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よろしくお願いします。

「サティと話していたロイヤルジャックの女性が居ただろう?」


 フェルナンデス家へと帰る馬車の中、俺は先ほどの女性のことを聞いた。


「ええと、ボニータの事かしら? 友達よ」


「なんだか睨まれてるような気がするんだけど」


「そんな事ないわよ。ちょっと目つきが悪いからかも。どっちかって言うと興味ありって感じだったわよ?」


「そうなの? 呼び名に関しても聞いてない! って怒られちゃったし」


「あれは、照れ隠しね」


 そうだったのか。なんと紛らわしい。そうだよな、そうそう見た目で嫌われてたまるか。俺は何にも悪い事をしていないぞ。でも、第一印象が悪いのかな? もう少し笑顔に気を使ってみよう。そうこうしている内に馬車はフェルナンデス家へと到着した。食堂へ行くと皆が待っていてくれた。


「おかえり、サティ。陛下との謁見はどうだった?」


 お義父さんがサティと話している。子供たちも俺の方へきて抱きついてくれてるぞ。嬉しい。


「あ、クロ。明日は少し外へ出るから付き合ってくれ。シンディもだな」


「いいですけど、どちらへ?」


「少し調べてみたい事があってね。ロッテン内務卿が同行する」


「了解しました、シンディにも伝えておきます」


「頼むよ」


 その時、リリーとも目が合ったので優しく微笑みかけておいた。


「何よその変な顔、気持ち悪いわね」


「こら、リリー!」


 サティは怒ってくれたが俺のライフゲージは一気にスッカラカンになってしまった。これは絶対に照れ隠しとかではないだろう? 横ではソニアとクロが声を殺して笑っている。ゴリゴリ削られていくぞ。俺は引き攣った笑みを浮かべてクロへのお仕置きを考えるのであった。ソニア? ソニアは良いんだよ。そうして賑やかな食事の時は過ぎてゆく。


「今日はお母さんたちと寝ようかな」


「ダメよ、私と一緒」


「ダメ、僕と一緒」


「何故だ!」



------------------------------------------



 翌朝、ロッテン内務卿がフェルナンデス家へとやってきた。族長はやや緊張した面持ちだったな。内務卿クラスが早々族長の家に来る事はそうはないだろうからな。驚かせてごめんなさい。しかし、昨日の内にお義父さんとトニーさんとはある程度商売の話は詰めさせてもらった。街の状況も思わしくないのでぜひ頑張って欲しいと言われたぞ。ハイとは答えはしたが、今日の視察次第だ。


 このドルスカーナという国は王城を中心にして扇状に街が伸びている。街の端から向こうは平原が広がり森や海へと繋がる。平原には何もないのかと言えばそうではなく小さな村が点在しておりどこかの街に属している。農家をしている人たちは街の外で暮らしている訳だが別に差別もなく、街の外で農業を営んでいる人。という認識でしかない。これは非常にいい事だと思う。ただ、スラム的な場所は必ず出来てくるもので、働かない人や働けない人は自然とそう言う地域へと流れてゆく。


 リンクルアデルとは違い、気候も更に温暖なので衣食住に関しては比較的容易に調達できる。雨さえ凌げれば果実や動物が多いので生きていく事は出来るのだ。ドルスカーナが発展途上国的に見えるのはこういうせっかちに働かなくても食べていけると言う安心の上に成り立つ国民性によって出来ているのだろう。しかし、ある程度文明の波が押し寄せてきている中でそうも言ってられない状況だと言う訳だ。


 俺は格好をつけて街の外に出てきたは良いが、全くの無駄足にならないことを祈るばかりだった。やっぱりロッテン内務卿は城で待っていて欲しかった。勘違いであれば恥ずかしい上に代替案がない。そんなこんなでやってきたキビサトなる植物が生い茂る場所。背の高さより高く、一見トウモロコシのようにも見えなくもない。最悪はトウモロコシ栽培だがその可能性は低いだろう。雑草扱いされているからな。


「ヒロシさん、これがキビサトという植物ですが......どうでしょうか? 私には何に使用するのかも想像がつかないのですが」


「はい、ちょっと待って下さいね」


 俺は手に持った鎌でキビサトを一本切り取った。さりげなく植物を眺めて調べているような雰囲気を醸し出しながら鑑定を使った。頼むぞ、実は少し期待しているのだ。そう、自信があるのだ。砂糖が手に入って見ろ。ドルスカーナには砂糖税で納金し、そして俺はNamelessを通して販売を行う。クックック、砂糖王になるかもな。シュガーキングだ、グヘヘヘヘ。おっと、皆の俺を見る目がやけに白いな。グフフフ、まあいい、それで結果は......と。


≪鑑定≫

名前:キビサト キビサト科

詳細:ドルスカーナのみで自生する雑草:肥料: 撒けば二毛作をしなくて良い


「ア? アアアアアア、アァーッ!」


「ど、どうされました? ヒロシさん、大丈夫ですか?」


「ちょっとビックリするじゃないの、どうしたのよ?」


 ぐおおおお、雑草だとぅ。見た目も名前もどっからどう見てもサトウキビだろうが! こんなでっかい雑草があってたまるか! ふざけんじゃねぇ。俺は頭に来て切り取ったキビサトで周りのキビサトを叩きまくった。


「キョエエエエエエエエ!」


「ちょっと落ち着きなさいよ! あっ待ちなさい! どこに行くのよ!」


「サティさん、ヒロシ様は今ちょっとアレですよ。やらかしちゃった系ですね」


「なんなのよ、全く。クロ、あなたここまで責任もってヒロくんを連れて戻ってきなさい」


「いやぁ、虫に刺されるのはちょっと遠慮したいですねぇ」


「わ、私が行って参りましょうか?」


「良いのよシンディ、大丈夫よ。クロ、あんた舐めた事言ってるとシメルわよ?」


「直ちに行って参ります」


 俺は叫びながらもキビサトを片っ端から鑑定していた。もしかしたら若いのはまだ甘味が出ないとかそういう類かも知れないという淡い期待を抱いて。ところが、脳裏に浮かぶのは雑草、雑草、これまた雑草だ。


「おのれぇぇぇぇこの雑草がぁ! おおおおお俺をコケにしやがってぇぇぇ。 焼き払ってやる! 全て焼き払ってやるわ! フハハハハハ! 」


「ちょ、ちょっとヒロシ様、落ち着いて。火を付けてはいけません。なにしてるんですか! アツッ! 危ない! ヒロシさん、辺り一面火の海なんかにしたらサティさんやソニアさんにメチャクチャ怒られますよ!」


「何が肥料だ、何が二毛作だこのヤロウ! ヒィヒィフゥ......ん? そ、それはイカン。特にソニアは火が付くと鎮火に時間が掛かるのだ。ソニアが怒ると怖いんだぞ?」


「知ってますよ。それより、それって思ったのと違ったんですか?」


「ああ、全く違った。良い考えだと思ったんだけどなぁ。俺が勝手に思い込んでただけだから怒っても仕方ないんだけどさ。期待し過ぎたかもなぁ。これからどうしよう、ロッテンさんにも申し訳ない」


「仕方ないですよ。そうそうウマい商売なんてないんですから」


「そうだよなぁ、クロの言う通りだよ。いったん戻って謝ろっか」


 俺はクロと話ながら何気に傍のキビサトを引き抜こうとした。意外と根が深いのか? 抜けないじゃないか。とことんコケにしてくれるなこの雑草は。やっぱり燃やしてしまおうか。


「ああ、キビサトの根は球根みたいに大きいので抜きにくいですよ。小さい時は兄と一緒にキビサトの中でかくれんぼしたり、一緒にキビサトを抜いたりして遊んでました」


「そうか、良い思い出だな」


「ええ」


 クロには楽しい思い出を大事にしてもらいたい。ちょっとだけしんみりしてしまったが、俺はそれをごまかすようにキビサトを引き抜いてみた。うむ、確かに球根だがカブみたいだな。千枚漬けとかできないのかな?


「これって食べれないの?」


「灰汁が強くて食べれたもんじゃないですよ」


「正真正銘の雑草か」


 そこで俺は何の気なしにカブにも鑑定をかけてみた。もしかしたら少し希望を残していたのかも知れない。


≪鑑定≫

名前:キビサトの球根

詳細:砂糖の原料:シュガの実(少量)と一緒に煮て灰汁を取り結晶化すると砂糖になる


「ふぁ!」


「ふぁ? 今度はどうしたんですか?」


「ファァァァッ! やったぞ。予想とは違ったが間違ってなかった!」


「え? これがですか?」


「ああ、そうだ。ところでシュガの実ってなんだ?」


「シュガの実はそこらへんに生えている、それこそ雑草の実ですよ。」


「そうか、それは良かった。サティの家で使ってない部屋か納屋を貸してもらおう」


「納屋なんか借りてどうするんですか?」


「決まってるだろ。実験だ!」



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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