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ウエストアデルに到着すると門番が駆け寄ってきた。俺は自分が男爵家の人間である事、コーネリアス伯爵に挨拶に来たこと、その後ドルスカーナへと行く予定だと告げると、衛兵が伯爵家まで先導してくれることになった。悪いね。
ウエストアデルの印象は正直アルガスほど栄えてはいないという事だった。国境の街ではあるが王都アデリーゼから距離もある事も原因なのかも知れない。やはり栄えているのはアデリーゼ、そしてアデリーゼに隣接している領地、即ちアルガスだろう。そのアルガスとも馬車で10日離れており交易が盛んではないとなるとどうしても発展に拍車がかかることは無い。バルボアなんてバルボアの城下町以外は原野のようだった。北側に位置するリンクウッドは鉱山での採掘が主な収益源という事だからこちらも文化の発展という事においてはアルガスとまではいかないだろう。
ただウエストアデルはバルボアに比べて文化レベルは高いと思われる。何と言うか活気がある。文化が入り混じり多国籍のアジアン社会と言う印象だな。とは言え、領主が住むウエストアデル城は立派なものだった。領地自体が大きくないので男爵家はいくつかあれどロングフォードのように男爵が治める地域はないようだ。東西に長いアルガス領ならではの領地経営方法らしい。この地はウエストアデルのリカルド・コーネリアス伯爵が治めているのだ。
「ヒロシ・ロングフォード卿よ、よく来てくれたな。私がウエストアデルの伯爵、リカルド・コーネリアスだ。その後ゾイド男爵はどうだ? そうか、すっかり元気か。それは重畳。まああの爺さんは殺しても死なんだろう。心配はしてなかったわ。ハッハッハ。まぁしかし、バルボアの事は誠に残念であった。まさかアラン公爵がな......陛下も心を痛めておいでであろうな。」
「はい、バルボアの件については色々と大変そうですね。父のゾイドも近い内に各地に向けてアデリーゼから通達があると聞きました。コーネリアス伯爵もその時にはアデリーゼに向かわれるのでしょう? あ、あと私の事はヒロシとお呼び下さい」
「そうだな。向かう事にはなるだろうな。国の一大事の後だ。流石に行かぬという選択肢はない。しかしゾイドも幸せ者だな。あの年でお前のような息子が出来ようとは。お主の噂はここウエストアデルにも響いて来ておるわ。商才やお主の奥方達、そしてその戦闘能力もな。ソニア嬢は別としてもサティ嬢と言う娘もできたわけだ。しかし、あの狐炎のサティが人間と結婚するとはな、正直意外であったわ。あと、そなたをヒロシと呼び捨てにしても良いものか。ゾイドは恐らく......いや憶測で言うのはやめておこう。まあ、折角だからヒロシと呼ばせてもらうか。お前も敬称は不要だ。ゴードン様やレイヴン様にも敬称を付けずに呼んでよいと言われておるらしいな? 私にも普通にさん付けでよいぞ」
「そうですか......それでは大変恐れ多いですがそのように呼ばせて頂きます。私たちは2日程滞在してドルスカーナへと向かう予定です。はい、そうです。サティの故郷に戻って神殿の方へと行ってみたいなと。私も他国へ行くの初めてですので、ウエストアデルでも時間があれば少し観光などを考えております」
「そうか、宿屋はとってあるのか? ここはあまり良い宿屋がないのでそれまではここで滞在するが良かろう。なに、遠慮することは無い。あと、不自由があれば何でもメイドに言えばよいぞ。ここは大きな領ではないがドルスカーナとリンクルアデルの玄関口だ。街には様々な珍しいものもあると思うから、後で行ってみるが良い」
「何から何までありがとうございます」
結論から言うと、コーネリアス伯爵はすごく良い人だった。何か裏があるんじゃないかと思うほどだったが、根っから良い人みたいだな。確かにあれくらいの器量が無ければ獣人と人間が交じり合うこの街で上手くやってはいけないのかも知れないな。稀なケースだろうが人間を初めて見る獣人もいるのだから。でも、緊張はするけど泊めてくれるのはありがたい。護衛達もゆっくり休めるだろうからな。俺達は早速街に出て行くことにした。俺達家族とアリスとクロにシンディ、8名だったが、衛兵が周りを囲んでいる。
「ここの街は本当に四方を山で囲まれてるんだな。へー、じゃあ水産物は主にドルスカーナからの輸入か。あとなんだろう。さっきからサティに声を掛けたそうにしている獣人が多いような気がするんだけどな。なんだろうか、尊敬のまなざしと言うか......」
「ふふん、見直した?」
「まあね」
道行く冒険者や獣人からは、サティを見て騒いでいるものが多い。その中には俺を見て『あの人間が旦那か?』という声も聞こえてくる。クロではなく俺を見てそう言ってくれるのは有難いことだが、完全に値踏みされているようだな。護衛達がいることであからさまに声を掛けてくる人はいないが、結構道路を広く使っている感じなので皆には少し悪い気がしているぞ。
ドルスカーナとウエストアデルは気温が高いからだろうか料理には辛口のものが多いらしい。辛いものは食欲をそそるから良い。良いのだが実は俺は辛いのが苦手だったりする。好きなのだが辛味が強すぎるのは食べれない。激辛カレーとかはダメだった。程よい辛さが好きだ。お腹も空いてきたしそろそろ店に入ろうかな。
「どこかお店に入って飯でも食べようか」
「そうね、どこにしましょうか?」
ソニアはキョロキョロしながら店を選んでいる。お店選びは女性陣に任せよう。料理も楽しみだが実はビールを飲みたかったりする俺であった。
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