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よろしくお願いします。
「リリー、無謀と勇猛は違います。今回あなたのした事は決して褒められるわけではありません。仮にも特権階級の者が後先考えず、更には護衛もつけず火の中へ飛び出すなどあってはならないことです」
「ご、ごめんなさい。でも...」
「でもなどと言う言葉は聞きたくありません。あなたの意識の問題です。これに関しては後から少しリリーちゃんに説教です。とにかく、あの御者が応援を呼んでくるまで建物の中の様子を探りましょう。良い事? 酷い事を言うようだけれどトニーさんの無事が確認出来たらひとまず警備を呼びに行きます」
「そう、ですね。まずは無事が確認出来たら」
そして私たちは建物の近くへと忍び寄っていった。建物の横側から中を覗くと椅子に座らされたトニーさんが見えた。酷く殴られている。一体何があったと言うのだろうか? リリーちゃんは驚きまた飛び出しそうになるが、私はそれを抑えた。
「まだよ、リリーちゃん。心配なのは私も同じよ。でも出て行ってすぐ解決すると思われる状況ではないわ」
周りには武装した獣人がかなりの人数揃っており、体つきを見ても武芸に秀でていると分かる。特に何人かは異常なほど筋肉が発達している。彼がトニーさんを殴らないのは恐らく殺さない為だろう。その中に女性が飛び込むなど普通有り得ない。サティやシンディクラスなら話も変わってくるだろうけど。
話の内容は上手く聞き取れないが、どうやら利権に関する話のようだ。砂糖に関する話ではないが、現在の商売に関する話のようね。あと、縄張りとか警備とかいろんな単語が飛び交ってるわね。
「ソニアお姉さま。恐らくフェルナンデス家がしている事業に一枚噛ませろと言う内容です。あと、縄張りにおいて警備や衛兵に取り締まりをさせるなとか」
リリーちゃんは獣人だから私より耳が良い。
「そうなのね。でもそんなことトニーさんに言っても逆効果じゃないの? 族長の息子に手を出したら死罪でしょう?」
「言いたくはないですが、歴代の族長が目を瞑って見てみぬふりをしてきた部分があるのです。お兄さまはそれを良しとせずお父さまとと共に組織の壊滅に尽力していたのですが...」
「そうだったのね。それは少し不味いわね」
「え?」
「もしトニーさんが首を縦に振らなければフェルナンデス家への見せしめとして殺される可能性があるわ」
「そんな......」
「要するにこのジャック一家はこの街の支配権を裏から握ろうとしているのよ。トニーさんが無理なら次に狙われるのはリリーちゃん、あなたよ。サティはリンクルアデルの獣人だから問題視されてないのかも。王国が
出てきてもフェルナンデス家が被害を言わなければ調べようもないから。」
「許せないわ」
「当然許されるべきではないわ。だけどここで重要なのはこの現場を警備に知らせる事なのよ。私たちが出て行ってもミイラ取りがミイラになるだけよ。まとめて葬られるただのエサになるわね。
ただ警備がジャック一家に抑えられているのであれば頼みの綱はフェルナンデス家だけになるわね。もしくは王国中枢へ報せる事だけど今からそれは不可能だわ」
私たちはどうすれば良いのか必死で頭を回転させていた。だから気付かなかったのだ、背後に迫る男たちの影に。
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「ブライト様! 御者が、街の御者が至急お目通りさせて欲しいと来ております。ソニア様の名前でヒロシ様に取り次いでほしいと!」
「なに! すぐに通せ!」
「は!」
突然、執事が部屋へと駆け込んできた。ソニアからの伝言と言ったのか? お義父さんはその者を通すように申し伝えると、直ぐに御者は中へと入ってきた。
「ソニアさんからの伝言だと聞いた。発言を許す」
「へ、へぇ。ブライト様とヒロシと言う男に間違いなく伝えろと言われております。ヒロシと言う男は?」
「俺だ、話を頼む」
俺達は話を聞いた。端的に言うと二人は事件に巻き込まれたわけではないが、巻き込まれようとしている所だ。で、察するところ巻き込まれているのは恐らくトニーさんだろう。ソニアがいる限り安易な行動はしないとは思うが早く助けに行くに越したことは無い。
しかし昔から続くマフィアとの癒着か。それを正そうとはフェルナンデス家も大したものだ。しかし、そんな理由など今は関係ない。まずはトニーさんの救出だな。そして俺に関係する人に手を出したことを後悔してもらおう。
「お義父さん、警備が信用できない以上、私が先に向かいます。いえ、ご心配はご無用です。クロードとシンディが居れば何とかなるでしょう。今は時間が惜しい。お義父さんはすみませんがギルドへ行ってもしアッガスかボニータがいれば話を通してもらえますか」
俺は続ける。
「ギルドとマフィアの癒着は無いと信じたいが安心はできない。もしアッガスたちがいたら俺のお願いだと言えば動いてくれるはずです。お義母さんはサティの側にいてやって下さい。アリスは子供たちの所へ。クロ、シンディ直ぐに出るぞ。そこの御者、悪いがソニアを下ろした場所まで連れて行ってくれ」
「いやでも、あっしは......ヒィッ! 分かりやした。そ、そこまで案内致しやす」
「それで良い。ではすぐに行くぞ」
少し殺気をぶつけてしまったがまあ仕方ない、今は時間が惜しいのだ。御者と押し問答している時間などない。俺達は直ぐに馬車へと飛び乗った。警備は当てにならない。衛兵は万が一のことを考えてフェルナンデス家の警戒態勢だ。
お義父さんからは族長家に直接手を出したのが確認できれば、俺は関係者としてその場で処罰が可能と既に聞いている。また男爵家の関係者でもあるからいわば問答無用で処罰できるが外交問題もあるのでフェルナンデス家として対応したいだろう。
確かに色んな理由があるだろうな。だが俺には関係ない。ソニア、もちろん他の人達もだが、に万が一の事があれば俺は絶対に許さないだろう。無事でいてくれ、早まらないでくれ、その一心で俺は拳を握り締めた。
馬車は夜の道を全速力で街へと駆けてゆく。
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