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よろしくお願いします。
昨日の夜は非常に何と言うか......すごかった。俺はこれほどまでにスケベな男だったのか。自分で自分が信じられん。スイートメモリーズを開発した俺は銅像くらい建ててもらっても良いのではないだろうか。いつかセバスさんが言っていたな、すぐに次の山へ登りたくなると。この薬のすごい所は元気になるだけでなく、なんと言うかその行為に対して興奮状態を保っていられる事だ。俺は彼女たちと何度も山を越えた。全く持って素晴らしい夜だった。値上げしようかな。
俺は横に眠る彼女たちの髪を撫でる。うーむ、なんだか朝からまたしたくなってきたぞ。昨日色々と吹っ切れたからな。このまま襲いかかりたい所だがとりあえず歯を磨こう。眠っているのを叩き起こして行為に至る事などあってはならないのだ。その辺について俺は紳士でありたい。そう思ってシーツをめくろうとしたその時だった。
「「おはよー!」」
ドアが勢いよく開かれ子供たちが入ってきた。おいいいいい! ヤバイ、ヤバいぞ。俺だけではなく全員素っ裸だ。俺は素早くシーツを被って、狸寝入りをかますことにしたがこれは悪手だ。子供たちが飛び乗ってきたりすると事態の収拾がつかなくなる恐れがある。どうする。考えろオレ。隣の二人を見ると子供たちにばれないようにしているが、その眼は見開かれている。そら、起きるわな。
「やあ! おはよう! 今日もいい天気だ!」
「今日は雨だよ?」
「そ、そうか、お父さんは雨も好きだ!」
「おとさん、一緒に朝ご飯に行こう?」
「そうだな! よし行こう! でも、そうだな。お母さんたちはまだ寝てるから少し待ってくれるかな」
「大丈夫、私が起こしてあげる」
「僕も」
「待て待て待てぇい! いや、昨日遅くまで起きてたからもう少し寝たいと思う。絶対そうだと思うぞ」
「なんで、おとさんは首から上しかシーツから出てないの?」
「え?」
「早く起きなよ」
「ああ、そうだな。もっともな話だ。その通りだ。今起きる、今起きあがるぞ。そうだ、今起き上がろうとしている所だ。もう少しだ。よーし、起きるぞ。」
「もう! 私が起こしてあげるわ!」
「僕もー!」
「やめろ、待て! 待ってくれ!」
二人はベッドに向けて突進してきた。ああ、もう終わりだ。このシーツをひん剥かれたら色々なモノが崩れていくのだろう。ソニアにサティ、守れなくて......スマン。
「お待ちなさい!」
その時颯爽と現れたひとりの女性。アリスだ。二人はビクっと体を一瞬硬直させるとソロリとアリスの方へと向き直った。
「お二人ともご夫婦の寝室に飛び入るなど、男爵家の、いえ特権階級の礼儀としてあるまじき行為。このアリス、教育係としてお二人をお叱りせねばなりません」
「「えー」」
アリス、お前二人の教育係だったのか。全然知らなかった。アリスはまだ若くて小柄なので、教育係と言ってもピンとこない。が、まあいい。まずはこのピンチを何とかしてくれ。
「さあ、お二人ともこちらへ」
「やだ」
「やだもん」
今だけは駄々をこねるのはお止めなさい、頼むから。俺は子供たちの動きから目が離せない。もし飛び込んで来たら手足をシーツに引っ掛けて踏ん張るしかない。ソニアとサティはごそごそとシーツの端を自分の内側へと巻き込んでいる。当然ながらアリスにはバレバレっぽいけどな。今の俺たちはベッドの上で俺を挟んで即席簀巻き状態だ。
アリスは、ふむと腕を組むと二人へと一言投げかけた。
「でないと罰ですよ?」
「「えー」」
そう言うと二人は渋々とアリスの方へと近づいて行った。出たな、『でないと罰』という必殺の言葉。俺も小さいころ親やアニキのいう事を聞かないでいると『でないと罰』と言われたもんだ。だがその罰の内容は決して明らかにされないという、不思議な効力を持つ魔法の言葉だった。もはや強制的に支配力をもたせる呪文か呪いのような類ではないだろうか。とにかく、この世界でも有効な方法なようだ。
アリスはドアの横で俺に向かって親指をグッと突き上げてから扉を閉めた。今回ばかりは助けられたぜアリス。お礼に今度の新薬は真っ先に彼女にあげようと思う。アイツはいつも遠慮して受け取らないからな。意外と人間の出来た奴かも知れない。
「危なかったわ」
「危なかったわね」
「ああ、危機一髪だった。しかし無事に危機は去ったことだし、では......グフフフフ」
「ちょっ、ちょっとヒロシさん」
「何やってんのよ!」
「痛い! なぜだ!」
サティにスパンと頭を叩かれたぞ。二人は呆然とする俺を尻目にさっさと服を着ると洗面所の方へと歩いて行った。うーむ、よく分からん。俺達は三人並んで歯を磨くと一緒にリビングへと移動したのだった。朝食は中華風ではなく洋風だった。もちろんアルガスでも中華風だとか色々なモノはあるが、ウエストアデルの方がもっと現地に雰囲気が近い感じだな。朝からワインが出てきているのがなんとも異国情緒溢れていて好きだ。しかし美味しいワインだな。そうやってグラスに入ったワインを眺めていると子供たちが話しかけてきた。
「おとさん、わたしもおとさんと一緒に寝たいの」
「ぼくも」
「おお、そうか。そうだな。たまには一緒に寝るのも良いな」
「いつもおかあさんばっかりずるいと思うの」
「ぼくも」
「おかあさんはおとさんを独り占めしてると思うわ」
「ぼくも」
ロイはさっきから同意しかしていないぞ。どっちかと言うと食べる方に専念しているようだな。
「そんなことないわよ。もう、あなた達ったら何言ってるの?」
「ダメ! ごまかされないわ!」
「ぼくも!」
「まあまあ、今は違う家にお泊りしているから、また家に帰ったらそうしよう。家族旅行ならいつでも良いんだけど、今はサティの家に挨拶に行くという事と、伯爵家にご挨拶という用事だからな。それなりに礼儀を弁えないといけないんだよ」
「むー」
俺はシェリーの髪を撫でながら宥めるのだった。
あいにくの雨だが予定通りドルスカーナへ向けて出発することにした。ウエストアデルからは半日程度の距離で道中の危険もほどんどないらしい。アッガスは俺たちを伯爵家に届けた後で既にドルスカーナへ移動している。伯爵にはちゃんとお礼を言ったぞ。何か商売の知恵を貸してくれと言われたので、出来る限り考えてみますと答えておいた。商会を開いても良いとの事だったので、労せず認可が下りるのなら何か商売になる事を考えても良いかも知れない。
実は朝食の時に伯爵と話した際にワインの話をしたのだが、ワイン作りは出来るが場所が場所だけに出荷量が少なく、流通させる程には力を入れていないらしい。これ程美味いワインだというのに勿体ない。これをブランド化させて流通させる方法があるのではないか? まだ企画段階なので何も話はしていないが、少し考えてみようかと思う。
しっとりと降り続く雨の中、俺達はドルスカーナへと出発した。
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