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よろしくお願い致します。
「それではお話させて頂きます。国家事業と言いましたが、それを行う国営事業をして頂きたいのです」
「国営事業、また違う言葉が出てきたわね。まあ良いわ、それを含めて説明してくれるのでしょう?」
「勿論です。Namelessの商品はなぜNamelessの工場内のみで行われているか、それには製造方法に秘密があるからです。肝心な部分は従業員にも分かっては居りません。私しか知らないと言っても過言ではない。私はドルスカーナで砂糖事業を独占するつもりはありません。しかし民間にこの情報、商売を任せて他の商会や他国へ漏らさず秘匿作業を進める事は出来ますでしょうか?」
「できないわね」
「そう、ナタリア様もお気づきの通り、材料と規模があればこの仕事は金を生みます。そして何より製造方法が特殊なのです。その方法を教えるだけでも破格の金額で取引できるでしょう。信用できる場所以外での製造は極めて危険です。逆に材料があってもそれを知らない限り複製される心配はありません。つまり......」
「秘匿さえできれば砂糖事業はドルスカーナで独占できるという事ね?」
「その通りです。そしてその結果、」
「莫大な利益を生むわ」
「仰る通りです」
そこでロッテンさんが言った。
「つまり、その秘匿するべき情報を国家で管理することで利益を独占すると。その秘匿すべき作業を国家で管理して国営企業とする。そう言う事でしょうか?」
「仰る通りです。流石知恵の象徴と言われる羊族ですね、話が早い」
「ち、知恵の象徴?」
「あ、これは失礼。私の故郷では羊は知恵の象徴として崇められておりましたので」
「いえ、気にしなくて結構です。知恵の象徴ですか、そうですか」
「ロッテン、舞い上がるのは後にしなさい。それでその秘匿する方法についての具体案は?」
ナタリア様は良い所で締めてくるな。他の4人の妃様たちは後ろで話をしながら考えをナタリア様とロッテンさんに伝えている。まさにここがドルスカーナ経済の中枢と言って良いだろう。
ダルタニアス王を横目で見ると小皿を手に大きな体を丸めて熱心に砂糖を舐めている。なんとシュールな光景だろうか。でも、妃衆とロッテンさんが内務を司るというこの考えに間違いはないだろう。
「国が逐一管理するのでは大変ですので、国が領地内に立てた工場にて生産を行います。領主と国の担当者が基本的に運営していく形になります。そこだけでは材料が入手できませんので国が主原料を育てるという政策を立て全土へと通達を出します。主に白砂糖は2つの原料を使用します。そのうち一つだけを全土へと広めるのです」
「残る一つが秘匿にあたるわけね?」
「その通りです。ただしその残る原料を使用してもできるのは黒砂糖だけです。これだけでも秘匿情報には当たりますが、その先の製法で白砂糖を生み出すことが可能になる訳です」
「つまり黒砂糖の製法はもちろん、秘匿すべき最大の情報は、残り一つの原料とその使用方法ということね。よろしい、では貴方の条件を聞こうかしら?」
「大きく三つですね。一つ、国外への販売にはNamelessのみを代理店として必ず使用すること」
「それは......」
「国内販売はドルスカーナが握るのだろう? 国営とするならばむしろそうすべきだな」
突然陛下が口を挟んできた。聞いてたのか......しかし、驚いた。陛下少し見縊っておりました。
「あなた、いや陛下どういうことですの?」
「他国へと販売する場合、取引価格の決定はかなり慎重に進めなくてはならないだろう。『著しい価格変化は砂糖の独占によるものだ、それは不当だ』等と言い掛かりをつけてくる可能性がある。その矢面に国の中枢が立てばどうなる?」
「要らぬ争いの火種になるわね」
「そうだ、最悪だが戦争にまで発展する可能性がある。それをNamelessが全て引き受けると言うのだ。楽をさせてもらおうではないか。ある程度の利益、それでも相当な額になると思うが。お主はそれでも国は損をしないように考えておるのだろう?」
「はい、売上の2%を砂糖税としてお納めさせて頂きます。元々国外への販売はドルスカーナよりNamelessが買い取り、それを転売する形になります。砂糖の買い取り額にNamelessの儲けを乗せ販売する。その販売額に対して税金を納める訳です。」
「つまり?」
「買い取る際に国側には利益が落ちる訳ですが、Namelessが販売した後に更に税金が入るということです」
「ナタリア、他国との交渉もせずに利益が入るのだ。悪くはあるまい?」
「そうですね、Namelessが自ら軋轢を生むような事もしないでしょうしね」
「勿論です、争いを避けるための交渉はもちろん致します」
「二つ目は何かしら?」
「Namelessの商店を構えさせて頂きたいのです。私はリンクルアデルの商人ですが......」
「それは問題ありません、それで最後の一つは? まあ予想はしておりますが」
「ありがとうございます。それで最後なのですが、恐らくナタリア様のお考えの通りです」
「国営企業にフェルナンデス家を選べという事ね?」
「その通りです」
その瞬間、隣で『ふぁ?!』という声が二人分聞こえてきた。すまない、そこまでは話してなかったんだよね。農場もある、知らない人ではなくむしろ身内だ。俺的にドルスカーナでフェルナンデス家より信用を置ける人はいない。後は陛下の御心ひとつだが......
「それについては少しお時間を頂いても? なに時間は取らせません。悪いですが少し席を外して頂ければ」
「承知致しました」
そこで俺達は席を立ちメイドについて隣の部屋へと案内された。
お陰様で修正箇所については無事に終了致しました。
みなさま、また関係者様方にはご迷惑をお掛け致しました。
引き続きよろしくお願いします。