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よろしくお願いします。
残された俺は陛下の方をみた。一体何が始まるのだろうか。知らない間に不敬があったとかそう言う後付けは是非とも勘弁して頂きたい。その場合はどうしたら良いのだろうか。必殺五体投地で切り抜ける事が出来ればよいが。俺は極力すました顔をして陛下の言葉を待った。
「ヒロシよ、そうおかしな顔をするな。別に取って食おうと言う訳ではない」
ダメか。しかも気を使って頂いて悪いが微妙に傷ついたぜ。ここに残るのは幾人かの大臣と思われる人と恐らく陛下の妻、つまり王妃様だと思われる。全体的に女性が多いのでどこからどこまでかは分からないが、服装を見るに恐らく横の5人だろうな。
「この場に残ってもらったのは他でもない、ボニータの事だ」
「はあ、あ、はい」
「ボニータは見ての通り少々気が強い所があってな、昔から活発で身に着けたスキルや能力の恩恵もあり、秘めたその実力は先ほどお主が身をもって感じてもらった通りだ。末席とは言えロイヤルジャックに名を連ねておる」
「いや、本当に若いのにお強い」
「お主にそう言ってもらえると嬉しいぞ、リンクルアデルの英雄よ。そうだ、内輪で商売の話ばかりをして妻達と会うのは今が初めてであったな。丁度いい機会だ、紹介させてくれ。こちらから順番に......」
陛下はそう言うとお妃様を俺に紹介してくれた。俺は跪いた方が良いのか悩んだが陛下がそのままで良いというので、せめて立ち上がり紹介をしてもらう度に礼をした。
「で、最後にビアンカだ」
ビアンカさんは『よろしくね』とこちらに向かって微笑んでくれた。皆そうしてくれたが。この場が公式の場ではないので少し砕けた調子で話をしてくれているのだろう。正直助かる。しかしリンクルアデルの英雄は言い過ぎだろう。体中がむず痒くて仕方がない。
「ビアンカは珍しい白獅子でな、大陸を見渡してもそうはいないんだぞ」
「そうなんですね、その何と言えば良いのか、大変お美しいです。ええと、もちろんほかの皆さまも」
俺は何を言っているんだ。でも皆さん『ありがとう嬉しいわ』などと言ってくれた。愛想でもなんでもいい、不敬にさえ当たらなければな。しかしイマイチ話の筋が見えてこない。せめて流れが掴めたらもう少し気の利いたことも言えると思うのだが。
「今、序列で言うと一位のナタリアが二年前に待望の男子を生んでくれてな。ダルタニアス、いやドルスカーナも安泰だ。他は皆女子でな、それぞれが自由に生きておるわ」
「王族と言えどそこは自由にできるのですね?」
「確かにある程度の制約はできるがな。いくら何でも王族とそこらの乞食を一緒にさせる訳にはいくまい。かと言って強者の一人勝ちという世界では獣人に未来はない」
「確かにそうですね」
「獣人女性が感じる強さとは力だけに非ずという事だ。人それぞれ色々な強さを持っているだろう? その魅力に惹かれれば、その獣人にはその魅力に合った力があるという事だ」
「なるほど、仰る通りかと」
「腕っぷしの強さは見た目に分かり易く惹かれやすいのもまた本当の所ではあるがな」
『そこでだ』陛下は一呼吸入れてから俺に言った。
「どうもボニータにも想い人が出来たようでな。あの跳ねっ返りはお主の妻サティと同じく強さにその魅力を求めておる。獅子獣人は虎獣人と同じでそもそも母数が少ないのでな。もう相手になるものは居らんのではないかと諦めかけていたところだったのだ」
「そうですか、それは良かったですね。」
「うむ、そしてそれがお前だ」
「そうですか、それは良かったですね......は?」
「お前なのだ」
「お俺、いや私ですか?」
「そしてビアンカの娘でもある」
「え?」
「すなわち我の娘だ」
「ええええええ! か、彼女が? でもビアンカさんとはその、体の色が......」
「獣人化した時に白くなったであろう?」
猫ではなかったのか......確かに獣人化した時に体が白くなったのは覚えている。今思うと技の名前や二つ名は全て『獅子』という言葉がついてあったな。くそ、鈍感にも程がある。まるでクロではないか。何が猫だ。呑気に猫の種類を聞いていれば俺は両足で地雷を踏み抜いていた事になっていたのか。
「いや、その、光栄な話ではあるかと思いますが......」
「不満なのか?」
「そのようなわけではないのですが......」
「お前は獣人に対して忌避感も何もないのであろう?」
「ないですけど、それとこれとはデスネ」
そんな急な話に乗れるわけがないだろう。これだから王様という人種は怖いんだよ。その時助け船を出してくれたのはビアンカ様であった。
「陛下、急にそんな事を言われてもヒロシさんもお困りでしょう?」
「しかし、ビアンカよ。この機を逃してはボニータの結婚はいつになるや分からんのだぞ!」
「確かにそうですが......」
「ヒロシよ、どうだ? ん? そうなればお主も王族の一角だぞ? 我としてもお主が王族入りしてくれる方が都合が良いのだがな」
「いや、しかしですね」
「商売もしやすくなるであろう?」
「はあ、でもこう言うのは少し私が望んでいるのとは違うというか」
「なんだ、まだ何か不満があるのか?」
困った事になったぞ。悪いが王族に興味はない。しかも彼女の気持ちも確認していない。した所で彼女と恋に落ちるかどうかは全く別の話だ。更に最後の都合が良いというのは警戒に値する言葉だ。
政略結婚みたいな話になってきているような気がする。すまないがそう言うのはお断りだ。申し訳ないがハッキリと言わせてもらうぞ。
と、俺が口を開きかけたその時だった。
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