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よろしくお願いします。
フェルナンデス家が行うのはシュガの実の栽培と黒砂糖及び白砂糖の製造。これらが秘匿事項になる。特にシュガの実がバレれば黒砂糖までは思いつかれる可能性がある。陛下はフェルナンデス家に強く指示を出していた。漏洩したら全員死罪というくらいの勢いだったが仕方あるまい。大きな仕事にはそれなりのリスクは伴う。
だが、ブライトさんがその重圧に耐えきれず泣きついた。二つの原料がフェルナンデス家に集まるのだ。想像する輩が出てくる可能性は大いにある。勝手に想像された挙句一家全員死刑では目も当てられぬと。
そこで俺は提案した。シュガの実をリンクルアデルへ輸出し、加工してからフェルナンデス家へと返すと。元々シュガの実はキビサトの使用料に対して少ししか使わないので細かく加工すれば馬車一台で数ヶ月は持つだろう。
更に名前もシュガの実から例えばコショウなど全く違う名前に変更して出荷する訳だ。こうなると結びつけることは容易でなくなる。Nameless側の守秘に関する決め事はもう通例化しているから管理も問題ない。
そしてそれに関する費用は国外へ販売する時に上乗せするから問題ない。こうして全ての問題が片付き、砂糖作りプロジェクトは本格化していくのだった。
「陛下、妃様この度はありがとうございます」
「礼を言うのはこちらだ。これでドルスカーナも救われるだろう」
「救われた後、世界は陛下の事を砂糖王と呼ぶことでしょう」
「はは、シュバルツは賢王、ワシは百獣の王で砂糖王か。これは良いな」
「色々と難しい部分はお任せする形となり申し訳ありません」
「その辺は気にせんで良い。こちらでやるべき事でもあるしな。それはそうと近々シュバルツとは会談する予定でな。良い土産話が出来たわい。ああそうだ、商店に関することは全てロッテンに言うといい」
「そちらはいつでも構いません。砂糖が生産可能な状態になった頃で大丈夫です」
「そう言ってくれると助かる。恐らくロッテンはこれからしばらく寝れないからな。ガハハハハ」
「ドルスカーナの為です。私は頑張りますよ」
そんな事を言いながら俺たちは王城を後にしたのだった。
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馬車の中で、リリーが俺に話しかけてきた。珍しいな、お兄ちゃんは嬉しいぞ。
「何でも聞いてくれ給えよ、リリーちゃん」
「あなた本当にムカつくわね」
「すみません......で、何かな」
「あなた、今回の話をどこまで考えて、いや読んでたのよ?」
「いつも成り行きなんで、エヘヘ」
「嘘つくんじゃないわよ! お姉さま、いつもこんななのこの人?」
「言いたくないけど大体こんな感じなのよ」
「よくお姉さまがキレないか不思議だわ」
「昔は切りつけたこともあるのよ」
「そ、それはやりすぎだと思うけど...アナタよく生きてたわね?」
「そこは自分自身信じられない所ではあるな」
「ヒロシさん、リリーちゃんに話してあげれば?」
ソニアが横から援護射撃をしてきた。そう、今回の話は俺の予測に基づいているのだ。いやらしい言い方になるが、ほぼ全て俺の思惑通りといったところだ。サティとソニアが今回口を開かなかったのもこの辺りに理由がある。しかし、リリーはソニアにリリーちゃんと言われても怒らないんだよな。むしろ嬉しそうに話をしている。解せぬ。
「リリーちゃん、言っても怒んないかな?」
「そうそう怒んないわよ。それよりちゃん付けするなって言ってるでしょ、殴るわよ?」
姉妹とはこうも似てしまうものなのか。
「ちょっと言いたくないんだけどなぁ」
「言いなさいよ、殴るわよ?」
怒っていないだろうか? だが脅迫は良いとでも言うのか?
「ええとね、お義父さんが泣きつくところまで......痛い!」
殴られたぞ。ななな何をするんだこの小娘は!
「それって全部じゃない! お父さまをコケにしたわね!」
「ち、違うと言うか違わないと言うか。そうしないと商売にだな......痛い!」
「何が商売よ、この鬼畜! 人でなし!」
「に、二度も打ったな......親父にも殴られたこと...あるけど」
俺が頬に手を当ててブツブツ言っているとサティとソニアが間に入ってくれた。
「ちょっと落ち着きなさいよリリー。ちゃんと理由があるのよ」
「お姉さまもソニアお姉さまも知っていたの? 酷いわ!」
ソニアがお姉さまで俺は鬼畜の人でなしかよ。随分と差が開いちまったな。
「リリーちゃん、落ち着いて頂戴。フェルナンデス家に自然に仕事を持って来るには泣きついてもらう必要があったのよ。そうしないとフェルナンデス家が国営企業になる事にヒロシさんが口添えしたという印象が強く残っちゃうのよ。そうなるとゆくゆくフェルナンデス家が砂糖の利益を独占したと思う者が出てくるわ」
「そうよ、リリー。もし国が決めたのではなくNamelessの会長の指示だと公になれば暴動が起きるかもしれないわ。利権と金は怖いんだから。だからフェルナンデス家が一旦無理ですと断ったのを陛下自らが決めて、その王令を受けさせる必要があったのよ」
「そうなると何かが起きても、陛下がご自身でお決めになられたことだって妃様含め皆がそう言ってくれるわ。製造方法の秘匿は絶対条件なの。ヒロシさんの信用しているフェルナンデス家以外での砂糖製造は危険なのよ。もし情報が漏れたらドルスカーナの優位性は一気に無くなるわ」
「......分かったわ。でももし陛下がフェルナンデス家を選ばなかった場合はどうしたのよ?」
そこでリリーは再び俺を見た。話すけど殴るなよ?
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