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よろしくお願いします。


 その瞬間、森から飛び出すいくつもの火球。


「な、なんだ?」


 真っすぐ上空へと駆け上がる火球の群れ。そして今度は街の方から花火が上がり始めた。凄い数だ。昼間の花火は夜ほど映えないと思っていたが、その中からは紙吹雪やテープなど、色々なモノが飛び出している。大きな虹の下、太陽の光が照らす花吹雪はこの世のモノとは思えないほど奇麗でロングフォードの空を彩っていく。


「「おおおおおおおおおおお!!」」


「うわ! 今度は何だ!」


 森の方から一斉に人々が草原へとなだれ込んでくる。手にはテーブルやら椅子、肩にはホーンラビットやレッドボアなどを担いでいるやつもいるぞ。どこにいたんだお前らは。森の中だろうけどさ。いつから居たんだよ! その騒ぎの中こちらへと真っすぐかけてくる獣人。サティだ。


「ソニア!」


「サティ!」


 二人は泣きながら抱き合い、喜びを分かち合っている。


「ソニア、やったわね! おめでとう、本当におめでとう!」


「ありがとうサティ、ホントにありがとう」


 クロとアリスが近づいてきた。その手には赤い旗が握られている。そうかさっきの旗振り作業は皆への合図って訳か。皆が祝福してくれるんだ、好意はありがたく受け取ろう。でも言ってくれてもいいんじゃない?


「ヒロシ様、ご結婚おめでとうございます」


「旦那様、おめでとうございます!」


「ああ、ありがとう。何だこの騒ぎは聞いてないぞ?」


「そりゃ言ってませんからね」


 クロはシレっと言い放つ。その顔は、当然でしょう? と言ういつもの顔だ。当然なんですね。分かりました。


「あ、旦那様。ゾイド様も来ましたよ」


 アリスが指差す向こうからは馬車が一台向かってくるのが見える。御者はセバスさんだ。途中から見えないと思ってたら迎えに行ってたのか。流石に男爵様を森の中で待機させることはしないよな。じいさんは馬車を降りて俺たちの方まで歩いてきた。人の波が割れていく。


「ヒロシ、ソニア。本当におめでとう。長生きはするもんじゃな。本当に嬉しく思うぞ」


「じいさん、本当に色々ありがとう。俺、これからも頑張るよ」


「おじいさま、私......」


 ソニアはじいさんの顔を見て感極まったのか再び目に涙をためている。


「ソニア、泣くでない。本当に良かった。どうか幸せになるんじゃぞ」


「はい。はい、おじいさま」


「シェリーとロイもこっちへ来い」


「「おじーちゃん」」


「ハッハッハ、どうじゃシェリー、ロイ新しいお父さんは?」


「おとうさんは、少し前からおとうさんだったの」


「おとうさんは、おかあさんを助けに行く時におとうさんになったの」


「はは、そうじゃったか。これからはヒロシをもっと頼るが良いぞ?」


「「わかったー」」


 そう言うと二人はシャロンを見つけたのか走っていった。向こうでキャイキャイやっている。人々は手分けしてテーブルを置き、テーブルクロスをかけたりBBQの用意をする奴、材料を捌く奴、さっそく焼きだす奴。焼いてるのは『海風色の貝がら』のキューイさんじゃないのか? よく見るとあの辺りは全員シェフっぽいな。給仕さんたちもいる。あ、ドメートルさんもいるぞ。皆楽しそうに作業を進めている。向こうからアッガスがやって来た。


「おめでとうヒロシ! 嫁さんの数を抜かされちまったな!」


「別にそこは競ってねぇよ! でも来てくれてありがとう、嬉しいよ。あれ? ずっと街に居たんだっけ?」


「ああ、バルボア騒動の時は手伝えずにすまなかった。ドルスカーナが口を出す訳にはいかなかったのでな。俺達はお前たちを信じて待ってたんだ。ドルスカーナでも話題になってんぞ?」


「俺はそんなに......アレだろう?」


「一般的にはそこはそうなんだがな。でも当然王家には伝わっているさ。なぜなら俺が言ったからな! ガハハハハ!」


「なに言ってんのさ。ガハハハじゃないよ全く」


 そう言いながらソニアの方を見ると彼女の方にも当然人だかりが出来ている。あれは......ラザックの嫁さんか? 色んな人が来てるんだな。


「ヒロシさん。この度はおめでとうございます」


「おお、ラザック。ありがとう! 忙しい所わざわざ済まないな」


「そりゃ、ヒロシさんの晴れ舞台ですからね。なにを置いても絶対に来ますよ。これからも友人としてよろしくお願いします」


「そうか、俺もそう思ってる。これからもよろしくな!」


「もちろんです」


 そんな事を話していると、じいさんが立ち上がって俺たちをステージの方へと連れて行った。どこから運び込んだんだこんなもん。じいさんがステージへ上がり、俺とソニア、サティが上がった所で話をはじめた。


「皆の衆! 少し話を聞いてくれ! 今、この私ゾイド・ロングフォード男爵の孫娘ソニアと、リンクルアデルでただ一つである国家御用達商会Namelessの社長であり、ただ一人リンクルアデル国王陛下のメダルを持つ男ヒロシが結婚した! 非常に喜ばしく思う!」


「「わあああああああ!!」」


 こう聞くと俺の肩書ってすっごい大層に聞こえるな。少し恥ずかしいぞ。じいさんは俺とソニア、サティの方を見て『良いな?』と言う視線を投げかけてきた。俺たちはそれを見てしっかりと頷く。


「そしてだ。この度ヒロシは正式にワシの養子として迎える事が決まった。従い、先の肩書にヒロシには男爵家継嗣(けいし)としての肩書が加わる。つまり後継ぎじゃ。これは既に国王陛下には報告済みであり文書がアデリーゼに到着すれば即日受理されることが決定しておる」


「「うおおおおおおおおお!!」」


 これには理由がある。ソニアが商人の俺と結婚した場合、じいさんに万が一の事があると男爵家は潰れるのだ。後継ぎであるロイは商人である俺の息子になるからな。しかし俺は政治的な部分には関与したくない。じゃあどうするか? こればかりはどうしようもないのだ。ロングフォードと言う名を継続させるにはロングフォードであるしかない。


 そこで俺が養子として入る事になったのだ。すぐに入る必要もないという声も聞こえてくるかもしれないが、生きるか死ぬかの瀬戸際に後継者問題の話なんて誰もしたくないだろう? 少なくとも俺は嫌だ。そう言う事だ。結果的に俺が男爵家の家名を継ぐことで政治云々の渦中へと飛び込む形にはなるのだが、俺の目の前で男爵家が無くなるよりマシだ。


 じいさんは何もない俺の後見人のなってくれたのだからな。その上ソニアを貰って男爵家を潰すなど出来ないだろう? 鬼畜かよ? ただ俺は神の神託がある手前、表立って政治の話には介入しない事になっている。国王陛下もそれは納得済みだ。あくまで俺はロイが成人するまでの繋ぎみたいなもんだな。まぁ、そう何でも上手くいく話ではないという事も理解はしているけどね。


 ともあれ、いずれロイに家督を継がせればよいし、俺たちに子供が出来ても商会を継がせるとか後継ぎ問題を回避する手段はいくらでもある。冒険者になって名を馳せるのも良い。サティという高名な冒険者もいるしな。俺がしっかりと地に足を付けて生活をすればなんとかなる。と考えての事だ。


 後、じいさんの好意で俺の本来の名前である『アイハラ』は『A』としてミドルネームで残す事になった。これは最悪の場合俺が男爵家を抜ける際に姓を残しておくためだ。じいさんはよく考えてくれるよ。つまり俺の名前はこれから『ヒロシ・A・ロングフォード』になるわけだ。普段ミドルネームは言っても言わなくても良いらしい。今までもヒロシだったからこれでいくさ。サティとソニアにもこの『A』のミドルネームは入ることになる。本来違う名前を入れるべきミドルネームだが、ウチはちょっと特殊という事だ。


「今日は全てロングフォード家の奢りじゃ! 好きに食い、好きに飲み、好きに騒げ! ただし節操は守るようにの?」


 いつもの決め台詞で宴はヒートアップしていくのであった。


 皆が酔いつぶれた頃、俺とソニアは一足先に『ホテル銀龍の鱗』に戻ってきていた。今日は商会の自室ではなくホテルで泊まる事にしたのだ。子供たちは男爵家で世話になっている。ここは最上階のスウィートだ。俺達はシャワーを浴びソファで並んでワインを飲んでいる。


「ソニア」


「ヒロシさん」


 グラスを置くと俺は立ちあがり、ソニアへと手を伸ばす。ソニアは俺の手を握り返し立ち上がると俺は優しくソニアを抱き上げてベッドへと運ぶ。ろうそくの灯りは二人の影を壁へと映し出し二つの影は踊るように様々な形へとその姿を変えてゆく。


 そして幾ばくかの時間が流れ、蝋燭の火が消えると窓からは月灯りが入り込んでくる。星々が輝く空の下、辺り一面には静寂が広がり、二人はゆっくりと深い眠りへと落ちていくのだった。


 抱きしめ合いながら眠る二人を、夜の帳が優しく包みこんでゆく。



お読み頂きありがとうございます。

ようやくソニアと結ばれる回を書くことが出来ました。

『ソニアの事もちゃんとやれよ』と感想を頂いた時には、

ソニアの事も考えてくれているんだと本当に嬉しかったです。


悩みながらも自分なりには満足の良く着地だと思ってます。

賛否あるかと思いますが皆さまにとってもそうであれば嬉しいです。


これでひとまず区切りとなりますがもう少しお話は続きます。

ブクマ、評価など頂けたら嬉しいです。

引き続きよろしくお願いします。


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