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よろしくお願いします。
のんびりと過ごす休日のなんと気持ちの良い事か。降り注ぐ太陽、南国特有の植物、フルーツジュース。だがフェルナンデス家のプールの横を最初の場所に選んだのが失敗だった。今の俺は子供の水鉄砲による攻撃に耐えきれずビショビショだ。
「ぬおおお、許せん! おとさん流、水大砲をその身に受けてみるがいい!」
俺の水鉄砲はハッキリ言って巨大だ。そして穴を複数開けているので水はシャワーのように放出される。俺は水鉄砲をシュコシュコ動かし子供たちへと雨を降らせる。
「キャー! おとさんズルいわ!」
「うわー! 逃げろー」
「どこまで逃げることが出来るかなぁ! ホレホレホレー」
俺は水鉄砲(大)を小脇に抱え子供たちを追い回す。その横、プールの中ではシンディが浮き輪を使って浮いている。クロはその浮き輪につかまってあっちやこっちやに押しながら移動している。意外と上手くやっているじゃないか。ここは気分を変えるか。
「シェリー隊員、ロイ隊員!」
「「はい隊長!」」
「見ろ! あそこでこの戦闘に加わることなくのんびり浮いている狼獣人を! この戦闘の最中にプカプカ浮いているだけで許されるのか! いや許されん!」
「「はい」」
「攻撃せよ!」
「「アイアイサー!」」
俺たちは三人でシンディとクロに水を浴びせてやった。皆でキャーキャーやって散々濡れてしまったが楽しいぜ。子供たちも大満足してくれた。お昼ご飯を食べると子供たちは疲れたのか眠くなったようだ。アリスが奥へと連れて行ったけどお昼寝かな?
「なあ、俺達も街へ行ってみようか?」
「良いですね、お供しますよ」
「子供たちが起きるかもしれませんので私は留守番で」
基本アリスがいるから子供たちは大丈夫なんだけど、シンディは子守りを積極的にやってくれる。近い娘がいるから、と言ってもシャロンとは血が繋がっていないがとにかく有難い話だ。
「そうか、じゃあ行くか。シンディと子供たちにはお土産を買ってくるよ」
お義父さんに言うと近くまで馬車を用意してくれるというので甘えることにした。トニーさんは仕事でいないそうだ。トニーさんは元々フェルナンデス家の為に頑張っているらしく、それに加えて今回の話で燃えているそうだ。穏やかで頼りがいのある人柄が好ましいハンサム狐獣人だぞ。花嫁募集中だ。
街へは遠くない。ロングフォードと街までの距離感と同じくらいだな。街の入り口付近で馬車を止めてもらってグルっと回ってくるつもりだ。屋台で美味い串があれば食べよう。馬車は待ってくれるそうなので助かるぜ。
街の様子は一言で言うとアジアだ。昭和初期の日本と言った方が良いのか? 雑踏の中で店がひしめき合っている。屋台に露店、レストラン。ドルスカーナの経済が上手く回っていないとはこの状況を見ても誰も信じないだろう。ウエストアデルでも食べたが、料理は何と言うか多国籍風だ。
「クロ、この国はこれから成長期に入るだろう。この賑わいがもっとすごくなるぞ」
「そんなに忙しくなるんですか?」
「間違いないだろう。リンクルアデルの場合その医療品はほぼ全てをNamelessが引き受けているが、今回の砂糖は誰でもできるキビサトの製造だ。国の生産計画にもよるが最初は作りまくるだろう。だれもがキビサト農家になる可能性すらある。なんせ国が買い上げるんだからな」
「前に言ってましたね。金を持つと使う。正しく使うと経済は回ると」
「そうだ。獣人は誰もが戦闘を好むわけではない。農耕種族と冒険が好きな肉食系種族。冒険者家業が多いドルスカーナだろうがこれからは農耕種族も金を持ち始める」
「全体的な底上げになるということですね」
「その通りだ。国外売りにはドルスカーナが口を出さないことは知っての通りだ。Namelessも忙しくなるだろう」
「レイナさん倒れるんじゃないですか?」
「そうなんだよなぁ。どうしよう? ただこっちの商会はドルスカーナの人間でやった方が良いと思うんだけどな。レイナはたまにきて指導するみたいな?」
「でもアルガスはロングフォードとローランド。それとアデリーゼ、ドルスカーナのレインヒルズにフェルナンデス、あとウエストアデルも考えてるんでしょう?」
「う、うむ」
「レイナさん発狂するかも」
「流石にレイナもしんどいよなぁ。そこは真剣に考えよう」
屋台で食べるものは美味しく感じるのは何故だろうか。器が微妙に小さいのがまたいい。普段から食べている人は物足りないかも知れないが色々食べれるのが嬉しい。基本的に安いのでお替りしても良いしな。ドルスカーナでは一般的に家庭では料理をせず安いので皆で外で済ますことが多いそうだ。
ソニアとリリーともしかして会うかなと思っていたが会うことは無かった。俺達は一通り街を満喫した後で屋敷へと戻ったのだった。明日には一度リンクルアデルに戻るつもりだ。今日は早めに休むとしよう。
そう思って戻ってきたらサティが風邪を引いて寝ていた。
「珍しいな、大丈夫かい?」
「ごめんなさい、少し休めば大丈夫よ」
「別に無理する必要はないさ。急いで帰る理由も無いからゆっくり治すと良い」
「ごめんね。でもブルワーク24をこんなに飲めないわよ?」
「気にしなくていいよ。あとブルワーク24は栄養剤だからね、まあ全部飲む必要はないんだが......」
「ふふ、わかったわ」
俺はサティの額に乗せているタオルを取り換えながら話した。ベッド脇には栄養剤であるブルワーク24をずらりと並べてある。最近はあれやこれや忙しかったしドルスカーナでのイベントで気を使う事が多かったかも知れないな。
「ゆっくり治して皆で一緒に帰ろう」
「ありがとう」
サティはしばらくすると眠ったようだ。気丈に振舞ってはいるがかなり高い熱だったからな。2~3日で治れば良いけど。上級ポーションは体の内部に作用するが万能ではない。風邪位なら自力で治した方が良いのだ。
そして、帰れない理由がもう一つできた。
この時間までソニアとリリー、そしてトニーさんが帰ってこないのだ。
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