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よろしくお願いします。

「お待ちなさい!」


 そこで声を発したのはお妃様序列1位のナタリア様だった。凍りつくかの様なプレッシャーが一瞬で場を支配する。


「な、なんだナタリアよ」


「そのような勝手はこの私が許しません。本人の意思確認もせずに婚姻を進めるなど獣人国家にとってあるまじき行為ではないですか。ビアンカも困っているでしょう」


「ビアンカは何も言ってな...」


「お黙りなさい! ビアンカの代わりに私が言っているのです!」


 そこまで言うと陛下は本当に黙ってしまった。このナタリア様、おっそろしいぞ。流石序列1位だけある。一瞬空気が震えた気がした。王族夫婦のタイマンが始まりそうな雰囲気を察知してか、心なしか他の妃さまたちは少し後ろに席をずらしたように思える。それも一方的な展開となりそうであるが。


「王族である以上、ある程度の制約があるとはいえ、基本的に獣人の結婚は当人同士にその権利があります。それを結婚すれば王族になれるだの商売も思いのままとは一体何を言っているのですか」


「そ、それはだな」


「それは、なんです?」


「いや、その」


「何もないのでしょう? その件について話をする事は今は許しません! 全く、私たちにも商売の内容を聞かせてくれるのかと思っていればなんという情けない」


「だがしかしだな」


「もう一つ。あなた『都合が良い』と言いましたが、此度の神託でライガード様が仰られていた事をあなたは破ると言うのですか?」


「そ、そのような事は断じてしない!」


「断じてしない? しているではありませんか! あなたがしようとしている事は権力を行使してのヒロシさんとボニータへの婚姻示唆です。二人の気持ちを無視した上に結婚した方が都合が良いなどと。あなたにとって都合が良いだけでしょう? そんな政略的な事は断じてこの私が許しません!」


 ナタリア様はそこまで言うとユラリと立ち上がった。その瞬間周りの温度が10度くらい下がった気がするが気のせいだろうか? ナタリア様はゆっくりと歩を進め、陛下の座る椅子の前に立つ。

 

「べ、別に強制をしている訳では......」


「ロッテン!」


「はっ!」


「獣神ライガード様の神託を述べなさい!」


「はっ! 『本人の意思に反する一切の行動についての強制を禁ずる。たとえ互いの益となろうとも本人の意思を尊重するものとし、奸計によって成されてはならない』『言葉の意味を正しく理解し決して意を違えてはならない』です!」


「よろしい、ありがとうロッテン。レオン陛下? ライガード様ご自身の神託を違わず理解できないようではこの国は滅びますよ?」


 今、妃さまは立ち上がり陛下を見下ろす格好だ。座ったままの陛下の顔の正面にナタリア様の顔がある状態。メチャクチャ怖い。俺は漏らしそうだ。


「た、確かにそうであった。我はライガード様のお言葉の意を違える事など決してしない」


「よろしい」


 そう言うとナタリア様は俺の方に向かって言葉を繋いだ。


「ヒロシさん、ごめんなさいね。時々陛下は先走ってしまう癖がありますのよ? どうかお気を悪くしないで頂戴ね?」


「は、はい。もちろんです」


「ありがとうヒロシさん。ビアンカ、あなたもそれで良いわね?」


「もちろんですナタリア様」


「ヒロシさん、私はこれからレオン陛下と少しお話がありますから、先に失礼させてもらってよろしいかしら?」


「あ、はい」


 そう言うとナタリア様はニコリと笑って返してくれた。


「ありがとう。さ、レオン陛下、参りますわよ?」


 その時の陛下を見るナタリア様の目を俺は一生忘れないだろう。少し漏らしたかも知れん。


「う、うむ。それでは皆はこのまま楽しんでくれ。我は先に席を外すのでな」


 そしてしばらく歓談が続いた後、俺はようやく城から出ることが出来たのだった。先ほどの事についてはよくある事だから気にしなくて良いとの事だった。ただレオン陛下の暴走を止めることが出来るのはナタリア様だけらしく、今回この場に居て良かったなと言われた。ホントそうだよ。


 この国で分かったこと、それはこの国には5人の妃がいて、それを束ねるのはナタリア・ダルタニアス后妃と言うダルタニアス家妃序列第一位。女帝と言うか影の帝王と言うか、そんな強烈なイメージを俺に与えた人物であった。あの瞬間あの場を支配していたのは間違いなくナタリア様だった。ロッテンさん飛び上がって直立不動だったしな。おっかないぜ。


いずれにせよ助かった、ありがとうナタリア后妃様。



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 王家の馬車に乗りながら皆はもう一足先にサティの実家へと戻っているだろうな、などと考えていた。もしあのまま残って待っていてくれるなら怒られてしまいそうだ。もうとっくに日も暮れているしそれは無いだろう。でも、本来俺なんかが王家の馬車など乗って良いのだろうか。時々心配になってくる。


 情けない話だが、御者にチップを渡したくてもそのレートが分からず思い切って御者に直接聞くという暴挙に出た。分かんないから仕方ないだろう。そのようなものは必要ありませんと言われたが、この先恥をかくのは困るので頼むから教えてくれと聞きだしたのだ。人助けをした授業料として受け取ってくれと。軽い押し問答の末こういうケースは銀貨1枚という事だった。そうか、意外と普通なんだな。でも聞けてよかったぜ。


 ロータリーで馬車を降りて中に入るとサティとリリーの声が聞こえてきた。良かった、やっぱり先に帰ってきてたんだな。俺は胸を撫でおろしたのだがその手を途中で止めた。何故なら聞こえてきた声はどうやら争っているようなトーンだったからである。


 今度は何だよ......



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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