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ゾイドさんの正体と気にかけてくれる理由が明らかになってきます。
じいさん、大した実業家だったんだな。まぁあれだけ大きいホテルを経営してるんだ。それも当然だろう。ここに連れてこられた理由も含め改めてお礼を述べるのが筋ってもんだろう。
「ゾイドさん、みなさん改めてお礼を言わせて下さい。それにこんな服まで頂いて。私にはあなた方にどう報えばいいのか分かりません。本当にありがとうございます」
「ゾイドさんって言われても照れるな。じいさんで良いぞ。まぁ、お前を保護したことについては昨日も話した通りだ。行くところもないのであればしばらくここで客人として過ごしても良い。何なら宿屋で働いても良い。何でもできることをして金を貯めるんじゃ」
「お金ですか、そうですよね」
「いやらしい話、金がないとどうにもならん。お前の記憶が戻ったとしても動きが取れんじゃろう。もちろんロングフォード家として助力は惜しまん。ただ無いよりあった方が良いに決まっとるからの」
「あ、はい。ありがとうございます......ロングフォード家?」
「そうじゃな、もう良いじゃろう。改めてこちらも自己紹介をさせて頂くとしよう。ワシはゾイド・ロングフォード。アルガス領の男爵じゃ。アルガス領には3つの男爵家があり、いくつかの士爵家がある。
それを取りまとめているのはアルガス領主のアルバレス・ローランドだ」
「じいさん......男爵だったのか?」
想像以上の人だった。
「隠したわけではないが、すすんで話そうとしたわけでもない。なにせお前さんは謎だらけだったからな。しかし色々と話をしているうちに気が変わったんじゃよ。その理由についてはこれからお前自身の口から明らかになるじゃろうとワシは睨んでおる。どうかの?」
「......ゾイド様って言った方が良いですよね? すみません、不作法で......」
「構わん、今まで通りじいさんで良いわ。ただ場所によっては気を付けてもらわんといかん時もあるがな。当分そんなことはないだろうがな。それより先ほどの話だがの、どうじゃ話してはくれぬか?」
俺は考える。このじいさんが男爵ってのは分かった。俺の詳細を聞いてどうする? 何か理由があるのか? 売り飛ばすのか、それとも領主だか国王だかに突き出すのか?
そもそも俺をどのように見ているのかも分からない。ただの迷子と思っている可能性もあるだろう。異世界から人間が来ることが当たり前の場所なんかないだろう。
少なくても地球では50年近く生きてきたが聞いたこともない。いや世界各地でそう言った話はあるにはあったが全部でまかせだって話だ。
「頭がおかしいと思うかもしれないぜ?」
「そうかもしれん」
「もしかしたら皆に危害を加える人間かも知れない」
「そうかもしれん。そうは思わんがの」
「......分かった。じゃぁ、話す。だが、すまないが人払いをお願いしたい。俺自身、俺の事をどこまで誰に話せばいいのか全く分かっていないんだ」
「セバス!」
セバスはすぐにメイドを連れてノックの音とともに現れた。人払いしても外で聞こえてるんじゃね?
まぁ、そこは信頼するしかないか。別にばれたとしても頭のおかしい人間の妄想事だと思われるに違いない。
じゃぁ、なんで人払いするかって? 念には念をだよ。メイド衆はシェリーとロイを連れて出ていった。二人はゴネてたけど、ソニアさんに言われて渋々出ていったよ。この年齢にしては本当に聞き分けが良い子たちだ。
ソニアさんも含め皆の躾というか教育が行き届いている気がする。子供にしても子供らしさの中に気品があるような気がするんだよね。オーラか?
「じゃぁ、話すぞ。できればこの話はここだけの話にしてくれれば助かる。俺自身状況が飲み込めてないってのが大きな理由だ。話す内容についても全て話せるかどうかわからない。それも追々状況を見て決めさせてくれれば助かる」
「それで了解じゃ」
俺は話した。違う世界の事について。日本と言う国について。故郷とは別の国で働いており自分の国に帰る途中に事故にあったこと。そこに至るまでの経緯。その時に不思議な体験をして気が付いたらこの国、世界に居たこと。
最初分からなかった言葉や文字も認識できるようになったこと。簡単な魔法が使える事など。パスの内容については一部俺の前の言葉が使用されていたこと。俺自身には意味が分かるが能力の内容については未知であること。
一点、それを施した創造神様については言わなかった。
「なるほどな」
「頭がおかしくなったと思うか?」
「おかしいと思うには話の辻褄があっている。長い年月でパスの内容が読めないことなど初めてだしの。閲覧不可についてはどうだ? 何か加護持ちのような気がするんじゃがな?」
やはりそこか。しかし創造神様が閲覧不可にしたことを俺がべらべら話す訳にもいかないだろう。俺は忖度ができる男だ。
「それについてはそうだな、回答できないな」
「知らないではなく、回答できないか。面白い、良いじゃろう。今は聞かんでおこう」
「助かる」
「それで、今後についてじゃが、どうする?ここにしばらく居てこの世界の常識を覚えながら自分に何ができるか探すのが良いかと思うが? 多少の支援はしてやるがこのまま出ていくよりここに居た方が良いと思うぞ」
「そうさせてくれたら本当にありがたいが、なぜそこまで気にかけてくれるんだ?」
「ワシは昔冒険者をしていての。ギルドのケビンたちとパーティーを組み依頼を重ねていった。その重ねた功績と実績で士爵を下賜されたのが40年前。ワシが30歳の時じゃ。士爵とは国家的な功労や功績を残した叙勲者がもらえる階級じゃ。本来一代限りの貴族階級じゃの。子供に継がすことはできん」
じいさんは続ける。
「その後も冒険者を続けておったのじゃが、ワシの息子夫婦が事故でソニアを残して他界してな。それでワシらは冒険者を止めて孫を育てることにした。ワシらまで死んだら孫は孤児になってしまうからの。2人で冒険者を支援する目的もあって宿屋と食堂を始めた。食堂はレザリアの考えた料理やサービスなどで順調に成長を続けアルガスの街の発展に一役買ったわけだ」
俺も時々相槌を入れながら話を聞いている。
「それで国王から今度は男爵の地位を下賜されてな。それが20年前のことになる。男爵とは平たく言えば地方の有力者のことじゃ。アルガスの街の一部はワシの管轄となり1年に1度は伯爵様の所へ税金を納めに行っているんじゃ。ソニアの夫はレオンと言ってな、15歳で成人してからは家業もろくに手伝わず冒険者をしておったそうじゃが、今から9年前にこのソニアと知り合っての」
二人はそのレオンさんと言う人の子供なのか。
「結婚すると言い出した。最初は反対した。地位やら世間体やら、まぁそんな事じゃな。それをレザリアには責められてのう。ついにワシも折れて2人の仲を認めることにしたんじゃ」
「それと今の話とどういう関係が?」
「職務上色んな話を聞く。お伽話の世界の話もあれば過去の英雄伝説もな。ワシは信じておらなんだ。そんな事があるわけないと。憧れはあっても現実的な話かどうかはまた別の話じゃ。じゃが、お前を見た時、いや正確にはギルドに行く前にお前と話した時に何か......勘というのかのう、放っておいてはイカン気がしたんじゃ。今お前の話を聞いてそれは確信に変わった」
「全く信じてなかったのにかい?」
「そうじゃ、レオンとソニアは9年前に結婚した。手前味噌になるがレオンは優秀な冒険者でな。メキメキ頭角を現していった。結婚したころは既にレベルはBクラスじゃった。だがそのレオンも今から5年前に他界した」
「そうか...それは何と言うかご愁傷様だな...」
なんか暗い話になってきたぞ。
「おじいちゃん、まさかあの話を気にしているの?」
ソニアさんは何か思い当たることがあるらしいぞ。
「あぁ、そうじゃ。レオンは戦闘で死んだのではない。突然死と言うやつだ。若いころに過剰な戦闘力や魔法力を持ってしまった者や体や精神に大きな負荷を受けたものが引き起こす可能性の高い病気の一種じゃ。もしかしたらドラゴンの呪いかも知れんとも考えた。じゃが、ワシは信じられんかった。あんなに元気だったレオンがこうも簡単に死んでしまうとはな」
「少し話が飲み込めなくなってきたんだが......」
「ヒロシよ、今の話ではお前は事故に巻き込まれる前に死後の自分についての質問を受けたと言っていたな?」
「あぁ、アンケートの事か? 確かにそうだな......まさか!?」
「そのまさかじゃ。レオンにもその質問があったんじゃ」
あと1話投稿します。
よろしくお願いします。