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よろしくお願いします。

 当日は晴れ渡っており雲一つない天気だ。稀に見る晴天だ、素晴らしい。


 クロとアリスが商会の前に馬車を回せてくれるのを俺達は待っている。子供たちは今から大はしゃぎだ。おんぶや抱っこを商会の前でせがまれ俺は前と後ろから子供にサンドイッチされている状態だ。すると前から馬車が二台入ってきた。あれ? 何で二台なんだ?


「お待たせ致しました、お二人は子供たちと後ろの馬車へとお乗りください」


「クロ? あれ? 一台じゃなかったっけ? あれれ? あっちの馬車って御者セバスさんとローズさんじゃないの?」


 後続の馬車を見ると男爵家専用の豪奢な馬車だった。男爵家の家紋が揺らめきどこからどう見てもVIP仕様だ。商会の馬車の倍くらいあるんじゃないかってくらいだ。御者台からセバスさんがヒラリと降りてきた。この人、歳なんだろうけどそう言うのを全く感じさせないよな。やっぱり見た目以上に若いのかな?


「大旦那様からの指示でございます。ヒロシ様、ソニア様を今日と言う日に乗せるにはこの馬車でも足りますまい。しかしどうかこの馬車でご勘弁願いたく」


「いや言ってる内容が分からないんだけど。豪華だよね? 豪華すぎるよね? 良いの? ピクニックだよ?」


「国王陛下のメダルを持つヒロシ様と、男爵家御令嬢であるソニア様を今日と言う日に乗せるのです。そこら辺の馬車では男爵家の品位を落としかねません」


「今日と言う日にって連呼するのが気になるが、良いのかな?」


「ふふ、良いんですよヒロシさん。さあ行きましょ?」


 馬車はゆっくりと街を抜けていく。心なしかいつもより進むのがゆっくりに思える。すれ違う馬車が全くいないな。俺は窓から外を見てみると男爵家の馬車が通ると言う事で街中の馬車は全て脇に寄せられている。所々で衛兵が立ち、市民を車道へ出ないように指示しているようだ。なぜ衛兵がいるのだろうか? 


「衛兵が道を開けてるぞ」


「そうね」


「これもじいさんがやってくれたんだろうか? よく考えたら何で知ってんだ? ピクニックに行く事は知らないはずだんだが......」


「私が言ったのよ?」


「え?」


「今度の休みに四人でピクニックに行くってサティに言ったのよ。それじゃ一度おじいさまの所に行きましょうって事になってあれやこれやと相談にのってもらったのよ」


「そうなの?」


「そうよ」


「相談って?」


「相談よ」


「あれやこれやとは?」


「あれやこれやよ」


 馬車は街を抜けゆっくりと丘を登っていく。ここは本当に見晴らしがよくロングフォードの街を一望できる素敵な場所だ。良い天気で良かった。セバスさんとローズがテーブルなどの準備をしてくれてる間に俺達は子供の手を引きながら散歩したり追いかけっこをしたりした。


 今日は周りに人が居ない。この広い広場を貸切りに出来ているみたいだな。後ろは森とは言え魔物が出てくる可能性は低い。前にも言ったがスライムかホーンラビット位なもんだ。今日に至ってはスライムすら見ていない。シェリーとロイは網と虫かごを片手に走り出してしまった。何か捕まえると誇らしげに俺とソニアの下に見せに帰ってくる。虫嫌いの俺とは言え蝶やバッタはまだ許容範囲だ。でかい魔獣クラスになるとダメだろうがな。しかしなぜ子供は見せてくれる時に顔の真正面に持って来るのだろう。近いんですけど。


 昼ご飯はサンドイッチだ。子供たちの頬張る姿を見ていると俺までほっこりとした気分になってくる。シェリーやロイは学校の話や友達の話を沢山してくれた。慌ただしくサンドイッチを口に詰め込むと子供たちは慌ただしく席を後にして再び狩りへと出かけて行った。網と虫かごを持って。かわいい。網を振り回す子供たちを俺達は見守っていた。クロとアリスもつかず離れずで子供たちを見てくれている。


「ソニア、俺達もちょっと歩こうか?」


「ふふ、そうね」


 俺はさりげなく左手を差し出すとソニアはその手を握り返してくれた。のんびりと散策しながら少し小高い丘の上まで歩く。ここからはローランドの街が一望できる。


 晴天の空から雨粒が零れ始めた。小さな雨粒は優しく俺たちの上へと降り注ぎ、時折太陽に反射してまるで宝石のようだ。煌きながら落ちる雫たちは街の風景をより一層神秘的なものへと変化させてゆく。


「ここから見るロングフォードの景色が俺は大好きだ」


「ええ」


「この自然が残るアルガスの街が大好きだ」


「ええ」


「どこから来たのかも分からない俺を受け入れてくれたじいさん、仲間たち、そして街のみんなが大好きだ」


「ええ」


「俺をおとさん兄と慕ってくれる子供が大好きだ」


「ええ」


「そしてソニア......俺はお前の事が大好きだ」


「うん......」


「バルボアの騒動でお前が攫われたと知った時、心の底からお前の無事を願った。攫った奴らを八つ裂きにしてやりたい激情に駆られた。ソニア......君の存在をもう俺から離す事は出来ない。離したくないんだ。」


「うん」


「本当に長い間待たせてすまなかった。そして俺の事を信じて待ってくれてありがとう」


 俺は懐から小さな箱を出してソニアの前へと差し出した。そして彼女の左手をとりその薬指にゆっくりと指輪をはめてゆく。ソニアの目には涙がたまり俺の目を真っすぐと見ている。


「この指輪は永遠の愛を誓うため男性が女性に渡すものなんだ。ソニア、愛している。どうか俺のお嫁さんになってくれないか?」


「うん......うん、嬉しい......でも私は子持ちよ?」


「子供たちは俺の娘と息子になる」


「おばさんだわ」


「ソニアより年上の俺はおじいさんになっちまう」


「わたし......わたし......」


「ソニア、心配する事など何一つない。俺は愛する君を生涯をかけて必ず幸せにすると誓う。どうか返事を聞かせてくれないか?」


「不束者ですが......よろしくお願いします」


 俺はソニアの目からこぼれる涙をそっと拭い、彼女の頬に手を当てると優しくこちら側へと引き寄せた。少し背伸びをするソニアをもう片方の手で腰の辺りをそっと支えて......俺たちは初めてのキスをした。


 お互いの顔を見ながら少し照れ笑いをした俺たちが街の方へと目を向けると、ローランドの街のどこからか巨大な虹が伸び始め空を渡ってゆく。虹が伸びる所なんて初めて見た。色鮮やかな七色の光は瞬く間に空を横断するかのように渡ってゆく。まるで虹が俺達の門出を祝福してくれているかのように見える。俺達は顔を見合わせ両手で彼女を抱き寄せるともう一度キスをしたのだった。





「おかーさん、チューしてるの?」


「おかーさん、チューしてるね」


 おっと、知らない間に子供たちが来ていたらしい。二人してチュウチュウ言うのは止めなさい。だけど今は許します。ソニアは子供たちに優しく微笑んで俺の胸に頭を預けている。そして俺はゆっくりと子供の目線に合わすように座ると子供たちを見つめて言った。


「シェリー、ロイ、聞いてくれ。オレはシェリーとロイのお母さんと結婚する。その、なんだ。二人は俺の子供になるんだが......良いかな? 自分で聞くのも変なのかな? だが本当の事なんだ」


「おとさん兄はおとうさんになるの?」


「おとさん兄はおとうさんになるんだね?」


「ああ、そうだ。その通りだ」


「「やったー!」」


 二人は俺達の周りをくるくると回り始めた。俺は二人を抱きかかえると顔に頬を擦り付けてやった。二人はむず痒そうにしていたが、俺のほっぺにキスを返してくれた。少し恥ずかしそうにしたあと俺の腕から逃れるように飛び降りると二人ははしゃぎながらテーブルの方へと走っていった。『おとうさんができたよーっ』と言いながら。


 俺とソニアは手を繋ぎ二人の後に続こうとしたその時、視線の先にクロとアリスが見えた。見られたか。まぁ今回は仕方ない。と思ったらクロは突然右手を挙げた。その両手には赤い旗が握られている。アリスも横で一緒に振り出した。奇声を上げながらクルクル回ってるぞ。何をやっとるんだ、あいつらは。





お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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