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よろしくお願いします。

「おはよー、アンジー」


「あ、社長おはようございます。聞きましたよ? バルボアの件大丈夫でしたか?」


「ああ、なんとかね。色々疲れたんだよね。だからコーヒーを飲みに来た訳よ」


 部下の一人がコーヒーを作って持ってきてくれる。いつも悪いね。なぜここにいつも休みに来るのかって? それはこの空間とソファ、そして美味しいコーヒーがあるからだ。仕事も......してるぞ?

 

 バルボアから帰ってきて数日が経った。街はバルボア騒動の話題で持ちきりだ。天空の剣は至るところで瓦版の人間や吟遊詩人、果ては道行く人々に囲まれその時の様子を聞かせてくれとせがまれているらしい。テレビやラジオがない世界だ、無理もない。天空の剣はバルボア城の戦いにおいて大変優秀な働きをしたとアデリーゼからお墨付きを頂いている。飛行船が到着した際に、同行していた大臣が事の顛末を民衆に向けて説明したからだ。サティについては基本的にギルドにいるから囲まれることは無いが、移動の際には周りをルナを筆頭に獣人たちがガードしており誰も近づけないでいる。あれ、絶対に親衛隊だよな? いるよな親衛隊? 


 ちなみに俺は商人でゾイド男爵を迎えに行った位にしか認知されていない。基本的にラザックと扱いは同じだ。陛下やゴードン内務卿から説明を受けたが、基本的に俺は戦闘には加担していない事になっている。同行していたもの皆に陛下からの箝口令が出されているので広まることは無いだろう。俺自身もそれで何の問題もない。むしろありがたい話だ。前にも言ったが俺は商人であって戦闘は二の次で良いのだ。


「あのさ......実はお願いがあってな。またちょっとデザインを頼まれて欲しいんだけどな」


「もちろんですよ、なんですか?」


「それはですな......」


「ええ! はいはい、具体的なイメージは......分かりました。任せて下さい!」


「忙しいのに悪いんだけどさ、頼むよ。あと、カールにも言っておいてくれるかな? 早ければ早いほど良いんだけど、仕事に差し支えると悪い気もしたり......」


「何を言ってるんですか! これ以上に大切な仕事はありません! 大丈夫です、カールは寝かせません」


「いや、無理をしない程度でね」


「燃えてきました。それでは私は直ぐにカールの所へ行って打ち合わせをしてきます。社長はどうしますか?」


「ちょっとお前たちに個人的な用事を頼むからね。レイナの所へ行って話をしてくるよ」


「副社長はなにも言わないと思いますけど?」


「いや、それはやっぱりね。キチンと言っておくべきだろうからして。じゃ、行ってくるよ」


 レイナは副社長になっている。会社自体は俺に子供が出来た日には彼らが継ぐことになるだろうが、レイナはこのNamelessを一番知る人間だ。彼女がご意見番としていてくれたらこんなに心強いことは無い。彼女からは必ずや一流の商人として育て上げると鼻息荒く誓いをたてられた。ありがとうレイナ。イメージとしては、爵位のある家などに代々使えている執事やメイドの家系とでも言えば良いか? じいさんで言う所のセバスさんだな。


 レイナに事の顛末を話すと二つ返事で了解してくれた。カールとアンジーの今の仕事の優先順位がその場で変更され、俺の依頼が終わるまで他の事はしなくても良い事になった。良いのかそれで。ありがたいけど申し訳ない気もする。最近あれだな。俺が何もしなくても工場や商店は上手く回っている気がしてならない。君臨すれども統治せずというやつか。何と良い言葉だ。でも、事業発展のために俺も頑張らないとな。従業員も増え続けているから、彼らやその家族の為にもな。



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 じいさんには既に俺の決意は伝えてある。側にいたセバスさんもハンカチで涙を拭っていたぞ。サティも一緒に聞いている。遅いのよと怒られてしまったがそこは許して欲しい。道路建設やバルボア騒動もあったからな。まだ商会から完成の連絡が来ていないので時期的なことは決めていないが、その時になったら改めて報告に来ると言っておいた。


 そして今日、俺は工場でレイナからソレを受取った後で商会へとやって来た。レイナは珍しく感動して涙を流していたな。ソニアとは仲が良く、この商会に入ったきっかけでもある。何より心から喜んでくれて嬉しかった。コレの意味するところを何故知っているのかと疑問に思ったが詳しくは聞いていない。


 カールとアンジーはデザインと加工を何度も何度もやり直して完成にこぎつけてくれたらしい。レイナのOKが出て二人ともガッツポーズのままぶっ倒れたらしいな。心からありがとうを言いたい。


「アリス!」


「はい!」


「えーと、ソニアはいるかな?」


「はい、もちろんです」


「ちょ、ちょっと呼んできてもらって良いだろうか?」


「そりゃ良いですけど......奥にいますよ?」


「あ、おとさん兄よ!」


「あ、おとさん兄だ!」


「ヒロシのおっちゃんだ!」


 子供たちがカウンターの俺に気づいておくから走ってきた。両足にまとわりつく子供たち。かわいい。後シャロン、今お前は俺の事をヒロシのおっちゃんと呼んだのか? なぜクロードがクロ兄で俺はおっちゃんなのだ? 年はそんなに変わらんのだがな。だがそれ以上に、シェリーとロイのその呼び方はもうどうしたら良いのか分からない。無理やり兄と言う言葉を付け足す事でより強調されているように思われるのだが。


 その様子を見ながらアリスもソニアを呼びに行ってくれた。社長室で話をしても良いのだが、こう言うのはここで話をした方が良いような気がしたのだ。俺的な感性の理由であって一般の方々がどうするのかは知らない。


「あらヒロシさん、どうしたの? 入ってくればいいのに」


「至極もっともな話なんだがここで話をさせて欲しいなと。あの、さ。今度の休みにピクニックに行かないかと思ってね。どうだろうか?」


「あら、いいわね。皆にも声を掛けておくわ」


「いや、そのなんだ。四人で行きたいんだ。クロとアリス位はついて来てもらうと思うけど」


「え? そ、そうなの? 良いわよ? 良いに決まってるわ」


 今、ソニアの奥で話をしていたクロとシンディの耳が瞬間的にこっちに向いたのが分かった。片方の耳が器用にこちらに急旋回したぞ。おまえらホント耳が良いのな。


「じゃ、じゃぁ週末の予定は開けておいてくれ。それじゃ」


「ええ、楽しみにしているわ」


 ツツーっとクロとシンディがソニアの後ろをついて行ったが、それは気にしない。気にしないぞ。俺は商会を出てしばらく歩くと立ち止まった。それじゃと言って出てきたは良いけど俺どこにいけばいいのだ? 今更戻るわけにはいかないしな。やはり一段落したら商会と家は分けよう。そんな事を考えながら俺はラザックの所で時間をつぶす事にして歩いて行った。ラザックは最近忙しいがまあ居るだろう。居なかったらギルドにでも行って時間を潰そう。




お読み頂きありがとうございます。

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