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今日は二話投稿できたら良いなと思ってます。
よろしくお願いします。
「どうしたの?」
「お帰りなさいませ旦那様」
クロがススーっと寄ってきた。無駄に気配を消すのが上手くなってきたな。俺はクロとアリスに上着を渡したりしながら姉妹が対峙しているテーブル付近へと目を向けている。
「少々面倒な事になっておりましてですね、ヒロシ様はこのまま部屋へ行った方が良い雰囲気です」
「そうなの? まあ見たら険悪な状況ってのはわかるけどさ。ソニアは?」
「この感じになってからシンディと子供たちを連れて部屋へと戻っております」
「揉めてる感じだけど周りの皆さんは? そのお義父さんとかお義母さんとか?」
「一応リリーさんの言い分にも一理あるらしく今の所傍観しておりますね」
「そうなんだ。それじゃこの騒ぎが終わったら俺の部屋にみんなできてくれるか? 今日の王室での出来事を一応みんなにも話しておきたいんだ」
「畏まりました、伝えておきます」
サティがチラッと目で見て訴えかけてきたので俺は部屋にそのまま戻ろうとした。クロの言う通りこの件には介入しない方が良いみたいだな。あれはこの場から離れろという合図に違いない。
「ちょっと待ちなさいよ!」
バレたか。バレるわな。振り向くとちょっと釣り目になったリリーちゃんと目が合った。
「なにかな?」
「帰ってきて挨拶もないなんてご挨拶ね」
なんだそのトンチの利いた言葉は。あるのかそんな言い回し。
「いや、お取込み中なようだったんでね。俺に構わず続けて下さい、それでは」
「あなた、仮面の男と会った事があるわよね?」
「え? 会ったというかなんと言うか、知ってはいるけど」
「ちょっと教えてくれないかしら。会わせて欲しいとお願いしているのにお姉さまは聞いてくれないのよ」
「当たり前でしょう。仮面の男はそんなに暇じゃないのよ、暇かも知れないけど」
サティが困っているな。ふむ、今回の揉めているお題目はマスカレードについてか。確かにこれは説明するのは難しかもしれんな。早々に逃げよう。
「悪いけど教えてあげれるほど知っている訳ではないんだよな。それに今日の式典でも詮索は禁止との話だったかと思うけど?」
「分かってるわよ。でも正体を知るのではなく会うくらいなら構わないでしょう? 正体を探るのを禁止されてはいるけど会う事は禁止されてはいないわ。でもあなた良く知っているわね? 式典の席には最後まで来なかったけど何処に居たのよ?」
「だからそんなに簡単に会えるほど暇じゃないって言っているでしょう、暇かも知れないけど」
確かに。リリーちゃん正論です。どこに居たとは言えないですけど。あとサティさんや。そこは暇じゃないって言い切っても良いんじゃないですか?
「俺はちょっと遅れたから来賓席には入り辛くて違う場所から見てたんだよ。確かにマスカレードさんに会うのは禁止されてないね。でもいつでも会えるほど友達って訳ではないんだよ。正体不明な人と友達になるってのもおかしいだろ?」
「あなたはともかく、お姉さまはリンクルアデルで共闘しているのよ? 知らないはずはないわ。リンクルアデルの禁止条項に入っているだけよ」
「なかなか鋭い......ゴホン。とは言えリリーちゃんと会う理由もないだろう? それを許してしまうと会いたい人が他にもいたら話がややこしくなるだろう? そこは陛下の言葉をもう少し広く受け止めるべきではないかな?」
「分かってるわよ、だから一度だけでも良いのよ! あと私をリリーちゃんなどと呼ばないでって言ったでしょう。私はもう一人前の大人なのよ? あなたもお姉さまもバカにして!」
「いや、そう言うつもりは無いんだよ。えーと、可愛い妹が出来たからさ。上手く言えないけど。あと一度だけと許していたら皆そう言うかも知れないだろう? 族長の娘だからという理由だけではダメだと思うよ?」
「お姉さまの旦那様って事は認めてあげるけど、私自身はあなたのことを認めた訳ではないわ。なれなれしく呼ばないで頂戴」
「す、すみません」
「リリー、またあなたは。ホントいい加減にしないと怒るわよ? 前にも言ったけどヒロくんにはヒロくんの強さと言うか魅力があるのよ。今まで私に言い寄ってきた下衆共とは全く違うのよ」
「分かっています、分かっています......でも」
「なあ、どうしてそんなに仮面の男に会いたいんだ?」
「今日のロイヤルジャックとの模擬戦を見てファンになっちゃったんだって」
「ファン?」
「そう、ファンよ。一度お話してみたいんですって」
「それで会いたいと言う訳か」
「そう言う事よ」
「な、なによ。悪いの?」
「いや、悪くなんてことは無いさ。素晴らしい事だ。でもやっぱり会うとなるとなぁ」
「だからこうしてお姉さまに頼んでんじゃないの、バカね。お姉さまがリンクルアデルに帰ったらもう繋がりは無くなってしまうでしょ」
「確かに、なるほどそういう事か」
「で、そんなに都合よく会えるわけでもないからその内にねって言ってるのよ。仮面の男も暇じゃないでしょうから。暇かも知れないけど」
「いや、きっと暇そうに見えて結構忙しくしてるんじゃないかな? アイツは常に忙しくて引っ張りだこで格好良くて何でもかんでも、とにかくデキる男だからな」
「そうは思わないわね」
「なにおぅ!」
「なんであなたが怒ってるのよ。で、お姉さまにヒロシさん、私に会わせてくれるの?」
「リリー、だからさっきから言ってるでしょう」
「リリーちゃん。真面目な話、会えるか会えないかで言うと会えるだろう」
「そうなの? やった、あなたやるわね」
「だが、いつ会えるかと言われれば、答えは『分からない』だ。だってそうだろう? サティと共闘したとはいえ、普段のつながりなんて無いんだ。しかも仮面の男は正体不明、その男がどこで何をしているかなんて俺たちには知りようが無い。もし機会があれば伝えておくようにするとしか言えないよ」
「なによ、期待した私がバカだったわ。私は直ぐに会いたいのよ」
「わがまま言ってると嫌われちゃうかも?」
「うるさいわよバカ。聞こえてるわけないじゃないの。それとも何? あなたが仮面の男に言うのかしら? そんなことしたら許さないから! はあ、なんであなたみたいな人が私の兄になってしまったのかしら」
「リリー!」
「冗談よお姉さま。では来るはずの無い日を期待して待ってるわ。よろしくね、ヒロシさん」
そう言うとリリーちゃんはあからさまに落胆して部屋へと戻ろうとした...時につまづいた。俺は素早く手を彼女の方へと差し伸べるとお腹の辺りを抱えるようにしてこちらへと引き寄せ態勢を維持した。
「おっと、大丈夫かい?」
「もう、気安く触んないでよバカ!」
そう言うと今度こそ彼女は部屋へと戻っていった。先ほどから人の事をバカバカとこのお嬢ちゃんは。ええ、ええ分かりましたとも。次から支える事は致しませんとも。悪うござんしたね。でもその後ろ姿を見ていると思い当たる事があった。この感じ昔もあったな。
「全く、困った子ね」
「はは、そう思ったけど俺は懐かしい事を思い出したよ」
「なによ?」
「いや、サティも最初はあんな感じだったかなぁって。俺に対するアタリが結構強かったもんな」
「そうだったかしら?」
「まあね。やはりよく似ているのかもね。サティが可愛がることも分かるよ」
「可愛い妹ではあるのよ? ちょっと我儘かもしれないけど」
「それも含めてリリーちゃんなんだろう? ちゃんと俺の事を認めようとしてくれているようだし。ありがたい話さ」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
その横でお義父さんお義母さんとトニーさんは『やはりいつ会えるかはわからんか』『残念ね』『まあ次回に期待だよ』などと言っていたので少し期待していたのかも知れないな。我関せずと普通にコーヒーを飲んでいる辺りこの家庭は平和なんだなと嬉しく感じた俺だった。
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