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よろしくお願いします。

「リリーちゃん、『ふぁ!』って声が出てたね」


「うるさいわね」

 

 この男は本当に何度も何度も気軽に私の名を......しかし私は頭では理解していると思っていたがヒロシと言う男を少し軽く見過ぎていたかも知れない。陛下と妃様、そしてロッテン内務卿に対して一歩も引かない交渉術。


 胆力があるのか何も考えていないのか。いえ、何も考えてない人がこの場でこのメンツを前に話ができるはずもない。お姉さまはこういう所に惚れたのだろうか?


 そして一番驚いたのはフェルナンデス家を国営企業の候補に挙げた事だ。ナタリア様は予想していたようだが、これはどうなんだろうか? 秘匿情報を教える形として無理やり企業になってもそれはあまり良くないのではないか? それが生み出す軋轢についても何か考えがあるのだろうか?


 私は横で談笑するヒロシを見て考えていた。どこから見ても飄々とした優男にしか見えない。私はヒロシと言う男を計り切れないでいたのだった。



------------------------------



「やっぱりフェルナンデス家を出してきたわね」


「ナタリア様の予想通りでした」


「それについて、何か問題があるのか?」


 陛下は私の前においてある小皿を取りながら聞いてきた。


「ちょっと、欲しいなら小瓶から出して下さいな。私が全部舐めたと思われるでしょう?」


「まあ、良いではないか。しかしこれは美味いのう」


「ロッテン、あなたの意見を聞きたいわ」


「はい、商店を出す事は良いとして問題は国営企業にフェルナンデス家を指定するかという事です。それについても私としては特に問題無いかと思っております」


「続けて」


「先ほどの流れでは国内の製造販売における利益についてNamelessは要求を出しておりません。言葉は悪いですがドルスカーナの全取りです。国外販売にしてもドルスカーナでの出来高の上前を撥ねる訳ではなく、購入してからの転売という形でドルスカーナは損をしません」


「そう、商売としては至極真っ当と言えるわね。欲が無いのかしら?」


「その欲の部分を『願い』に変えているのでしょう。それがフェルナンデス家なのではないでしょうか? 彼がこの度見つけた製造方法は確かに秘匿するべき情報です。国宝級でしょう。彼はそれを自国に持ち帰る事が今でも可能なのです。フェルナンデス家と独自に契約をすれば良いだけの事なんですから」


「確かにそうなのよね」


「この国を思うと同時に妻やその家族の事を考えて、そして自らの億万の利益を捨ててドルスカーナへその情報を託す。せめてフェルナンデス家を使ってくれないかという願いなのでは......と」


「恐らくはそうだろうな、ロッテンよ我もそう思う」


「陛下」


「皆も知っての通り、白砂糖の量産が出来れば個人なら億万の富を手にすることが出来る。それをタダ同然でドルスカーナへその全てを提供すると言っておるのだ。その条件は言ってみればフェルナンデス家を使う事だけだ。あの男、巨万の富を捨ててまで義を重んじるか......大した奴だ」


 更に、と陛下は続ける。


「国宝級になるであろう秘匿情報を知らぬ奴には渡せぬ。もしそうした後で情報が漏れたとしよう。誰がどう責任を取るのだ? ヒロシが我らと取引することはもう二度とあるまい。そういう意味でもサティの実家であるフェルナンデス家が一番扱いやすいのだ」


「なるほど『願い』と引き換えに...ね。分かる気がするわ。それでいて現実的ね」


「そうだ」


「それにしてもよくリンクルアデルのシュバルツ国王は、彼を手元に置いておくことはせず自由にさせているわね? いや、でも公共事業に国王のメダル、更には男爵家令嬢との結婚。そう思うと上手くやっているのかも」


「もちろん神託があるからあからさまに抱え込む事はせぬだろうが、その手腕は流石世に聞く賢王と言える。しかし条件はこちらも整いつつある」


「そうね、でもライガード様の神託に背くような事は......」


「分かっておるわい、とにかく国営企業にフェルナンデス家を、という条件は飲む。それがドルスカーナにとっても一番良い選択だ。では、ヒロシとフェルナンデス家を呼んで参れ」


「畏まりました」


 そう言うとメイドは部屋を出て行った。



-----------------



「と言う訳だ、それで異存ない」


「ありがとうございます。それでは後のやり方についてはロッテンさんに対応して頂く形で」


「それで肝心の製造方法とは?」


「ここまで勿体ぶってアレなんですけど、驚きますよ? それ、キビサトなんですよ」


「は?」


「え?」


「キビサトですって?」


 まあ、こういう反応になるだろうな。皆口が開いたままだ。この地で簡単に自生するキビサトの優位性、街の外に出ればどこにでもあるのだ。強くてどこでも育ち、切っても切っても生えてくる。誰でも種を植えるだけで勝手に育つんだ。まさに金の成る木だ。


「そしてこれを黒砂糖に変え、更に白砂糖に進化させる魔法の材料、それはシュガの実です」


「もはや信じられん。どちらも雑草ではないか」


「本当の事なの?」


「はい、どこでも自生するこの二つの植物、これこそがドルスカーナを救う切り札となるのです」


「私たちは何年もお金を燃やしてきたわけね。恐ろしい」


「だからこそ、誰も気が付かないのですよ。これは秘匿に値すると思いませんか?」


「その通りね」


 俺は特にシュガの実について厳重に管理するように改めて強く勧めた。キビサトだけではただの雑草なのだ。シュガの実が無ければキビサトはその効果を発揮できない。


 それを聞いた陛下はこの場でキビサトとシュガの実の厳重管理についてフェルナンデス家はもちろん、その場に要るもの全てに正式に申し伝えたのだった。




お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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