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よろしくお願いします。
言っちまった。サティとソニアがこっちを見てる。その目が何を言いたいのかが分かるのが怖い。でも任せろ。これもサティの故郷の為、Namelessの発展の為だ。しかしこちらの席へ移ってからサティはさっきの怖いお姉さんと話しているな。知り合いか? まあ知り合いでもおかしくはないか。あ、目が合った。なぜ俺を睨むのだ!
「あるの?」
「はい。ただ条件があります」
「それは話次第だけど、聞かせてもらっても良いかしら?」
いつか皆でいつものケーキ屋さんに行った時の事だ。よく行くケーキ屋さんであるが、ケーキは贅沢品で非常に高価なのだ。一般の人がおいそれと食べれるモノではないのが本当の所だ。クッキーやお菓子とは扱いのレベルが違う。そんな時に、ケーキの甘味料について尋ねた事がある。その時驚いたのだが、原料ははちみつや果物が主だと言うのだ。サトウダイコンのような作物で俺の考える砂糖みたいなものはあるのだが栽培が難しくあまり流通していないらしい。
名前は白根砂糖と呼ばれているようだ。十分に美味しいケーキだからその時は深堀りしなかった。そう言えばケーキを食べるお店は富裕層ばかりだったと今更ながら思う。俺はこっちに来てから男爵家と行動をする事が多いから、言い方は悪いが庶民との感覚とは少しずれている所があるのだろうな。嫌みになってもいけないから気を付けないと。
「まだ、調べてないからハッキリとしたことは言えないのですが、街の周りに背の高い木というか雑草と言うのかがたくさん自生してるでしょう? あれは何ですかね?」
「キビサトのことかしら? あるわね。刈っても刈っても生えてくるから農家の悩みの種なのよ」
「そうですか。いくつか質問させてもらっても良いですかね? こちらでは甘味ははちみつと聞いてますが、それ以外にはあるんですか?」
「白根砂糖とはちみつが主ね。白根砂糖の原料である野菜は収穫高が少ないわ。あとは果物かしら」
「そうですか。では砂糖が増えれば需要はありますかね?」
「もちろんあるわよ、常に品薄だから」
「なるほど」
つまり、砂糖を作っても問題ない。需要はある。リンクルアデルに輸出するのもありだな。儲かるかな? これは儲かるだろう。はちみつ農家や白根野菜農家への打撃も住み分けをきちんとすれば問題ないと思う。ある程度淘汰される可能性はあるが......そこは陛下に任せよう。
「条件なのですが、ここに私の商会を作っても良いですか?」
「基本的には構わないけど内容によるわね」
「でもそれをお話するには、少し私の仮定を証明する時間が必要なんですよね。明日にでも確認しますので、条件としては後からまとめてお話すると言う事でよろしいでしょうか?」
「問題ないわ。良い話ならすぐにでも進めたいから私も同行するわ」
「無駄足になるかも知れませんけど......ロッテン内務卿が直々に良いのでしょうか?」
「構わないわ」
そうして一旦話は終わり明日改めていく事になったのだが、ダルタニアス王が明後日の予定について話を始めた。
「ああそうだ、明後日はライガード様降臨を祝って式典を執り行う。民衆が知るべき神託についてもその時に発表する事になる。ヒロシよ、お前式典に出席してくれないか?」
「私がですか?」
「ああ、ヒロシと言うより仮面の男としてだがな。巷で噂の仮面の男が式典に現れたとなったら民衆も喜ぶだろう。ロイヤルジャックも当然出席するのでゲストとして出てくれんか?」
「皆の前で話すとか、苦手なんですけど」
「黙って立って手を振るくらいで良い」
「それなら大丈夫かな?」
「ライガード様の降臨にロイヤルジャック、そして仮面の男との繋がり。民衆も盛り上がるわい。獣人は強者に対して平等だ。そこに種族は関係ないからな。皆喜んでくれるだろう」
「陛下は国民を大事にされているのですね。流石は百獣の王です」
「おい、お主いま何と言った?」
「え? いや、すみません。何かお気に障りましたか?」
「何と言ったのだ?」
「国民を大事にされているのだな、と」
「その後だ」
「ええと、百獣の王ですかね?」
「どういう意味なのだそれは?」
「それはですね、私の故郷では陛下のような獅子の事をさして百獣の王、即ち獣人(故郷にはいないけどな)の頂点をさす時の形容として使われるのです。すみません、お気に障ったのなら謝罪します」
「気に入った!」
「うお! いや、失礼しました」
ビックリするじゃないか!
「百獣の王か、聞いたか皆の者よ! うむ、余に相応しい二つ名だ。ムフフ、百獣の王か」
ムフフって言ったぞ今。でも気に入って頂けたなら嬉しい。陛下はしばらく豪快に笑うと、後ろの執事に話しかけた。
「おい、もっと酒を持て。今日はすこぶる気分が良い。皆で飲もう」
「はっ、畏まりました」
しばらくして執事は数本のワインとウイスキーを持ってきた。陛下はお酒好きみたいだな。お酒かぁ、ある程度のお酒の種類はあるからなぁ。上手い事やればウエストアデルもやりようでは金になるかも知れないな。うーむ、どうしよう。要するに物が売れないのは金が無いからなのだ。まずはドルスカーナの経済を底上げする。出来るかどうか分からないが、それがうまくいくとリンクルアデルにも効果は波及するはずだ。というような事を考えていると、アッガスが俺を呼んでいた。スマン、聞いてなかった。
「おい。おい、ヒロシ!」
「ああ、アッガス、すまない少し考え事をしていた」
「商売の事は明日考えろ。それより虎には無いのか、虎には!」
「呼び名の事か? ええと、確か虎は密林の王者だったかな?」
「な、なんと...... 陛下聞かれましたか? 密林の王者だと」
「うむむ......なかなか良いではないか」
「クマはないのか?」
先ほどから沈黙を守っていた熊の獣人さんが話しかけてきたぞ。歴戦の猛者丸出しのような人だ。どうしよう。はちみつが好きとかとても言える雰囲気ではないぞ。
「クマさん、失礼、熊はですね......山の神だったかな?」
「おおお、なんと畏れ多い。お前の故郷では熊獣人は神格化されておるのか」
「なんと言うか......まあそんなところですかね?」
熊獣人は居ないんだけどね。隣を見ると陛下とアッガスは何やら悔しいそうと言うかなんとも言えない顔をしている。チッとかケッとか聞こえてきそうな感じだ。対照的に熊さんはニッコニコだ。高そうな酒をがぶ飲みしているぞ。あ、俺を睨む彼女と目があってしまった。
「ええと、あなたはですね」
「私は何も聞いてはいない!」
「はいぃ! そうでした。すみませn」
「そ、そんなもので気を引こうなどと考えぬ事だ!」
聞かれたから答えたのに......辛いぜ。
ストックできない......どうしましょう。
頑張りますので引き続きよろしくお願いします。