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「ねえヒロシさん、このお店にしましょう」
「おっけー」
入ったのはレストランだ。だが、高級レストランではない。どちらかと言うと大衆向けの食事処みたいな感じだな。風通しを良くするため四方の壁はない。何と言うか目線が低いと言えば良いのか、通りがすぐ側に見えるので距離感がすごい近い感覚だ。東南アジアのフードコートみたいな雰囲気だな。
「いらっしゃい、なんにしましょう!」
「ええっとな。メニューとかはないのか......サティに任せる。あ、そう言えばシンディはウエストアデルから来たんだよな?」
「ええ、生まれはドルスカーナですがウエストアデルで活動してましたので」
「じゃあシンディが食べたいものにしよう。任せた」
「え、ええと、どうしましょう」
「片っ端から何でも頼んだらいいのよ」
サティはこの辺りがおおらかだ。
「それでは、私の独断と偏見で......」
出てきたものは中華系を彷彿させる料理の数々だった。美味い。この脂っこさがたまらん。ビールが進むなぁ。まだ昼間だから酔うほどにがぶ飲みする訳にはいかないが。このミミガーみたいなのは何だと聞いたらオークの耳だった。そうか、そのままであったか。オークは討伐対象になっているとは言え、ランク的には上の魔物であるため、希少部位だそうだ。マッスルボアとかボア系のミミガーもあるが、美味いのはオークらしい。
昔なら二足歩行の生き物を食べるのはちょっと、と思っただろうが今は気にならない。慣れなのか耐性なのか。随分と俺もこの世界に馴染んだと今更ながらに感じるぜ。護衛達も違うテーブルで食事中だ。別に危険も無いから四六時中警護してもらうのは気が引ける。テンプレ的に誰かが絡んできたりしてきた時にはご活躍頂こうと思う。それはそうと俺は気になっていることをサティに聞いてみた。
「サティさんや」
「なによ」
「そろそろ実家について教えてくんない? いきなり会うのって心の準備が追いつかない」
「私の家の話ね。良いけど聞いたらがっかりするわよ?」
「しないよ」
「どうかしら? でも良いわ明日には分かるんだし。あのね、ただの族長よ」
「え?」
「族長なのよ、私の家」
族長とはどういったレベルなのだろうか? アッガスの話などから薄々それなりの地位はありそうと思ってはいたが本当にそうだったのか。でもがっかりするとはどういうことだ? そもそもただの族長ってなんなのさ。
「ビックリしたけど、ガッカリはしないな」
「言いたくないけど没落しかけてるのよ」
「ごめん、後で聞くよ」
ちょっと皆でご飯時に話す内容でもない気がして、俺は夜にでもまた改めて話を聞くことにした。食事の後俺たちはウエストアデル街をブラブラして時間を潰したのだった。シェリーとロイは屋台の食べ物やお菓子に興味津々で、いくつか買ってあげた。さっき食べた所で良くお腹に入るよな。ウエストアデルには大きな商店はないようで、町の雑貨屋さんのような店が多い。正直あまり商売になるイメージが湧かないな。今の段階ではこの街に支店を出す意味はあまり感じられなかった。やはりアルガスまでが遠いからなぁ。交流が無いというのはある意味難しい問題だ。
そして夜。子供たちが眠った後で今俺たちは隣の部屋で軽くお酒を飲みながらスナックをつまんでいる。アリスが色々と準備をしてくれた。ホテルのスィートルームの豪華版だと思ってくれたらいい。子供と大人の寝室は別々に分かれてある、そんな部屋だ。ここは子供たちと俺達夫婦が使わせてもらっている。クロやアリス達メイド衆とシンディ達護衛衆は各々違う部屋を用意されているので寝る時はそちらへと移る格好だ。
ドルスカーナは領地制ではなく部族制らしい。特に領地を分けることなく部族ごとに村を作り固まっている感じだそうだ。分け方としては村長、町長、族長、そして部族長だ。大きな街には様々な獣人が住んでいるらしいがその辺りはどうやって管理しているのだろうか?
とにかくリンクルアデルに当てはめると、町や村を治める町長が男爵、その集合体である街を治める族長が伯爵、部族長が侯爵。そして侯爵以上は王都の近くに住んでいると。定義としては村や町がいくつか集まったら街になるみたいだ。サティの家は比較的大きな街を治めているようだが、その街の経営が以前から上手くいってないらしい。街を経営できない場合は族長はその任を解かれ、違う族長の街に併合、もしくは吸収される。
サティは族長の娘であり、その街は吸収合併の危機に瀕している。という事だ。ドルスカーナでは族長だろうけど、リンクルアデルに置き直すと伯爵クラスって事か? すごいな。
彼女の家は既に後継ぎが居り後継者問題はないので、サティは早々に冒険者になったという事だ。本来貴族であれば今回のような事態を回避するため政略結婚などが行われることがあるのだが、獣人は女性をそう言った政治の道具の為に嫁に出したりしない。それには一つの大前提がある。そう、獣人女性は強者を好むという特性だ。その為に政略結婚と言う概念がないらしい。重要なのは後継ぎがいるかどうかである。もし何かの理由で継げなくなった場合に、出て行った娘を呼び戻すとか新しく養子を取る等という動きになるそうだ。
仮に同種族の獣人から政略結婚の申し出があってもオスとして認められなければ婚姻は成立しない。男は恥をかく事になるし、嫌がる娘を嫁に出すなんて事は獣人のプライドが許さないのだ。だからサティが家を出て冒険者になる事に特に反対はなかったらしい。逆に冒険者として名を馳せて、地元では有名だ。その勇名でサティの街は持っていると言って良いみたいだな。
あと獣人は基本的に同種族としか婚姻を結ばない。犬と猫は結婚しないのだ。そもそも他種族とは子供ができないため婚姻の対象にはなる事はないのだが。元々強種と言われている虎や獅子、熊や狼などは己のプライドから異種族への憧れ意識も薄い。なので異種族への政略結婚の話もないのだ。
その異種族だが、子孫を残すという点において異種族と婚姻をしても後世に子種を残すことが出来る特殊な種族がいる。それが人族である。人族は人だけでなく、獣人、エルフ、ドワーフなど異種族と交わっても子孫を残すことが出来る。
繁殖力が強い事を良しとするか悪しとするかは意見が割れる所であるが、人間は脆弱で直ぐに死ぬから誰とでも交配が出来ると言われている。誰とでも子供が作れないと絶滅すると思われているようだな。なんか悲しい。でも、そこまで言っておきながらなぜ異種族が人間との交配を受け入れるのか? その部分については謎だ。愛の世界だからな。
ただ、子供は人族ではなく別種族の特性が色濃く出ると言われており、獣人で言えばしっぽと耳、ドワーフと言えばその体系であったりする。獣人から生まれても人間から生まれてもここは変わらないみたいだ。それが人族が脆弱だと言われる所以でもある。だから俺とサティに子供が出来たらほぼ間違いなくしっぽが生えているという事だな。
「早く言ってくれたらいいのに」
「家からは出てる身だから」
「でも、サティの実家じゃないか」
「そうだけど......」
「聞けて良かったよ。何か力になれると良いな」
「......ありがと」
よし、何にも分かってないけど、力になれる事があったらぜひ協力させてもらおう。俺は心の中で力強く拳を握り締めるのだった。
そして、歓談の時間は過ぎて今。俺はベッドの上にいる。当然両脇にはサティとソニアが居るわけであるが......
ふむ。待て、ここはコーネリアス伯爵の家であるな。ここであんなことやこんな事などしてはイカン。ましてや三人でなどと。全くもってけしからん。煩悩ごときに振り回されるようでは男としては三流だ。俺は気を付けの姿勢のまま天井を見つめる。ろうそくの火が消えるまであの天井のシミを数えよう。それが終わったら素数を数えよう。それが終わったら......
「ねぇ」
「な、なにかね?」
サティとソニアが俺の方にくっ付いてくる。石鹸のいい香りが鼻腔をくすぐる。やめなさい。お胸様が俺の腕に当たってますよ? 当ててるんですか? 当ててますよね?
「ねえったら」
「オ、オレの理性は世界一ィィィ!」
二人の手が俺の胸を上へ下へと撫でつける。耳元で何事か囁かれる。吐息がくすぐったい。頭がクラクラしてきた。俺のローブの紐がゆっくりと引っ張られてゆく。やめろ、やめるんだ。だがなぜだ? 俺は手でそれを止めることが出来ない。
「ふふ、ダメよ? ほら」
「まぁ、本当ね。うふふ、ヒロシさんたら」
「ニィィ! サァァン! ゴォォォ!」
「あぁん、もう。ねぇ我慢してるの?」
「フグヌヌゥ!」
オレはベッド脇にあるスイートメモリーズを一気に飲み干した。
フッ、三流だろうが五流だろうが好きに呼ぶがいいさ。雲ゆえの気まぐれよ、俺は俺の意思で動く。昔の偉人は良い事言うぜ。
ん? なぜスイートメモリーズがベッド脇に置いてあったのかだと?
それには答えられないな。
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