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よろしくお願い致します。
「えーっと、先ほどは少々お見苦しい所をお見せしたかも知れません」
「何がしたかもよ。してるのよ」
「ごめんなさい」
「分かれば良いのよ。それでどうだったの?」
俺は、あるものを作るのに必要な材料を見つけたことをロッテンさんに説明した。ただ、まだそれを作る実験が必要な事。それには数日かかる事も合わせて報告した。ロッテンさんは何を作るのか聞きたがったが、それは出来るまでのお楽しみという事で待ってもらう事で何とか了解を貰えた。
作り方は俺の知っている作り方とはかけ離れており、煮つめて結晶が出来るのを待つのであればそんなに時間は掛からないだろうとも思う。だけど皮算用でアテが外れた場合、ロッテンさんは相当ガッカリするだろう。だから完成までは黙っておきたいのだ。なのでロッテンさんには明日の式典が終わり三日後に改めて王城へと行くので、関係者を集めておいて欲しいとお願いした。もし実験が難航しそうな場合には改めて連絡するとも伝えた。そしてサティには実験に使える部屋を用意して欲しいとお願いした。それについては昔使用人が使っていた小屋があるからそこを使うと良いと言ってくれた。助かる。
「あと、シュガの実ってのが欲しいんだ」
「山肌には群生してるけどね。この辺りにもあると思うわよ」
ロッテンさんには申し訳ないのだが、俺とクロがキビサトを収穫し、サティとシンディがシュガの実を探している間待ってもらう事になったのだった。とは言ってもすぐに集まったからそんなに待たせてないぞ? 帰りの馬車は俺達はロッテンさんと同じ馬車に乗せてもらった。俺達の馬車はキビサトを満載しているからな。お義父さんすみません、族長の馬車を荷車のように使ってしまいました。
馬車の中で簡単に明日の打ち合わせと報告事項の確認を行った。俺は仮面の男として出席するので、フェルナンデス家の皆と一緒に行くわけにはいかない。なので明日は俺とクロ、シンディが王城へと向かう。キビサトの件で話があると言う事にするのだ。俺の妻や子供たちとフェルナンデス家はリンクルアデル男爵家所縁の者として式典には特別席からの観覧となる。クロとシンディは俺と別れた後に観覧席へと戻って皆と合流する。俺とははぐれて道に迷ってんじゃないのか? とか適当な理由にしておくのだ。俺は手を振る役目が終わったらしれーっと戻ってきて、仮面の男を見逃したとか言う訳だ。昔のヒーローものみたいだな。それはそれで面白いかも。
俺が少々取り乱したこともあったが、基本的に作業自体は順調に進んだのでフェルナンデス家に戻ったのは昼過ぎだった。そこでお義父さんがロッテン卿も是非食事をご一緒にという事でテラスで昼食を取った。子供たちはまた違った雰囲気に大喜びだった。やっぱりあれだよな。食べる場所が違うだけで食べるものはいくらでも美味しくなると思う。遠足の弁当、キャンプのバーベキュー然りだ。
ロッテン卿が王城へと戻った後、俺は早速クロと離れの小屋へと移動した。小屋と言ってもあれだな。昔の使用人が住んでいたようでちょっとした離れの住居みたいな感じだ。今は全て屋敷の中で暮らしているからこの場所は使われなくなったまま放置されていたようだ。放置と言っても使用人が掃除をしているから十分に奇麗だぞ。それこそ屋外でバーベキューとかする時には丁度いい準備場所になるんじゃないか? 俺が言うべきことではないがこういう場所は是非残しておいて欲しいもんだ。
「アリス!」
「はい!」
「明後日より俺はまた研究の日々だ。とは言っても今回は早く済むと思うがよろしく頼むぞ!」
「......」
「なんだ、どうした?」
「いえ、少し胸騒ぎがしただけです。大丈夫です」
「そうか、よろしく頼む」
「あなた、こんな所で何をするつもり?」
お、リリーちゃんではないか。来てくれたんだな、でも今の段階ではあまり深く説明は出来ないんだスマン。
「ええと、なに、ちょっと商売に関する研究と言うか、実験と言うかだよ」
「ふぅん、怪しい薬を作るつもりね?」
「いや、ち、違うぞ。これはフェルナンデス家、いやドルスカーナの為にだな」
「ますます怪しいわ。アリスさんも少し不安そうにしてるもの」
「え? アリス、そうなのか?」
「いえ、旦那様を心配しているだけです」
「そうだろう、そうだろう。リリーちゃん、そういう事だよ」
「私はもう成人してるんだから、ちゃん付けは止めて頂戴!」
何と難しい、いや面倒臭い女なのだろうか。
「じゃあ......リリー、かな?」
「何であなたに呼び捨てにされないといけないのかしら?」
くっそ面倒臭い! ほっぺたをキュッとつねってやりたい衝動にかられたぞ。じゃあどう呼べと言うのだ。リリーさんか? リリー様か? いっその事リリピョンとか言ってやろうか。
「そ、それでは、リリーお嬢様では如何でしょうか?」
「もう、バカにして!」
リリーは走って行ってしまった。違ったか......難しい。俺はどうすれば良かったのか。チラッとアリスの顔を見ると何とも言えない表情をしていた。
「ふむ、ちょっと拗らせてますねぇ。強いお姉さまは強いオスが相手でないといけないのに、そのオスときたらちっとも強そうには見えない。だけどその姉はヒロシ様を強いと信じて疑っていない。来る日も来る日も怪しげな薬を作るこの怪しいオスのどこにお姉さまは惚れたと言うのか? 私はお姉さまの言う事を信じたい。でもどうしたら良いと言うの? はっ! そう、薬よ。薬で操ってるに違いないわ! このオスにいいようにやられてるに違いないわ! それであんなことやこんな事も......許すまじ! でも、お姉さまを選んだオスを憶測だけで吊るし上げるわけにはいかない。絶対にしっぽを掴んでやるわ!っとまぁこの辺りをグルグル回っているかと思われますね」
「それってお前が思ってる事じゃないよな? 泣くぞ? しかしそこまで分かってんだったら、ちょっと行って誤解を解いてきてくれよ」
「いや、それはアレですよ。それだと全部話さないといけない事になるでしょう?」
「そうなんだよなぁ」
「でもこれがまたオモシロ......ゴホン、大変だと思いますが......」
「変な事を言おうとしただろ今?」
「滅相もございません」
アリスはスカートを軽くつまみ上げると礼をして屋敷の中へと戻っていった。
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