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よろしくお願いします。
「そう心配するな民よ。リンクルアデルの昨今の発展には一つの商会が関わっているのだ。その商会はアルガスのロングフォードで産声を上げ、瞬く間にアルガスで成長し今やリンクルアデルを席巻している一番大きな商会なのだ」
うん? ロングフォード発祥の商会だと?
「その商会は我の願いを聞き入れてくれ、この国の為に尽力してくれると言ってくれた。人族であるにも関わらずだ。その商会の名はNamelessと言う」
コラアアアアアア! ウチの商会じゃねえか! ちょっと待て、商売の話はしたが国力を上げるなんて一言も言ってないぞ。何を言ってくれてんだこのライオン丸は! 俺はいま挙動不審な男になっている事だろう。言うに言えないこの状況、俺はチラチラと陛下を見るが、陛下は拳を握り締めてノリノリで絶賛演説中だ。やめろ、やめてくれ。どうしてこの世界の人間はハードルを簡単に上げてゆくのだ。
「しかもだ! その商会の会長は獣人族である一人の女性と恋をした。そしてその者はその愛を受入れ番となったのだ。そう、狐獣人のサティだ! もはやドラゴンとしか結婚できないと言われていたサティが認めるほどの男だ。人族でありながら十分な器量を持った人間であることは我自身もこの目で確認しておる! それ程の男がこの国の為に命を懸けて力になると言ってくれたのだ! これほどうれしいことは無い!」
ウオオオオオオオオオオオオ!
グアアアアアアアアアアアア! 体がもげそうだ。やめろぉ! そんな事は言ってない! ちょっと砂糖で儲かれば良いなと思っただけだ。しかもそれもまだ実験段階でどうなるか分からないんだぞ! 誰か助けてくれ、今すぐ裏へ走って行って服を脱ぎ捨てたい。それでそんな事は言ってないとこの場でぶちまけたい。俺の挙動不審が目についたのだろう、アッガスがこっちを見ていった。
「お前そんな事言ってたんだな、驚いたぜ。流石俺が認めた男だ」
「カ、カハッ」
口の中がパッサパサで声が出ない。違うんだ、違うんだぜアッガス。俺はそんな事言ってないんだ。あうあう言っているとアッガスは陛下の方へと向き直ってしまった。待ってくれぇ。
「そしてその者は、今この会場へと来ておるのだ。紹介しよう! Nameless商会の会長ヒロシ、そしてその妻のサティとソニアだ!」
オイイイイイイイイイイ! 俺はいまそこに居ねぇだろうが! 何を血迷ってんだ、いい加減にしろ。俺は持っている青龍偃月刀を上げたり下げたりして陛下にアピールするが、陛下は来賓席の方へ向いており全く気付く様子が無い。マジかおっさん......後ろからいって蹴っ飛ばしてやりたい。と思ったらロッテンさんが気付いて陛下の方へススッと寄って行って何ごとか話したようだ。頼むぞロッテンさん、何ならスリッパで引っ叩いてやってくれ。
目線の先にはサティとソニアが立ち上がり手を振っている。民衆は大歓声で大騒ぎだ。蹴っ飛ばしてやりたい所だが、サティの結婚を民衆に納得させる形で話してくれたことに対しては感謝だな。会う人会う人リリーのようなサティ大好き人間ばかりだとちょっと生活し辛いからな。サティの事を好きで居続けて欲しいがそこは割り切って欲しいのだ。そこの所は本当にありがとうと言いたい。
「おお、そうだった。ゴホン、ヒロシ会長は急用で少々席をはずしているようだな。なに、いずれ皆も目にする事であろう。皆も協力するように、我からのお願いだ」
俺が真っ白な灰になっている横で陛下は演説を続けている。今はバルボア騒動の話になっているようだな。
「リンクルアデルで起きた騒ぎについては皆も知っての通りだ。巷では吟遊詩人たちが詩って聞かせているようだしな。そこでも獣人族であるサティは獅子奮迅の活躍をしたと伝え聞いておる。まさに獣人族の誇りだ、サティよ、よくやった。褒めてつかわす」
サティは立ち上がると陛下と民衆に向けて改めて礼をした。民衆はここでも大騒ぎだ。
「そしてその中で活躍した男、仮面の男の話も聞いておるな? 紹介が遅れたがこの我の前に居るこの男こそがそうだ。みなに紹介しよう、仮面の男だ」
ウオオオオオオオオオオオオ!
よし、ここだな。俺は手を上げて皆の歓声に応えた。
「彼はサティだけではなくロイヤルジャックが誇る暴虐の王のアッガスとも交流があるのだ。我はそれが本当に嬉しい。リンクルアデルの英雄を友としてこの地で紹介できるのだからな。しかし、民に一つ約束して欲しい事がある。この男の正体を暴くような事は絶対にしてはならぬ。仮に偶然知り得たとしてもそれはその時点で秘匿事項となる。これは王命だ。決して違わぬようにな」
王命にしてくれたか。ありがとう、そっちの方が助かるよ。しかしこの国を助ける事は政治利用には当たらないのか。当たらないよなぁ、俺がやりたいっつったんだから。問題はそれがこの国を助ける手助けになるのかどうかだ。サティの故郷が衰退するのを黙って見ている訳にはいかない。そこは間違いないんだよな。注目度が大きいけど頑張るしかないか。砂糖だけで足りないならまたほかの事を考えよう。陛下も締めの挨拶へと入っている。そろそろ終わりか。いつも疲れるよ。
「それでは皆のものよ、今日は大儀であった。それでは......」
「陛下! 少し私からよろしいでしょうか!」
ん? 横を見るとボニータさんが跪いて発言の許しを乞うていた。
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