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バルボア城内での戦闘が終わりしばらくして外の戦闘も落ち着いた。魔獣を直接倒す者、首輪の付いた魔獣を探す者、そしてその魔獣に首輪をつけた者、つまり奴隷の主にあたる者を探すのだ。この中で奴隷主を探す事が一番早かったらしい。
魔獣より兵士の方が圧倒的に少なかったと言うのが理由だが、兵士の数が少なくなるにつれ魔獣も森へと引き上げて行くようになった。本来奴隷から解放するには一定の手続きなどがあるのだが、今回はその辺りの事情は全て無視されている。当然だが。
バルボア市内にも残った騎士団が配備され、独立騒動が終わった事を知らせると共に混乱が起きないよう治安維持の対応が成された。騎士団二番隊隊長のカルディナがその総指揮にあたる事になり、セイラムは数名の部下を連れて細かい報告を陛下の方へ上げるために一度アデリーゼへと戻る事になる。
簡単に言うとセイラムと彼に同行する騎士以外は治安維持の為に全員バルボアに残る格好だ。アラン公爵たち側近はセイラムの部下に囲まれ移動する。
従属の首輪が嵌められていたのは分かる範囲でだがフレディだけだった。セイラムが相手をしたマードックにはついていなかったようだ。サティが相手したあの二人は見に行ってない。見に行こうとしたのだが、現場がグロすぎたので行く気が失せた。
サティはちょっとやり過ぎたとテヘペロだったが、ちょっとどころではない。剣で切っただけではこうはならないのだが、最後は上手くはぐらかされてしまったのだった。テヘペロが可愛かったからではない、断じて。
幸運な事に飛行船は動かすことが出来た。既にアデリーゼには伝書鳩が飛ばされているようだが、飛行船で戻ったら良い凱旋のアピールにもなるだろう。俺たち冒険者組も同乗させてもらえる事になった。
あの断崖絶壁を降りなくて済むので有り難い話だ。ラザックには予め飛行船が飛べばローランドに戻るよう伝えてあるので大丈夫だろう。ガイアスは『やっぱりサティは怒らせないようにしよう』とかブツブツ言ってたな。
飛行船に乗り込んでしばらくすると船はゆっくりと上昇を始めた。横にはサティとソニアが俺を挟むようにして座っている。ソニアの横にはアンジェが。ソニアとアンジェの間にはフランツ王子が座っているぞ。
俺は周りを見て今更ながらにアランについて思いとどまって良かったと感じていた。あの時アランは俺を道連れにしようとしていたのかも知れないな。もしあの時怒りに任せてアランを斬っていたら、このように皆で帰れなかったかも知れない。
勘違いしてはいけないと自分を諫めてきたつもりだったが、やはりどこかで調子にのっていたのだろう。色々と疲れたよ。
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アデリーゼを襲った魔獣も沈静化され、現在は前線を大きく下げている。ほぼ脅威はなくなったと見て良いだろう。残念ながら死傷者は出してしまったが、問題はバルボア側での状況だ。もし人質に危害が加えられ死亡するような事があればもはや戦争は避けられないだろう。
「陛下! バルボアより伝書鳩です!」
「レイヴン! すぐに読み上げよ!」
「はっ、セイラムからですな...... おお! 反逆者アランの捕縛に成功、人質も全員無事との事です!」
「そうか......よし! よし!」
一斉に部屋の中は歓喜の声に染まり、陛下は拳を握り締め何度も胸の前でその腕を振るった。
「突入部隊がやってくれました。ジャッジメントの隊長はヒロシが破ったと。アランの粛正については、総がかりでヒロシを止めたらしいですな。いや、本当に良かった。すぐにアランとその側近を飛行船に乗せて戻ると書いてあります。恐らく今は移動中ですな。」
「すぐに発着場へと人を向かわせろ! 騎士団と衛兵もだ。余も後で直ぐに行く」
何名かの大臣が慌ただしくその場を後にする。ゴードンも安堵の表情を浮かべている。
「陛下、良かったですな。最高の報告です。セイラムが戻ってきたら詳しく事情を聴くとしましょう。まずは今からどのように動くかです。他国にも正式に状況を伝えねばなりますまい。後は、今後のバルボアの統治を含め決めていかなくてはならないことは山ほどございます」
「そうだな、ゴードン、お前は他の大臣とも連携を取ってその辺りの事を早急にまとめよ。またマリーとレイラ含め関係者にも騒動は解決したと伝えよ」
「畏まりました」
ゴードンに続いてレイヴンたちも準備のために退出する。一人、シュバルツ国王は席を立ち窓から外を眺めると一人呟いた。
「みな、よくぞやってくれた。一つ間違えれば国家が傾く事態であった。しかし、ヒロシ......アランを討ってドルスカーナに行く選択肢もあった中でよくぞ耐えてくれた。本当に良かった」
マリーとレイラも気丈に振舞ってくれた。シュバルツは部屋には入ってきた二人を優しく抱きしめ、飛行船の到着を待つべく部屋を後にした。待つ事しばし、飛行船が近づいてきた。ゆっくりと降下し着陸するとゲートが開く。抱き合う両殿下と両陛下。レイラも輪に入り一緒に抱きあっている。
わずか数日とは言え誰もが長く感じたこの騒動は、人質が全員無事に帰還、再会を果たしたことで最高の終幕を迎えるのであった。ヒロシはソニアと共にゾイドの下へと向かい二人は涙の再会を果たす。ゾイドは意識を取り戻すと回復は早く、起き上がれるくらいには復調していた。
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じいさんがもう少し回復すれば俺達はロングフォードへ戻るわけだが城内はまだまだ慌ただしい。基本俺たちはお役御免となり基本的にはじいさんの部屋でゆっくりしている時間が多い。アランとその側近についてはまだ牢屋へと繋がれている状態らしい。
一応のゴタゴタが片付くと裁判が始まるが形式的な裁判だろう。全員処刑になる事は間違いないそうだ。幽閉も他国への島流しもしない。身内と言えど死刑に処してリンクルアデルの覚悟を内外に見せる形だ。
俺たちはじいさんにバルボアでの状況を細かく話した。最後の方でソニアが何度かアランに暴行を加えられたと聞いた時には、やはりアランはこの手で始末しておくべきだったのかと思ったが、アンジェの結界と自らの治癒魔法で問題なかったのだから大丈夫と言われた。驚いたのはフランツ王子だ。気狂いの男に向かっていく事などなかなかできる事じゃない。
「なぁ、じいさん」
「なんじゃ」
「あのフレディの部下はどうなるんだ?」
「残念だが、操られていようとなかろうと騒動に加担した事実は消えんのじゃよ。関係者の処罰は皆同じじゃ。極刑は免れまい。じゃが、お前の嘆願もある。恐らく親族へはリンクルアデル側の兵として殉職したことになるじゃろうな。そうする事で一族への処罰はいかぬ。本来なら一族郎党、赤子に至るまで全員処罰対象じゃからな」
「そうか......そこは避けられないか」
「事が事だけに無理じゃろう。すまんが今回の騒動で誰かを許せと言ってもワシには無理じゃ」
「まあ、そうだよな」
「ヒロシよ、お前は少々甘い所が残っておる方が丁度いい。お前は今のままでいるんじゃぞ」
「なんだよ急に」
「よくぞソニアを、もちろん両殿下も含め連れて帰ってきてくれた。ありがとう」
「れれ、礼なんかいいんだよ」
「まあ照れるな。本心じゃ」
「ああ、分かったよ。それで......なんだけどな。元気になってロングフォードへ戻ったら話したい事があるんだ」
「なんじゃ? ......そう言う事か?」
「まあ、なんだ。そうだ。そう言う事だよ」
「よし、明日帰ろう」
「元気になるまで寝てろよ」
「大丈夫じゃ、ワシにはこれがある」
そう言ってじいさんはベッドのサイドテーブルの扉を開けた。そこにはブルワーク24が所狭しと並んでいた。なんでそんなに持ってきてんだよ!
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