんだとゴラァ!」
狐のような男は腰から剣を抜き切りかかってくる。俺はそれを軽くいなし石突きで男の肩口を突いて押し戻す。痛みで男は声を漏らすが俺を睨みつけてくる。
「グァァ! て、テメェ」
「お前の悪い頭で理解できるか? お前は触れてはならないものに二つ触れたのだ」
俺はゆっくりと偃月刀を構えていった。
「一つは彼女、二つ目は俺の逆鱗にだ」
「な、舐めた事いってんじゃねぇぞ、お前、俺を誰だと思っ...ガフ」
「別にお前が誰だとか興味などない」
俺は目の前の男の腹を一突きすると偃月刀を持ち上げそのまま横に投げ捨てた。男は床に放り出され二回ほど転がるとそのまま動きを止めた。
「そして聞きたい事がお前だけにあるわけでもない。気にせずそこで死んでいれば良いさ」
そして横を見てみると既にクロが部屋の中央まで突っ切り、奥から来たシンディとトニーさんを挟むようにして周りのチンピラ共を撃破してゆく。正直、これで作戦終了だ。後は誰がリーダーかという事だが......あの狼獣人か?
「ゴオアアアアアアア!」
横から男が襲ってきた。尾を見る限り狸のようだが、ふん、なかなか力が強いな。狸獣人は腰から剣を抜き何事か叫びながら切りかかってくる。
「彼女を後ろから羽交い絞めにしていたのはお前だったな?」
俺は二度三度剣を弾くと男の手首から先を斬り落とした。そして膝上に切り付けて相手を床へと転がす。他愛もない。悪いが単純に剣を振り回してどうにかなるほど俺は弱くはない。
「ヒイイ、たたた、助けて」
「お前らの言う事は大体いつも同じだ。だがまあそれは俺も同じ...か。どうして許されると、どうして今更助けてもらえると思っているのかいつも不思議でならない」
俺は男の胸元へ偃月刀を添えると言った。
「リーダーは誰だ? お前か?」
「あああああ、ラパンです、あそこの狼獣人です」
「やはりそうか、最後に良い事をしたな。礼は言わないが」
俺はそう言うとそのまま偃月刀を男の胸へと差し込んだ。ラパンと言う男は既に丸裸も同然だ。侵入と同時にトニーさんはクロが確保している。周りの雑魚はシンディが既にケリをつけている。なかなか良い動きだった。
そして最後に女性たちは俺が管理下に置いた。早い話、ラパンはキョロキョロして逃げる隙を伺っているだけだ。
「お前、ラパンと言ったな。一応聞いてやる。お前のボスは誰だ?」
「そ、それは」
「別に言わなくても良い。そこら辺に転がっている奴らから聞くだけだ。だが逃げるのは頂けないな。いいか? その足で逃げようとすればその足を切る。その手で自害しようとすればその手を切る。その口が何も話さなければその首を切る」
「俺に手を掛けたらボスが黙っていないぞ!」
「心配するな。ボスの所には後で俺から出向いてやるさ。まあ俺としてはお前は逃走に失敗、自害も失敗、挙句何も話さないってのがベストだ。さあ走れ」
俺は一歩ずつラパンの下へと歩を進める。
「うああああああ、来るな! やめろおおおおお!」
「時間切れだな」
間合いに入り偃月刀を振り上げたまさにその時、
「仮面の男よ、そこまでだ。」
アッガスとボニータ、そして王国騎士団が入ってきた。
「......アッガスか」
「後はこっちで引き受ける、良いよな?」
俺は少しの間、アッガスとその眼を交錯させる。
「ああ分かったよ。それで問題ない」
俺は偃月刀を下ろしラパンをアッガスの方へと蹴り飛ばした。
「任せておけ。明日にでもこちらからフェルナンデス家へと話を聞きに行く。今夜中に全て解決させてな」
「そうか、それなら良いさ」
ラパンはアッガスと俺を交互に見て叫んでいる。
「なんだよ? おかしいだろ、何でロイヤルジャックと王国騎士団が動いてるんだ!? おかしいだろうがよぉ!」
アッガスはその問いには答えずに後ろの団員へと声を掛けた。これから確実に死ぬであろうこの男に理由を話す義理も意味もないしな。
「おい、向こうの部屋でコイツから聞き出せ、全部をな」
アッガスはラパンの首元を掴むとそのまま騎士団の方へと放り投げた。
「すぐに殺してくれと言うだろうが全部話すまで殺すな」
「はっ」
ラパンはそのまま引きずられて行った。それを見送ってから俺はソニアの方へと振り返った。
「ソニア、済まないが彼を頼む」
「ええ、分かったわ」
ソニアは自分の上着をリリーに着せている所だったが直ぐにトニーさんの方へと向かってくれた。トニーさんはかなりの出血が見られるがソニアから治癒魔法を掛けてもらうので大事には至らないだろう。
そして俺はリリーの所へと歩いて行った。
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