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本日2話目となります。

ここから開いた方は一つお戻り下さい。

よろしくお願いします。


 ご家族は既に着席されている。緊張で心臓が飛び出しそうだ。テーブルの正面にサティのご家族が座る形になっている。俺はメイドさんに促されるがままに席に着いた。何か喋らないとな。


「はじめまして、リンクルアデルのアルガスから来ました。ヒロシ・ロングフォードです」


「よく来たな。私はブライト・フェルナンデスだ。この街で族長をやっている。お主には馴染みがないかも知れないが、リンクルアデル風に言うと恐らく伯爵にあたるだろう」


 やはり伯爵級であったか。判決次第では俺はここから飛び出してリンクルアデルまで逃げ帰らなければならない。そうならないことを祈るのみだが。


「突然お邪魔する形となり申し訳ございません。また、ご挨拶が今まで遅れまして大変申し訳ございません。サティさんからお聞き及びかとは思いますが、実はサティさんとはご結婚させて頂いており......本当に事後報告で申し訳ないのですが、是非ご結婚のご挨拶をと思いまして」


「ああ、聞いておるよ。なに、獣人の世界ではそんなに珍しい事ではない。恐らく人族でもな。異種族の礼儀はよく知らんが、よっぽど娘が酷い選択、もしくはひどい目に遭わない限り結婚は基本的に本人同士が決めるものだ」


「そう言って頂けるとありがたいのですが、私は異種族にあたりますし。またお目に掛かるのも初めてでして」


「確かに、結婚の前に挨拶の一つは欲しかったところではあるがの。サティから聞けばお主は大層忙しくしておったと聞いておる。お主の人とナリはサティから嫌というほど聞かされておってな。そもそも、サティは結婚しないと強く言っておったもので、この話を聞いた時には逆に会いに行きたくなったほどだ。なあ、シーナよ」


「ええ、そうですよ。最初サティから聞いた時には驚きましたわ。本当よ? 正直サティの結婚は諦めていたのよ。女だてらに勇ましすぎるというのも考え物だわ」


「もう! お母さん!」


「あらあら、ごめんなさいね」


 シーナさんはブライトさんの奥さんだ。後、隣にはお兄さんのトニーさんと妹のリリーさんが座っている。二人とも美男美女だ。狐族には美形が多いのかな? 二人も会話に参加してきた。ここまでは本当に受け入れてくれるようで正直ホッとしている。


「ヒロシさんだったね。僕はトニー、サティの兄だ。本当の所サティの結婚に関してとやかく言うつもりはないんだよ。君が都合で来れなかったというのは承知しているし、それも含めてサティから説明は全部受けている訳だからね」


「あ、はい。ありがとうございます」


「僕たちが聞きたいのは一つだけなんだ」


「なんでしょうか?」


「なぜ、サティが君と結婚をしたいと考えたかという事なんだよ」


「えと、それは......なんでしょう。自分で言うのもなんですけど」


「はは、それは好きになったからだろう。知りたいのは好きになった理由だよ。君は男爵家の跡取りであり、商会の会長である。でもサティがその部分に惹かれることは無いんじゃないかなと思ってね」


「そうよ、お姉さまがお金なんかに惹かれるわけないわ!」


 そこで、妹であるリリーが口を挟んだ。


「きっと汚い手を使ったに違いないわ!」


 この娘はなんてことを言いだすのか。上手く話が進んでいたかと思えば、反対派はここに居たのか。


「お姉さまはきっと騙されてるわ」


「だ、騙してないっすよ」


「薬か何かね!」


「そ、そんな事もして無いっすよ」


「嘘をついてもダメよ! あなた薬を作ってるんでしょ!」


「ひ、ひどい!」


 俺が絶句していると、トニーさんが助け舟を出してくれた。


「こらこら、リリー。いくらなんでも失礼だろ。すまないねヒロシ君。彼女は昔からサティにべったりでね。結婚したのを信じたくないんだよ。と言うか、サティより強い者なんて中々いないからね。ただ、物理的な強さだけが全てじゃないのは僕らは分かっているんだ。かと言って、お金でも階級でも無いとなると何だろうなと」


「なるほど」


「返答次第ではこの場でぶっ殺してやるわ!」


 可愛い顔して物騒な娘だなおい!


「リリー」


「はい! お姉さま!」


「あなた、私の旦那様に散々言ってくれるわね?」


 あ、サティがちょっとオコだ。オコだぞ。


「でもお姉さま」


「リンクルアデルに籍を置く私としてはシュバルツ国王陛下からのお考えもあるから詳しくは言えないけど、お金以外にもキチンとした理由があるわ」


「言えない事って何よ! きっとこの男が何か卑怯な手を......」


 国王陛下のお考えと言っただろう。なぜ俺が卑怯な手を使う事になるのだ?


「ちゃんと私が納得する強さも持った人なのよ。本当よ?」


「でも......」


「いい加減にしないと怒るわよ?」


「うぅ......」


「リリー、()を疑ってるのね?」


「いえ! 決してそんな事は!」


「なら、いいじゃないの。自分の旦那を捕まえて言いたくないのだけど、この人普段は飄々としてるから強さ云々は見た目では分かり難いのよ。私も最初は分からなかったし。基本的には商人だから強さ自体にあまり興味も無いから仕方ないのだけど。その内あなたにも分かるわよ」


「お姉さまも? でもいつか分かるのでしょうか?」


「多分ね」


 多分かよ。まあ良いけどさ。


「でもあなたが分からなくても別に私は困らないわ」


「......分かりました」


 少し無理やり感もあるけどリリーさんも納得はしてくれたようだな。だが彼女が俺を見る目はどこかルナと似ているな。最近会ってないけど元気なのかな? まあいいか、とにかく良かった。ひとまず落ち着いた所で俺たちは料理を頂いている。街の経営状態とかどうなのか気になるが、いきなり俺がそんな話を切り出す訳にもいかない。今の俺の仕事を中心に話が進み、第二夫人であるソニアと子供たちの紹介などをして食後のデザートを食べている時だった。


「しかし、ヒロシ君はすごいな。そんなに大きな商会をもって、もう二人の奥方を持つなんて中々の器量じゃないか」


「ブライト族長にそう言われるとお恥ずかしいのですが、今の僕があるのは彼女たちの支えがあっての事ですから」


「気に入った! 礼節を弁え取るじゃないか! 私は義理の父になるのだから族長などとつける必要はないぞ? お義父さんだろう、ん?」


「いや、まあそうですね。でもなんだか照れ臭いです」


「ますます気に入った! 中々奥ゆかしい所もあるではないか!」


 ブライトさん、いやお義父さん酔っぱらってますよね? 酒を飲むスピードが恐ろしく早いんだけど。


「何と言えば良いのか、ありがとうございます。お義父さん」


「ほほお! 聞いたか、おい聞いたか、シーナよ! ヒロシ君が私の事をお義父さんと......くぅ」


 おいおい、今度は感極まったのか泣きだしたぞ。でも明るい人だな。もう良い人にしか見えない。


「はいはい、良かったわね。ごめんねヒロシさん、飲むと普段は陽気な人なんだけど。でも、あれね。普段より飲んでるからよっぽど嬉しいのね」


「そう言って頂けると僕も嬉しいです。えーと......」


「もちろん私の事はお義母さんよ、いいわね?」


「分かりましたお義母さん」


「良いわねその響き。ちょっとブライト、あなた今日は特別にもう少し飲んでもいわよ」


「そうだな、めでたい日だ。飲もうじゃないか」


「じゃあ、僕はお兄さんだね」


「はい、よろしくお願いします。トニー義兄さん」


「なんだか語呂が悪いからトニーさんか義兄さんで良いよ」


「はは、ですね。分かりました」


 そこで失敗したのだろう。俺はリリーを見てしまった。


「噂の男ならまだしも......私はあなたをお兄さんだなんて呼びたくありません!」


 そう言って席を立ってしまった。俺はその後ろ姿を見送る事しかできなかった訳だが、一つ聞きたい。俺が一体何をしたと言うのだ。どうも挨拶が遅れたのが原因ではなさそうだが、やはり俺が弱っちく見えるのが原因なのだろうか。そんなに弱っちく見えるのかな。確かにこっちに来てからはジャギルをはじめ、チンピラには舐められることは多いのだが。そう思うとそれが原因かもしれん。


「大丈夫よヒロくん、放っておけばいいのよ」


「ああん? 俺がそんなこと気にするかってんだよ」


「別に無理して強がらなくても良いのよ?」


「実はとっても悲しい」


「ヒロくんはそのままでいいんだから」


「うん、わかった」


「それはそうとヒロシ君よ。リリーの言った噂の男で思い出したんだがな、ちょっと聞きたい事があるんだ」


「なんでしょうか、お義父さん」


「最近、吟遊詩人がこの辺りでも詩っているのだがな。リンクルアデルには仮面の男(マスカレード)と言う正体不明の強者がおるらしいが知っておるか?」





お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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