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よろしくお願いします。
「お前が仮面の男なのだろう?」
アッガスは俺が仮面の男と呼ばれていることは実は知らない。この呼び名を始めたのはアデリーゼに行った時、アンジェリーナをロングフォードに連れて帰る途中でローランドの森で討伐をした時にサティがつけた名前だ。吹聴して回っている訳ではないので俺が仮面の男とは結び付いていないのだろう。ここで『はい、そうなんです』と答えて良いのかが悩む所だ。俺がそうである事はサティが自分の親にまで秘密にしていてくれている。ましてリンクルアデルでは秘匿の対象と言っていたからな。俺が少し悩んでいるとダルタニアス王が再び話を始めた。
「すまん、少し意地悪な質問であったな。これを聞いたのは実はお前にも話しておくことがあったからだ」
「俺......いや私にですか?」
「そうだ。リンクルアデルに創造神アザベル様が降臨されたと言う事は知っておるな? ああ、まあ簡単に言える事ではないな、そのまま黙って聞いておれば良い。アザベル様が降臨されたことは知っている。ここドルスカーナではアザベル様を崇拝しているのは当たり前だが同じく獣人の神を信仰しておる。獣神ライガード様だ。ライガード様は獣人の神、この土地を見守ってくれておる」
そこでダルタニアス王は一息ついて言った。
「一昨日、ライガード様がこの地に降臨されたのだ」
「え?」
「ワシはそれはそれは驚いてな。ひっくり返りそうになったわ。いや、ひっくり返ったな。ハッハッハ」
ダルタニアス王、私からワシになってますよ?
「神殿は大騒ぎだ。ワシも慌てて中に入ってな。畏れ多くてお姿は拝見出来なかったが、あれは間違いなくライガード様だった。そこでいくつか神託を授けられた訳だが、その中にお前の事も入っておった訳だ」
「は?」
「心配するな、ここに居るものは全員その事を知っておる。そしてアッガスに土を付けたお前とバルボア騒動で活躍した仮面の男が同一人物だと言う事もな。ライガード様はリンクルアデルにはアザベル様が既に神託を降したことを仰られた。内容は一緒だろう。お前の政治利用の禁止だ。だから特にお前をどうこうしようと言う訳ではない。こことの繋がりは既にサティで出来ておるしな。そういう意味ではサティよ、よくやった!」
「ありがたきお言葉。しかしながら陛下、神託があろうとなかろうと私の気持ちは変わりません」
思わずサティに抱きつきたくなったぞ。
「そうだな、これは失言であった。狐炎のサティが金や地位で番を選ぶはずがないか。まあ堅苦しいのはここまでにして、隣に食事の用意をさせておる。そっちでもうちょっとゆっくり話そう。ロッテン、準備は整っておるか?」
「は、陛下。既に整っております」
「よし、それでは行くとしよう。ヒロシよ、彼女はロッテンと言ってな、内務卿だ。商売の話など色々と話を聞いてやってくれ」
「あ、はい。それはもちろんです。私でお力になれる事があれば何なりと」
部屋を移ると豪勢な食事が用意されていた。クロとアリスは別の部屋で王室メイド衆と一緒に食事をとっているそうだ。ここはあくまで王族関係者のみが集まっている。それはさておき、謁見の場から俺を睨みつけてくれる怖い人が居る。いや、目つきが鋭いだけなのかな? ロイヤルジャックのメンバーなんだが勘弁してほしい。アッガスが暴虐の王の異名を持つように彼女も二つ名持ちなのだろうか。
「さあ、さっそく始めよう。ここは食事の席だ。無礼講だぞ。言葉遣いも気にする必要はない。よいな?」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
俺はそこで今のドルスカーナの状況を聞いた。実は街が栄えていないのはイーストレイクだけではないそうだ。民は増えるが作物が増えない。個人輸出入はしていはいるがウエストアデルだけでは高々知れている。温暖な気候なので冬を越せないとかいう悩みはないが、街は確実にその成長を止めているのだ。高度経済成長を目指しているのではない、ただ消費が増えるのが分かっていて手を打たないのではやがて国家の衰退に繋がる。それを懸念しているようだ。随分と前から懸念されていたらしいがいよいよ目に見えて悪くなってきたと言う事か。
「でもロッテンさん、そんな国の事情を俺に話しても良かったんですか?」
「ライガード様が、ヒロシさんは優れた商人だから相談にのってもらうようにと」
なんだそれは。神様に丸投げされたような気がするが気のせいだろうか?
「リンクルアデルの男爵家とは言え、政治には関わっていないのでしょう?」
「はい」
「サティも居りますしドルスカーナに不利益をもたらす事など致しませんでしょう?」
「それはもちろん」
「じゃあ問題ないのでは?」
「まあ、確かにそうではありますが」
そうではあるが、ネタが無いんだよ。どうしたもんかなぁ。異国にNamelessの支店が出来るチャンスだぞ? これはビジネスチャンスだ。しっかりしろ俺。この状況前にもあったな、さてどうしたものか。国のトップと話が出来るチャンスをみすみす逃すなんて事はしてはいけない。頑張れ、頑張るのだ。
「やはり、今日の今で何かを期待するのは流石に間違いね。ごめんなさい。長期的とまではいかないけど、少し気に留めて頂ければ有難いわ」
「あります!」
言っちゃったぞ、俺。また考えがまとまってない内にやっちまった。
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