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よろしくお願いします。
「その時は、製造方法は公開せずリンクルアデルで砂糖を作るまでさ。材料はフェルナンデス家から買ってね」
「そっちの方が良かったんじゃないの?」
「あまり良くは無いな。既に王家は巨万の富の存在を知っている訳だ。それをフェルナンデス家が独占したとしたらどうする?」
「ヤバいわね」
「そうだ。そうなった後でフェルナンデス家を叩いても、生産はリンクルアデルでしてるから手は出せない。だから陛下は無理だと言ったお義父さんを認めさせるために、フェルナンデス家での製造とNamelessの介入を許さざるを得ないってことだ。そしてNamelessは必要以上に利益を上げず、そのほぼ全てをドルスカーナに渡すと言ってるんだ。乗らないはずはないさ」
「なるほど分かったわ。その...中々よく考えてるじゃないの」
「そうだろう、そうだろう。分かってくれたかいリリーちゃん?」
「ほ、褒めた訳でもないし認めた訳じゃないんだから、勘違いしない事ね!」
「なんと扱いにくい小娘であるか......」
「何か言った?」
「何も言っておりませんです」
そんなこんなありながら話も一段落して窓の外を見ていると竹林が見えた。こちらではバンボ―というらしい。もう竹でバンブーで良いじゃないかと思うがバンボーだ。間違えてはいけない。
「ん? クロ、あれってバンボー林じゃないか?」
「そうですね」
「久しぶりに食べたいよな」
「そうですね、最近ご無沙汰ですよね」
「久しぶりに行くか? 狩りによぉ?」
「フッ、久しぶりですね。最近は薬草採取ばかりで気が滅入っていた所ですよ」
「え? 狩りに行くのですか? わ、私も同行してもよろしいでしょうか?」
「なんだシンディも行きたいのか? まぁそりゃ構わないけど」
「結構腰に来るかも知れませんよ?」
「な、なんと、そのような大物を狙っているのですか? バンボー林にいる獲物、気になります」
「まあそう構えることもないさ。明日は狩りの時間を楽しもうぜぇ」
「腕がなりますね。クックック狩り尽くしてやりましょう」
「足を引っ張らないように頑張ります!」
そんな話をしているとサティと目が合った。
「と言う訳でなんで、明日の朝に馬車を借りて良いかな?」
「良いわよ。じゃあ明日のご飯は期待してても良いのね? あれ、結構美味しいのよね」
「もちろんだよ、期待して待っててよ。朝早く出るから昼には戻れるかな?」
「分かったわ」
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そして次の日。俺達は首にタオルを巻き、カゴを担いでバンボー林の前に立っている。朝日が眩しいぜ。ん? 戦闘服に身を包んだシンディがプルプル震えているじゃあないか。どうしたんだ?
「どうしたシンディ?」
「狩りと言うので来てみたらどうしてカゴを背負っているんでしょうか?」
「狩りだけど魔獣じゃなくてバンボー狩りだよ。バンボの子って言うんだが美味いんだよ」
「いや、でもしかし」
「シンディ、強くなる前にまず生きねばなるまいよ。その為に色々な経験をしておくのはきっとお前の為になる。そうだろう?」
「それは確かにそうなんですけど、若干の悪意を感じます」
「うむ、答えは出たようだな。あと細かいことは気にするな。それではクロ、お前はシンディに採取方法をしっかり教えてやるんだぞ」
「アイアイサー」
「と言う訳でシンディはクロに着いて行きなさい。あと、山の中で襲ったりしないように」
「しませんよ! でもありがとうございます」
「それも気にするな」
シンディの困惑する顔が見たくて少し意地悪をしてしまったお詫びだ、とは言わなかった。こういう時だけクロは俺に合わせるのが上手いんだよ。悪い顔して何が『クックック』だよ。アイツホントは空気が読める男なんじゃないだろうな?
俺は黙々とバンボの子を掘り出し手際よく背中のカゴへと放り込んでいく。時折り遠くでシンディの楽しそうな声が聞こえてくるぞ。シンディよ、来てよかっただろう?
「確かに腰に来ますね」
「そうだろう? 結構辛いんだよ」
採取が終わって斜面でお茶を飲んでいる。カゴを脇においてタオルで汗を拭きながらバンボの子狩りの極意を話し合ったりしている。どっからどうみても農作業の一家だな。ついでにバンボーも形の良いものを切り出して持って帰るつもりだ。お皿にもなるし水鉄砲とかが作れるからな。シェリーとロイに作ってやろうと思っている。
屋敷に到着するとサティとソニアがメイドと一緒に出てきた。ドルスカーナではバンボの子を食べる習慣はあまり無いらしく、これから食べ方を色々と教えてあげるらしい。基本肉食だからなのかな? もしかしたら草食系の獣人は食べているのか? まあ何でも良いか。サティは気に入っているから大丈夫だろう。
庭でちょっとしたBBQをしながら皆で遅めの昼食を取っている。子供たちは食べたり遊んだり元気だ。持って帰ってきた竹で水鉄砲を作ってやったら大喜びでその辺りのものめがけて噴射しまくっているぞ。
お義父さんがこう言うのも売れるかもなとか言っているので、族長の知り合いの商店にでも販売権を与えて作らせたらよいとアドバイスしておいた。義兄のトニーさんはその辺りに興味があるらしくよく商売についての話をする。
これからはトニーさんは本当に忙しくなるだろう。お義父さんは族長としての仕事もあるだろうから、工場の運営は実質トニーさんが仕切らなくてはならない。その辺りの覚悟はあるのだろうな、商売について色々とアドバイスを求められたのでアイデアをあげることにした。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。