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よろしくお願いします。
活動報告にも書かせて頂きましたが、ユニーク数が5万に到達しました。
みなさまのお陰と感謝しております。
本当にありがとうございます。
中にいると外の状況は良く分からない。ましてやそれが来たことの無い場所ならなおさらだろう。広場は想像以上に大きかった。しかも民衆との距離は前にある大きいステージの向こう側なので結構近く感じる。一段下がっているとは言えド迫力だ。ドルスカーナ中の人間がやって来たのではないかというほどの人々。圧倒されるぜ、何人位いるのだろうか。俺たちが出て行くと民衆からは歓声が上がった。中にはロイヤルジャックではなく個人の名を呼ぶものもいる。特にアッガスは冒険者として活動しているから民衆からの認知度も高いのだろうな。ちなみにロイヤルジャックで冒険者をしているのはアッガスとボニータだけで、それ以外の人達は基本的には王城で働いている。
演説の場とは言え王であるダルタニアスの威光を示す場でもある。ロイヤルジャックは鎧を着て登場と言う訳ではなく白いマントを羽織ってはいるが前まで掛るようなもので体自体をスッポリ覆っている格好だ。マントとは普通こういうモノなのだろうか? 中に来ている服がどのようなものなのか、ここから見る感じでは分からないな。
でもその中で一番浮いているのは間違いなく一人だけ黒の俺だろう。だがまあ仮面は別としても冒険者には少なからずいる格好だからそこまで悲観することもないか。正装を持たない身としては少し肩身が狭いだけだ。そう言う事にしておく。民衆からは誰だあれはとか、噂のあれか? とか様々な声が聞こえてくるが、今俺がする事は彫刻のように立つだけだ。
ワアアアアアアアアア!
ひときわ高い歓声が響いた。陛下の入場である。横目で歩く姿を見ているがやはり食堂で見た時とはオーラが違う。風格と言うか威厳と言うか。自分で言ったのにあれだが百獣の王だな、やっぱり。皆が着席しても歓声は鳴りやまない。だがここにきて逆に俺も少し落ち着いてきた。ロッテン内務卿が壇上に上がり話を始めた。話を始めて順番に紹介が始まる。やっぱりロイヤルジャックは大人気なんだな、大歓声が上がっていた。俺は横目で注意深くそれを観察していた。ふむふむ、そんな感じで手を振れば良いのだな。と思っていたら俺の番は飛ばされた。おい、構えていたのに恥かしいじゃないか。忘れてないよね? かと言って自己主張する訳にもいかず俺はそのまま突っ立っているのだった。一応『ゲストだ』と言われ後ほど陛下より話をすると言う事だった。紹介はそのまま進み陛下の挨拶となる。
「それでは、ドルスカーナ国王である百獣の王、ダルタニアス王よりお言葉を頂戴致します」
もう百獣の王使ってんじゃん。相変わらずこう言うのは地域問わず皆早いよな。俺もこういう所は真似しなくちゃいかんね。陛下が前に出ると大歓声だ。陛下は両手を上げてその歓声に応えている。そしてゆっくりと両手をスピーチ台に置くと辺りは一斉に静まり返った。
「諸君、突然の式典にも関わらずこうして集まって来てくれた事をまずは感謝したい」
陛下は続ける。
「今回の式典の目的。それは我らが崇拝する獣人ライガード様から神託が降りたからである。神託自体大変有難いことではあるがそれ自体は珍しい事ではない。今回が特別な理由、それはライガード様ご本人が、この、ドルスカーナの、レインヒルズの、ドルスカーナ城に降臨されたからだ!」
緊張が辺り一面を駆け抜けるのが上から見ていてもわかる。その緊張が目で見える一番後ろまで走ったかと思うと、今度は津波の様な歓声がこちらへと向かってきた。
ウオオオオオオオオオオオオ!!!
地面が揺れるとはこういう事なのだろうな。すごい。皆の前に立つのは嫌だが、これはここでしか絶対に味わえないだろうな。皆口々に何事か叫び感極まって泣き出しているものもいる。陛下はそれをしばらく見つめると静かに両手を上げ、そしてまた静かに下ろした。歓声もそれに応じるかのように収まってゆく。そして慎重に、そして諭すかのように一言ずつ丁寧にその神託の内容を話し始めた。
主な内容は現在の国が抱える危機についてだ。人口が増え続ける今、獣人たちは豊かになる方法を学ばなくてはならない。諸国の文明とは現段階での差は大きくはないがこの先10年でその差は歴然としてくるだろう。国力、つまり国に金が無いのだ。人口は増え国庫は年々食い潰し新しい商工業もない。他国は進歩して自国は衰退する。その先に出来る差は火を見るよりも明らかだろう。獣人は獣人として出来る事を他国から学ぶべきだ。そう主張していた。
「我は考えた、どのようにしてこの国を豊かにするべきかと。そして一つの目標を上げることにした。それがルッキングイースト政策だ。東の国リンクルアデルの国力はここ数年で目覚ましい進歩を遂げている。彼らの国は目で見えるほど豊かになっておるのだ」
民衆の目には不安の色が出始めた。まさか、ドルスカーナがリンクルアデルの属国となるとでも言うのか? そう言いたげな様子だ。しばらくの沈黙の後、陛下は話を再開した。
「民よ、心配するな。リンクルアデルの属国になるわけではない。かの国は長きに渡り友好国としてやってきた。そのような事は百獣の王として断じて認めぬし、我が友シュバルツ国王も望んでは居らぬ。だがしかし、そのプライドだけではこの国の未来はどうなるのか。それを考えた時に我は思ったのだ、この地でしか出来ない事をしようとな。ルッキングイースト政策とはリンクルアデルを羨む政策ではない。友好国であるリンクルアデルに追いつき追い抜くための政策なのだ!」
ウオオオオオオオオオオオオ!
上手く話をするな陛下。民衆が乗ってきたぞ。追い抜くと言えばプライドの高い獣人に火をつけるには十分だろう。獣人たちは次の言葉を待っている。何をすればよいのか、どうすればリンクルアデルを追い抜けるのか。皆の視線は今陛下へと集中している。俺も知りたい。この人数を国ごとまとめて引き上げるのはそう簡単な事じゃないぞ。
見せてもらおうか、百獣の王と自分で言ってしまう陛下の能力とやらを!
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