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よろしくお願いします。
俺はソニアとサティ、そしてお義父さんであるブライトさんとリリーを連れて王城に来ている。トニーさんは用事があるので代わりにリリーが来た格好だ。今回の商売に関してはフェルナンデス家にも噛んでもらうつもりなので来てもらったのだ。あとクロとアリスも助手として連れてきた。
今日は言ってみれば大事なプレゼンの日だ。国のトップに対するプレゼンにミスは許されないからな。助手は絶対に必要だ。お義父さんとリリーは緊張しているようだな。リンクルアデルと違い族長、つまり伯爵クラスが陛下と面談する機会はそれほど多くない。
「待たせたなヒロシ。だが思ったより日数が掛かったではないのか?」
陛下はロッテンさんとお妃様たちを引き連れて現れた。商売に関することだからお妃様たちも興味があるのだろう。陛下に任せておけないという意味も大いに込められているだろうけど。
「すみません、色々と実験に手間取りまして。やはり良い商品は簡単に生み出せるものではありませんでした」
「まあ、そうだろうな」
費やした時間のほとんどは小屋の修理だったのだが、それは言うまい。
「それで、最終的にお前の商品と言うのは出来たのだな? 見せてもらえると思っているのだが」
「もちろんです陛下」
俺は小さな奇麗な陶器の瓶を机の上に置いて蓋をゆっくりと開けた。粗末な袋に入れて置くような事はしない。こう言うのはイメージだ。いずれ袋に入れられて売られるだろうが、こういう時はこっちの方が良いに決まっている。それに特権階級の人達が屋敷で砂糖を出す時をイメージしやすくなるからな。
「なんだ、これは? 小麦粉か? いやスマン、ちょっと予想外でな」
「いえ、陛下お気になさらないで下さい。これは砂糖でございます」
「なに? 砂糖? バカを言うな、白い砂糖などあるわけがなかろう」
「お待ちになって下さい、陛下」
そこで口を挟んだのがナタリア様だった。来たか。話をするならこの人になるだろうと予想はしていた。恐らくナタリア様とロッテンさんがこの話の中心となるだろう。
「ヒロシさん、これが砂糖だと?」
「その通りです、もし良ければ少しお口にしてみませんか?」
俺は小皿を取り出しスプーンで軽く砂糖を掬うと小皿の上へとサラサラと流すように移す。白い粒はゆっくりと降り積もるように皿の上に小さな山を作った。そして俺はそれを人数分用意するとクロとアリスが手早く皆さんの前へとそれを運んでいく。
「陛下、お妃様、まずは私が」
ロッテンさんが申し出た。暗殺防止の為に当然毒見は必要だろう。別に気にしないさ。だが、ナタリア様はそれを拒否した。
「仮にもリンクルアデル国王のメダルを持ち、Namelessの会長でもある者がそのような事をするはずはありません。この国を憂い、手を貸してくれる彼に対して無礼に当たります。私が初めに口にする事に意味があるのです」
「は、失礼致しました」
「陛下もよろしいですわね」
「うむ、済まぬなナタリア」
本当は陛下だろうがそこまでは無理だろう。お妃様が味を見てくれることの意味、これは非常に大きい。俺に対する信用度は何も心配する必要が無いレベルと言って良いだろう。
「甘い......非常に甘いですわ。いつもの甘味料とは比べ物にならない......」
「なんと、では我らも頂くとしよう。うむ...むむむ、これはすごい」
皆、口々に感想を言い合っている。そうだろう、白い砂糖はこの世界初だからな。だが、勝負はここからだ。
「お気に召して頂けましたでしょうか?」
「うむ、驚いたぞヒロシよ。本当に砂糖ではないか」
「大変光栄です。それではこの商品戦略の説明をさせて頂いてもよろしいですか?」
「ええ、お願いするわ」
そこで妃様たちとロッテンさんがズイッと前に出てきた。
「この国の経済が伸び悩んでいる理由、それは人口の増加と稼げる仕事、つまり経済のバランスが悪いからです。今まで通りでは頭打ちになるのは皆さん危惧されている通りです。だからと言って新しいものを作り出すことは非常に難しい」
「ええ、その通りね」
「そこで、この砂糖です。砂糖の需要は国内だけでなく国外も非常に高い。そして高級食材でもあります。黒砂糖でも高級とされている中、この白砂糖がドルスカーナの主力生産品になったとすればどうでしょう?」
「もちろん売れるわね。それだけの材料と生産規模が出来ればだけど」
「そう、問題は材料と規模です。ここから前に進むために一つ提案です」
「何かしら?」
「この事業を国家事業としませんか?」
「国家事業?」
「はい、国家事業です。リンクルアデルでは国の事業を公共事業として運営しております。国が金を出し、私の商会、Namelessですね、そこが事業を引き受け完成させ、国へ利益返還する仕組みです」
「素晴らしい考えね、噂には聞いているわ。バイバス道路事業というやつね? 10日間の道のりを2日に短縮させたという。やはり考案者はあなただったのね? しかしそれを認めたシュバルツ国王、さすが賢王と言われる事はある......か」
「それをここで行うには一つ問題があります」
「そうね……貴方自身と言う事かしら?」
「その通りです、私がリンクルアデルの人間という事です」
「ドルスカーナでは侯爵クラスにしてあげるわよ? なんて言ったらダメだったわね。忘れて頂戴」
「嬉しいお話ですが、ここでは一旦置いておきます。ここからは色々な制約が絡んできます。秘密を守ってもらう必要が出てきますが、それでもよろしいでしょうか?」
「今更ね、続けて頂戴」
そして俺は話を始めた。今後のドルスカーナの命運を握ると言っても良い程の案件を。
物語全般において不適切な描写を修正しております。
あらすじや内容に変化はありませんので読み返す必要はありませんが、気になる方はご確認頂ければと思います。
お読み頂いている方やその他関係者様にこの場を借りてお詫び致します。
大変申し訳ありませんでした。
引き続きよろしくお願いします。
秋中月見