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よろしくお願いします。
そして翌朝。俺は顔の上からロイを下ろして左腕にくっ付いているシェリーを見た。二人ともよく眠っている。何故ロイは俺の顔の上で寝るのだろうか。うなされてしまったぞ。俺はゆっくりとシェリーの腕をほどいて洗面台へと移動した。シェリーとロイはまだベッドの中で丸くなっているのでもう少し寝かせておくか。着替えも済んだ事だしソニアとサティも呼んで一緒に食堂へ行こう。俺はアリスに子供たちの事を頼むと二人の寝室へと向かった。そしてドアを開けようとしたのだが、なんだろう、夫婦と言えども勝手に入ってはいけない気がする。やはりまずはノックをしてみるか。
「おーい、起きてるか? 一緒に朝食に行こう」
「ヒロシさん!? お、起きてるわよ! すぐに行くから先に行ってて! 入ってきちゃダメよ!」
「なんだよソニア。入るぞ」
「ちょっとヒロくん、入ってくんじゃないって言ってんでしょ! 先に行ってて頂戴、ね?」
「お、おう。じゃあ先に行ってるぞ」
サティに怒られてしまった。なぜだ。うーん、あまり深く考えない方が良い気もするので、ここはあれだ、やはり流しておくとする。着替えの最中だったのか? そうだそうに違いない。気になるが気にしないのだ。食堂には既にクロが居て、シンディと仲良く話している所だった。シンディのしっぽがブンブン揺れているだけになんだか入り辛いな......すっげぇ幸せそうに見える。ボニータさんとリリーに凹まされている上に、シンディにまで『邪魔しやがって』とか言われたらもう立ち直れないかも知れないな。しかしドアの陰から二人の様子を見ているなんて、どこぞの家政婦のようではないか。どうしよう、あ、ヤベ、クロと目があってしまった。
「あ、ヒロシ様。おはようございます」
「おおクロじゃないか。いや、図らずも奇遇で偶然で思いがけずだな。俺は丁度いま来た所だ。丁度な、丁度だぞ?」
「はあ、よく分からないですけど、どうぞこちらへ」
「悪いな。何か適当なもので良いから頼むよ」
「畏まりました。奥でメイドさんたちが居りますので伝えてきますね」
そう言うと、クロは奥へと歩いて行った。
「えーと、なんだ。スマンなシンディ、なんか邪魔しちゃったみたいで」
「え! ちょヒロシ様、ななな何を言ってるんですか!」
「何をって見たまんまだろう?」
「えええええ! そ、そんな」
シンディは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ごめんごめん、別に困らせるつもりはなかったんだ。陰ながら応援してるぞ」
「は、はい......」
「サティくらいに相談でもしたらどうだ?」
「実はしたのですが、サティさんからは殴り倒して裸にひん剥いてやれば良いと」
「何を言っとるんだ、アイツは」
「流石に不味いですよね?」
「不味くない理由が見当たらない程にな」
「ですよね」
「まあ、クロは鈍感だからなぁ。多少は強引に行かないと他所の狼獣人に先を越されるぞ」
「むかし隊長にも同じような事を言われたことを思い出しました」
「隊長?」
「いえ、私は属してないのですけどね。なんと言うかゲスト扱いなんですけど」
「隊? ゲスト? 一体なんの隊なん......」
「お待たせしました」
っと、クロがメイドと一緒に料理を持ってやってきた。途中で話は終わってしまったがシンディには是非頑張って欲しい所だ。この鈍感難聴系狼獣人に色々と世間の常識も含めて教えてやって欲しい。
「あっとお二人さん、邪魔しちゃいましたかね? シンディ、ヒロシさんは新婚だからダメだよ?」
な? こいつはこうなんだよ。
「シンディ、やっぱり殴り倒して裸にひん剥いてやればいいよ」
「それしかないですかね......」
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朝食を終えた俺達は、レインヒルズへと向かった。式典はドルスカーナ城前の広場にて開催される。俺はクロとシンディと共に打合せ通りに先に屋敷を出た。広場には既に民衆が集まってきており、凄い熱気に包まれている。ダルタニアス王が民衆に演説をする事も珍しいのだが、その上神託に関することだと言われては民衆も来ずにはいられないだろう。ダルタニアス王は国民からも善王として慕われているらしいしな。
王城の中へと招き入れられ、俺は戦闘服へと着替えた。今はクロとシンディと控室で一緒に出番待ちだが、二人はそろそろ観覧席の方へ向かわないといけないと言う事で部屋を出て行った。うーむ、一人になってしまった。誰か呼びに来てくれるのだろうか? でもまあ良いか、来なければ来なければで民衆の前で手を振る必要もない。気楽に考えよう。できれば来るなとか思い始めた頃、お迎えがやってきた。俺はメイドの後をついていき、丁度別の部屋を出てきたアッガスたちと一緒に王たちが待つテラスへと向かった。
「アッガス、俺はどこで立っていればいいのかな?」
「陛下はスピーチ席から皆に向けて話をする。俺達は一段、いや二段か、に下がった所で待機だ。恐らく陛下はロイヤルジャックを紹介した後にお前を仮面の男として紹介するだろう。その時に軽く手を挙げて民衆に応えればそれで終わりだ」
「そうか、それならできそうだな。頑張るよ」
「大丈夫、上手くいくさ。行けば分かる事だが民衆迄の距離はあまり遠くない。王城の中ではなく王城から外に向けて執り行う事になる」
「そんな場所があるのか」
「全てかどうかは分からないが城はそういう造りが多いと思うぞ。演説用の広場が無いと困るからな。演説専用と言う訳ではなく様々な催し物が開催される場でもあるけどな」
「なるほど、分かってきた。陛下が観覧するための場所でもあるわけだ。まあそれが無いと確かに困るわな」
「ざっくり5段だな。上から陛下と皇族たち、その下の段は大臣達、その下が俺達。その下が催しなどが開催されるステージ、そして一番下、最後に民衆がいる。まずは俺達が入場してそれから順に上段の人が入場する。当然だが下は最後だ。俺達の立つ横手には観覧席が設けられており、サティやアリスはそこにいるだろう。まあ簡単に言うと今回のような特別なゲストを着席させる場所だ。さあ、もう入城して良いようだな。行くぞヒロシ」
「ああ、了解だ」
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