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よろしくお願いします。
「ドルスカーナに行こうと思うんだけど、行っても良いのかな?」
「そら構わんじゃろう」
俺たちは子供たちを迎えに男爵家にお邪魔している。バルボア騒動も多少は落ち着いてきたとは言え、ロングフォードから出ても構わないのかな? 自覚はないけど俺も男爵家後継ぎになったのであるからして。と言うように俺なりに気を使ったつもりなんだけど、男爵家を含め特権階級の養子縁組だとかは特に大きな行事でもなく良く行われているとの事だった。俺の場合は立場が少し特殊ではあるものの、じいさんはアデリーゼにいる時に俺を養子として迎えたいという事を既に話していたので問題ないらしい。
「ただ、あまりゆっくりもしておれんじゃろうな。そろそろバルボア騒動に関するお達しもある。今回はリンクウッドやウエストアデルの伯爵も出席するはずだ。男爵家以上は式典に出席しなくてはならんのでな。お前はまだ男爵ではないが、前回の作戦に絡んだものは全員招致の案内が来るだろうからの」
「正直またアデリーゼに行くのは面倒くさいというのがあったり」
「それを言うな、国道はそろそろ開通するのだろう?」
「そうなんだけど、もうしばらくは掛かるかなぁ」
「なら、逆に通っても良いではないか」
「まあ、そうか。考えようによってはそうだな」
「正式に全て整ってから開通式を行うとしてじゃ。今回はあれじゃな、試験的なものとすればよい」
「そうだな、そうしよう。なら少しマシか早く着く」
それから数日後に俺たちはドルスカーナへと出発した。馬車一台で行くつもりだったが、男爵家、つまり俺だな、が移動するので幌馬車ではダメらしい。考えたら当然の事ではあるのだが、この辺りが堅苦しいのだよ。その内近所に買い物もいけなくなるのではないだろうか。結局男爵家の馬車に護衛が周りを取り囲み、馬車三台での移動となった。ちなみに冒険者の護衛はついていない。あ、シンディはいるぞ。彼女は俺の護衛だからな。
その代わりアッガス率いるジャングルポッケが一緒に移動する事になった。もし盗賊が出てきたらそいつらはよっぽど運が悪いとしか言いようがないな。地域の安全の為には少しでも盗賊の類が減る事に越したことは無いけど。
ロングフォードの冒険者は同行しないが今回はアリスと数名のメイド衆が同行する。奥様方の世話役だ。俺の家のメイド衆なので特権階級ほど規律が厳しいわけではないが、きちんと立場を弁えているのならそれで良いと思っている。立場に男爵家の跡継ぎがプラスされているが、彼女たちにもその辺りの矜持はしっかりと備わっているので心配はしていない。
「と言う訳で旦那様。私たちが同行するので旅のお世話は任せて下さい」
「そう言ってくれると助かるよアリス。今回は子供たちも同行するからね。しかし一つ聞いて良いか?」
「もちろんです、何なりと」
「お前ってウチのメイドでは古参に入るんだってな。知らなかったよ」
「私は元々幼少の頃に奉公として来てますからね。あと一緒にNamelessに来た先輩達は皆ゾイド様の方へとお戻りになられましたから」
「ああ、そう言う事か」
アリスはメイド長ではないが、古参の部類に入るらしい。メイド長や教育係はちゃんといるぞ。ウチは執事と言えるのはクロだけで、後は全員女性だ。しかもクロは俺の補佐もしているので殆ど家の事はメイドがすべてやってくれている。クロはその報告を受けてたまに何某かの指示をするだけのようだ。
「シャロンはどうなってんの?」
「シャロンちゃんは学校が終わったら商会でお手伝いですよ。いつもと変わりません」
「そうか、シンディやアリス、あと子供たちもいないから寂しくないかな?」
「シャロンちゃんは商会のマスコットですし、他のメイドからも評判良いですよ? たまに他の友達も商会に来る事がありますね。その時は商会の裏で遊んでますよ」
「そうか、シャロンはしっかりしてるからな。一人で花を売ってたくらいだから」
「その頃からするとカールやアンジーも見違えるほどですよ」
「そうだなあ。シンディもそうだけど頑張ってんだな。なあソニア、ウチの商会って今何人位いるのかな?」
「ええと、先月レイナから聞いたけど、ローランド支店を入れて2000人位だったかしら?」
「マジか」
「今、商業ギルドを抜けたらバーバラさんが発狂するわよ。助かってるから今はまだいいけど」
そう、個人商店しかないこの世界で2000人規模の商会とは大企業なのだ。その名はアルガスどころかリンクルアデルでも有名になっている。正直商業ギルドを通さなくても商売は出来るのだ。ただそれをするとバーバラさんがギルド長って事でNamelessのギルド脱退の責任を問われる。本来ギルドを辞めるのは個人の自由で、立場的にはギルドが間違いなく上なのだがNamelessにおいてはその常識は通らない。Namelessがギルドを通す事でかなりの金がギルドへと流れているからだ。
普通の商会は商売を円滑に進めるためギルドを通しているので彼らはギルドに対して頭が上がらない部分がある。ところがNamelessは全てにおいて既に独立できるだけの力があるので、逆にギルドが卸のような業務をしている訳だ。その事で商業ギルドは大いに潤っているのだがNamelessが抜けたらギルドの売上は激減するため、立場としてはウチの商会がアドバンテージを持っている形だ。商社を作らないのはギルドに対して仁義をきっているという事になるわけだが、前にも言ったが独占しても良いことは無い。儲かってるんだからこれで良いのだ。
しかしだ......という事はあれか? 俺はここアルガスでは財政界ではかなりでかい顔が出来るという事か。クックック、悪くない。実は次の国家事業についても考えていることはあるのだ。そうなるともっと金が手に入るぞ。命の危険を冒して冒険者などやってられるか。ケッケッケッケ。
「また、悪い顔になってますよヒロシさん」
「どうせロクでもない事を考えてるに違いないわ」
「顔に出てた?」
「声にも出てるわよバカね」
それはすみませんでした。
何度かの野営を経て明日にはウエストアデルに到着だ。ジャングルポッケのおかげか盗賊にも出くわすことなく旅は順調に進んでいる。まずはウエストアデルの街で美味しいものを食べよう。そして部屋でゆっくりしよう。どこに泊まるんだっけか。
「その前にウエストアデルのコーネリアス伯爵に挨拶ですよ?」
「それ、行きたくないなぁ」
「そう言う訳にもいかないわよ」
「そうなんだよなぁ」
と言いながらも仕方がない。男爵家と思うから憂鬱なんだなきっと。これは仕事で商売のタネになりそうな話が聞けると思えば良いじゃないか。頑張れ俺、と思いながら窓の景色を眺めるのだった。
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