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よろしくお願いします。

「ソニア、大変よ!」


「ええ、サティ。分かってるわ!」


 二人が見つめる視線の先、それは舞台の上の一人の獣人女性に向けられていた。主にそのしっぽに。彼女のしっぽは舞台正面からでは見えないのだろうが、アッガスが演説をしている横でヒロシのお尻あたりへとポンポンとリズムよく叩きつけられている。


「あの女、公衆の面前でやってくれるわね」


「舞台正面からは見えてないみたいね」


「でも舞台後ろからは丸見えよ」


 そう、舞台の後ろには並み居る王族関係者や大臣達が陣取っているのだ。その中に額に手を当てて何やら難しい顔をしているダルタニアス王もいる。


「模擬戦でヒロくんの強さを目の当たりにして惚れちゃったって所かしら」


「サティもそうだったんじゃないの?」


「そう、私もよ!」


「力強い返答をありがとう。でもどうしましょう」


「そうなのよね。獣人女性の特性からすると無理からぬことは理解できるんだけど......」


「ヒロシさん、何度かマーキングの経験あるはずなんだけど、見た感じまだよく分かってないみたいね」


 ヒロシはポンポンと叩かれるお尻あたりをたまにチラチラ見ながら手で払っている。頭の上で『?』が浮かんでいるようだ。


「模擬戦が終わった所なんでまた考えが及んで無いのかも知れないわ。あとヒロくんが彼女の事を猫娘って呼んでたことも気になる所よ。変な聞き方をしなければ良いんだけど......」


「教えてないの?」


「いきなり模擬戦なんて彼女が言い出すとは思っても見なかったのよ。しばらく会うこともないから後回しにしてたのが裏目に出たわね」


「そうねぇ、普通は頻繁に会わないものねぇ。種族に関しては前にクロちゃんに怒られて懲りたようだからその辺は大丈夫だと思うわ」


「ならまずは良いわね。とにかくヒロくんには絶対に正体を明かさせない理由が増えたわね。商人だと分かったら獣人が殺到するかも知れないわ」


「それは流石に不味いわ。ハニートラップ系にはすごく弱そうに見えるのよ」


「そうなのよ。意外とスケベなのよ」


「スケベなのは別に良いのだけ......コホン、えぇと、どうしましょう」


「そ、そうね。とりあえずあの獣人ホイホイの取り扱いについては今晩にでも話をしましょう」


「そうね、そうしましょう」



-----------------------------------------------



 急遽行われた模擬戦を経て式典も無事に終わり俺は控室へと戻ってきていた。模擬戦をしてしまった事で来賓席の方へ行くタイミングを失ってしまったが仕方がない。しかしボニータは中々に筋が良いと言うか強かったな。アッガスの場合は獣人化したらトラ模様になったけどボニータの場合は体毛の色自体が白に変わっていった。まあサティも元は金髪なんだけど少し赤みを帯びた体毛になったしな。そんな事は普通なのかも知れん。


 しかし獣人化して身体能力の底上げが出来るなんて反則だろ。誰でも出来るわけではないらしいが相当な強みであることは間違いない。はあ、しかし疲れた。もう戻って良いのかな? 俺は入ってきたメイドに話をしてサティの方へ戻る事を伝えた。必要なら陛下へ一言挨拶をしたいがどうだろうか、と言う事も合わせて。リンクルアデルでは勝手に帰ろうとして怒られたからな。


 メイドは俺を談話室へ連れて行くつもりで呼びに来たようで、これから陛下たちと一緒にお茶タイムのようだ。丁度いい、それが終わったら帰るとしよう。案内された談話室、そこには陛下はもちろん王族や大臣が集まり錚々たるメンバーで占められていた。どうしよう、場違い感がすごいんですけど。


 運ばれてきた茶菓子を手に皆が思うように話を始めている。この場は堅苦しい場所ではないようであるが、どうも俺は慣れないな。周りが全員獣人という事もあるのかも知れないが。だが、ロッテンさんをはじめロイヤルジャックの人達が話題を振ってくれて助かっている。しばらく話が進んだところで陛下が俺を見ていった。


「すまなかったな、ヒロシよ。突然模擬戦などと驚いたであろう?」


「はは、驚きましが気にしてないから大丈夫です。でも本当にボニータさんは強かったです」


 俺は前に座るボニータへのヨイショも忘れないデキる男なのだ。ふっふっふ。だが、前に座るボニータは何気に元気がなさそうに見える。どうしたのだろうか? すると伏し目がちにボニータが声を出した。


「その......なんだ、済まなかったな。急に変な事を言いだして」


「いえ、先ほども申し上げました通りまったく気にしておりませんので。大丈夫ですよ。貴女の身体能力の高さには本当に驚きました。惚れ惚れするとはこういう事ですね」


「ほ、惚れて、いや惚れ惚れ? コホンそ、そうか。なら良いんだけど......あの、ヒロシ...さんには何人の妻が居るんだったか?」


「え、妻ですか? 二人ですね」


「二人か、そうか」


 そう言うとボニータさんはまたお茶をチビチビと飲み始めた。何だこの可愛い動物もとい獣人は。最初の印象と全く違うぞ! 妙におとなしいと言うかなんというか。こう言うのをどう言うんだっけか、借りてきた猫か? 


 あ、そうだ。この際だ、何の種類の猫か聞いてみようか。種族は猫で間違いないだろう。それを今さら聞くのも逆に失礼にはあたらないか? いやあたる。ここは自らを発展させて『猫の種類はなんですか?』この方がよりスマートに聞く事にならないだろうか? よし、そうしよう。俺がまさに声を掛けようとした時に陛下が言った。


「それでは今日はご苦労だった。ロイヤルジャックは普段の業務に戻るが良い」


 唐突だなおい。でもまあ良いや。それでは俺も皆の所へと戻るとしよう。


「ありがとうございました。商売の方ですが試験の結果が分かり次第またご連絡させて頂きますので、今日はこれで失礼しま...」


「ヒロシはちょっと残ってくれ」


「え?」


 すると隣に座っていたアッガスが立ち上がりながら俺の肩に手を掛けてボソッと呟いた。


『ご武運を』


『お、おい、お前何を言ってんだ? ちょっと待て、なんだよ?』


『お前の事だ。大体分かっているんだろう?』


 アッガスはそれだけ言うと片手を上げながら背を向けて去って行くのであった。


 いや、分かんないから。カッコつけないで教えてくれませんか?



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言]  うん、ヒロシくん分かってない(断言)  ボニータの事、”ドルスカーナ最強の武人の一人”とは見てても、”女”としては全然見てないし(- -;  ”惚れ惚れする”という言葉の捉え方も、ヒロシ…
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