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よろしくお願いします。
しばらくして私は思いついたことをリリーちゃんに聞いてみることにした。
「トニーさんは護衛を付けないのね?」
「お兄さまは基本的に一人で動くことが多いわね。その...ヒロシさんはどうなのかしら?」
「ヒロシさんも基本は一人だけど大抵執事であるクロードが傍にいるわ。たまにシンディも連れてるかしら? トニーさんも護衛は付けた方が良いんじゃないかしら?」
「兄は警護されるのが好きじゃないようで...シンディさんは冒険者ですよね?」
「でも、族長の跡取りなんだから警護は必要よ? えーと、シンディね。うーん、正確にな元冒険者かしら? いまは色々とヒロシさんの商会のお手伝いをしてるのよ」
「クロードさんは?」
「クロちゃんは執事と護衛を兼ねてるわね。ヒロシさんもだけど一応冒険者でもあるのよ。いつもヒロシさんのバカな事に付き合わされてるけど楽しんでるわね。兄弟みたいよあの二人」
「はい、見ていてすごく仲が良いのだなと思いました。クロードさんもシンディさんもあの男...じゃなかったヒロシさんを尊敬しているかのような......狼獣人はプライドが高いのに意外です」
「まあ、最初は色々とあったのよ? でも忠誠を誓っているのは間違いなくヒロシさんにだけね。あ、もちろん私たち家族に対しても同じように誓ってくれてると思うけど」
「要するにヒロシさんの大事な人は護衛対象って事ですね」
「そう言う事よ」
「クロードさんとシンディさんは相当な武の実力をお持ちなのだと感じました」
「そうかもね? サティにしごかれてるし」
「お姉さまに? 納得です。それで...ヒロシさんはどうなんですか? その武の腕前としては」
「え? それは...そうね。弱くはないわねきっと」
「弱くはないと。そのレベルという事なのですか? いや、決してバカにしてるわけではないです」
「分かってるわよ。でも日常的に争こともないから......そうね私がヒロシさんの戦う所を見たのは、うーん、二回ほどかしら」
「どうだったんですか?」
「盗賊のお頭に絡まれて、あ、その時は盗賊だなんて知らなかったんだけど、お金を渡して勘弁してもらおうとして殴られてたわね」
「格好悪いじゃないですか!」
「何言ってるのよ。私も居たんだから、まずは穏便に済ませようとするのが普通じゃないかしら?」
「でも」
「なんでも力業で解決できるわけではないわ。まずは話し合い。これって大事な事よ?」
「はい......で、その盗賊ですか? はどうなったんですか?」
「しばらくしてギルドと警備で御用となったわ」
「そうですか、良かったですね。それで二回目の戦闘ってどんな感じだったんですか?」
「ええと、二回目ね...」
これは言うべきじゃなかったわね。バルボアでの事は言えないわ。一回にしておけば良かった。
「...ソニアお姉さま?」
「え? ええ、二回目ね。それは...あら? あれはトニーさんじゃないかしら? 今度は何やら雰囲気が違うように見えるわね」
そこにはガラの悪そうな男たち数名で取り囲まれながら歩くトニーさんの姿があった。あ、馬車に乗せられたわ。大変!
「すぐに警備に知らせた方が良いわね。良くない雰囲気だわ」
「大変、直ぐに行かないと!」
「あ、待ちなさい! 護衛を待ってから、あとまずは警備に連絡しないと」
リリーは慌てて店から飛び出して行った。仕方ない、リリーちゃんまで見失う訳にはいかない。私も続いて後を追いかけた。
「フェルナンデス家のリリーよ、あの馬車を追いなさい! 近づきすぎてはダメよ」
馬車に飛び乗ってすぐに指示を出すリリーちゃん、行動が早いことを評価するべきか諫めるべきか。だが緊急事態には違いない。あとは戻ってきた護衛がはやくフェルナンデス家へと連絡してくれることを祈るばかりだ。
馬車は裏路地へと入っていく。こうなると人通りも少なくなるので馬車を馬車で尾行するなど怪しいことこの上ない。かなりの距離を開けるように指示を出しゆっくりとついていく形へと切り替えた。
しばらくすると馬車は止まり闇に紛れて男たちが暴れる男を建物の中へと連れて行った。私たちは一つ前のブロックで馬車を止めそこから歩いていくことにした。
「ソニアお姉さまはこのまま戻って」
「バカね、何を言っているの? このまま一人で行かせるわけないでしょう? このまま引き返して応援を呼ぶ方が賢明だと思うわ」
「でも、その間にお兄さまに何かあったら......お兄さまは決して強くないのです。私の方が強いくらいなんです」
「でも悪いけどリリーちゃんが実戦向きだとは思えないわ。それに相手も素人ばかりだと言う保証はないでしょう。ふう、仕方ないわね。それじゃあ中の様子を見て、無理だと分かったらすぐに応援を呼びに行くのよ。御者さん、あなたこの建物の持ち主は知っているの?」
「へえ、持ち主は知りませんがここは悪名高いドン・ジャック一家の縄張りでさぁ。恐らくその仲間がいるかと」
「それじゃあ、警備を呼んできてくれるかしら?」
「悪いがそれはできねぇ」
「なぜ?」
「もし俺が警備を呼んだのが知れたら、俺の家族が何をされるか分からねぇ」
「そこはフェルナンデス家が保証すると言っても?」
「ダメだぁ。奴らもドン・ジャックとつながりがあるやつが多いんだぁ」
「何てこと......それではここから少しあるけれど、直接フェルナンデス家に行くのは問題ないわよね?」
「ああ、それなら問題ねぇ」
「ではこのまますぐにフェルナンデス家に行って事情を話して頂戴。あと、間違いなくヒロシと言う男にこの事を伝えて。良いわね?」
「分かった。必ず伝える」
「これはお駄賃よ」
私はポケットから金貨を1枚出して彼に渡した。
「こ、こんなに!?」
「ええ、でも間違いなく話しを伝えるのよ? もしこのまま逃げたら死ぬより辛い目に遭うと思いなさい」
「わ、分かりましたぁ」
御者はそう言うと馬車を反転させて路地の裏へと消えていった。
「ソニアお姉さま...」
ちょっとリリーちゃんが引いたかしら? でも仕方ないわよね。緊急事態だから。でもちょっと言っておかないといけないかしら。
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