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翌朝、俺たちは馬車に乗り込み出発した。ちなみに昨晩ロイは最終的に俺の顔の上まで登ってきて非常に苦しかったと付け加えておく。寝相が悪い子供たちは族長の家でシンディとメイド衆と一緒にお留守番だ。謁見の場には連れて行けないので仕方ない。王家から来た馬車は非常に豪奢でリンクルアデル王家の馬車と比べても遜色の無いものだった。そしてしばらく走ると前方には王都レインヒルズにドルスカーナ城が見えてくる。
高温多湿な気候で亜熱帯気候になるのではないかと思うが、雨は降るがそれほど多くないらしい。海も近いのでリゾートとしては最適だな。王宮は熱帯地域の宮殿に見られる開放的な宮殿で周りには贅沢に水廊が張り巡らされ、王城の主建物やそれを囲む塔の先端には丸い大きな玉ねぎのような冠があてがわれている。
アラビアンナイトの世界を彷彿させるような建物だ。玉ねぎは金を主体とした色で奇麗に装飾され、建物自体は白を基調としている。壮大だな。リンクルアデル城はイギリスのお城やバロック建築をイメージしたがこちらはイスラム風建築に見える。王宮内の文官たちの服装は薄い色がついたローブのようなものを羽織っている人が多いようだ。宮殿内で白を羽織る事が出来るのは王族だけらしい。もしかしたら文官も立場によって色分けされているかも知れないな。
謁見の場に通されると俺たちは屈んでダルタニアス王の入場を待つ。これは別に臣下の礼ではない。ドルスカーナの王への敬意を示す礼儀のようなものだ。よく考えたら俺はまだ正式には男爵でもないので、何故この場に呼ばれるのかがよく分かってなかったりする。本来はもっと身分のお高い方々が来るべきなのではと思うのだが。サティが言うには今回は外交目的ではなく、サティの結婚相手、俺だな、を見るのと恐らくアッガスが王へ上げているの情報についての話だろうと言う事だ。正直気が重いぞ俺は。待つこと数分、謁見の席の後ろ側からダルタニアス王が姿を現した。それを囲むようにしてロイヤルジャックが出てきて一段低い場所の両脇へと並んでゆく。アッガスもいるな。左右4名ずつなので8部隊あると言う事か。俺達はそれを確認して再度頭を下げた。
「私がドルスカーナ国王レオン・ダルタニアスである。遠路ご苦労であったな、楽にせよ」
「は、ありがとうございます」
俺はゆっくりと顔を上げた。ダルタニアス国王は獅子獣人だ。立派な鬣をお持ちである。しかしオーラがハンパない。シュバルツ国王もそうだがやはり一国の主ともなると存在感がハンパないぜ。しかし、これからどうしたら良いのだ? この沈黙が俺には耐えられない。ソニアと目が合うと軽くうなずいたので俺が話すのだと理解した。
「この度は貴重なお時間を頂き、更には謁見頂ける栄誉までもらえた事は大変幸せに感じております。私はリンクルアデルはアルガスから来ましたヒロシ・A・ロングフォードと申します。先日アルガス男爵であるゾイド・ロングフォードと養子縁組を結び、ゾイドは私の父となりました」
俺はそこで言葉を区切り、二人の妻の紹介をした。
「こちらは私の妻で第一夫人となるサティ・A・ロングフォード、こちらは第二夫人のソニア・A・ロングフォードとなります。私共々よろしくお願い致します」
二人は紹介されると軽く頭を下げてそのままの姿勢を維持している。皆礼儀を知っているみたいだ。俺は間違ってないだろうか?
「ヒロシ・ロングフォードよ。其方の噂は聞いておるぞ。先のバルボア騒動でも活躍したそうだな。その時、そちらのソニア夫人が捕らえられたと聞く。見た所元気そうだが大変であったな」
「ありがたきお言葉でございます、ダルタニアス陛下」
「うむ、そしてサティ。久しぶりだな。結婚したと聞いた時には驚いたわ。しかも相手が人族だとはな。ヒロシがどうだと言う事ではないぞ? サティが結婚すると言う事はそれくらい獣人国の間では事件だったのだ」
「お久しぶりです、陛下」
「狐族に相手がおらんからもうお前は一生独身だと思っておったがな。アッガスに土を付ける実力の持ち主であれば人族であっても誰も何も言わんだろうが......それは言えぬ事だな?」
「その通りでございます」
「その話をする前に一つヒロシに聞いておきたい。アッガスから聞いたがウインダムのセイラムとも戦ってそれにも勝利したとは真の事か?」
「確かに勝利はしましたが、アッガスさんとも同じく模擬戦での事でございます。真剣勝負とはまた全く別次元の話であり、次も勝利できるとは到底思えません。アッガスさんにしてもセイラムにしてもです」
これは本音だ。アッガスに至ってはまだ変化を残していると考えていたが、この間のバルボア騒動の時にサティが戦った二人組の状態を見て確信した。上半身が吹き飛んで爆散しているんだぞ? 俺が知っているサティの獣人化は全身が少し赤くなって俊敏さが上がるものだった。剣を早く振るったところで上半身が吹き飛ぶことは無い。サティは間違いなく違う方法を使ったはずだ。俺には話してくれなかったが、アッガスが言う『獣人化だけでは足りなかったか』と言う前回の言葉をあてはめると、獣人化にはその先があると考えるのは普通だろう。
あとセイラムについてもだ。首輪の確認を念のため行った際に気づいたのだが、あれの直接の死因は剣で刺されたことだろうが、問題はその体の状態だ。腰や手足がえげつない方向に曲がっていた。どうやったら剣でああいう真似ができるのだ? 恐らく剣のスキルではない、あれは何か特別な......能力か何かだろう。発動条件か制約などがあるのかは知らないが、いずれにせよアッガス同じく奥の手を持っていると言う事だ。知らない間に鎧もつけてたしなアイツ。
「そう思うか?」
「ええ、本当にそう思っております。でも再戦はご勘弁願いたく。私は商人として生きておりますので」
「はっはっは、そうよな。そうであったな。ついついその姿を見たいと思ってなぁ、仮面の男よ」
ダルタニアス王はニヤリと笑ってそう言うと、体を肘掛けに預けながら俺の方へと少し体を前にずらした。
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