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楽しんで頂けたら幸いです。
昨日はそこまで考えられなかったが今思う事がある。
この馬車、立派だ。
すれ違う馬車は屋根がないものが多い。それこそ干し草や何か機材のモノを入れて走っている馬車だ。人を乗せている馬車も屋根がないものが多いぞ。ご婦人方はつばの大きいハットをかぶっている人もいるが、ほとんどは何も着けていない。乗合馬車と言う感じで個人の所有物ではなさそうだ。
歩きの方が圧倒的に多く馬車で移動している人は少ない感じがする。馬に乗って移動している人もいるが、多くは警備の人たちだ。カッコいい制服を着ているぞ。一般人と違うところは制服と帯剣しているところだが、一般人も帯剣している人が居る。サーベルっぽいな、見た目は。
「じいさん、ここは誰でも剣とか持って歩いてんのか?」
「あたりまえじゃろう。商人でもサーベルまではいかないまでも短剣位は携帯しておる。お前さんのニホンと言う国がどうか知らぬがここでは武器を持って歩くのはおかしなことではない」
「そうなんだな」
「だが街中で剣を抜くことは基本禁止だ。たまに冒険者同士の喧嘩が発展して引っ込みがつかなくなる場合はあるが、冒険者同士の場合は基本自己責任に問われる場合が多い。命のやり取りであってもだ」
「刃傷沙汰も自己責任か」
「昨日ケビンからも聞いただろうが、冒険者が街中で暴れるというのはほとんどない。あればそれなりの理由があるという事じゃの。ただし、一般市民に刀を向けた場合は警備と衛兵は直ちに介入する。必要に応じて牢獄に入れられる場合がある」
「警備と衛兵が裁くのか?」
「軽微な事であればその場で解決するが、大きさによって男爵家に持ち込まれ、そこでも判断がつかない場合は伯爵家にあがる。それでもダメな場合は侯爵まで上がる」
「三権分立ってことじゃなさそうだな」
「時々お前はよく分からんことを言うのう」
「ごめん、気にしないでくれ」
過ぎ行く街並みを眺めながらぼんやりと遠くを眺める。雑踏を抜けると住宅街にでた。多くは平屋で隣の家とつながっている。
チェーンハウスってやつだな。完全な一戸建てもある。アパート的なものも見受けられるが、マンションや団地のようなものはない。
今まで見た中で一番大きな建物はさっき見えた時計塔だったな。その次がじいさんの宿屋だ。
多くが2階建ての中でじいさんのホテルは10階建くらいあったからな。建物が低い理由はいくつかある。
日照権の問題、土地が広く余っており上に伸ばす必要がない、景観の問題、色々あるだろうが、一番大きなのは、高い建物を建てる技術がないという事ではないだろうか。勿論見た目には遠めに丘や山がみえるころから土地はあるのだろう。
しかし今の文化レベルを見るに高い建物を建てれるとは思えない。ただ、魔法世界ってことを加味すると安直に決めつけるのも良くないだろう。ただ最後は......どうでもいいかぁと言う思いと共に考えるのを止めたのだった。
またしばらくすると丘に続く道の向こうに大きな建物が見えてきた。塀が長い。100メートルくらいあるんじゃないか?なんていうのか、城下町を見下ろすちょっとしたお城みたいな感じだ。
まさか、あれじゃないよな? いや、もうわかるだろうよ。あれだな。
「じいさん、あれだよな?」
「あれじゃな」
門の前に到着すると衛兵が出てきてセバスと何かを話している。そしてドアがノックされると、ソニアさんが「どうぞ」と答えてからドアが開かれる。すごいな、衛兵さん、勝手に開けたらダメなんだ。
「ゾイド様、お帰りなさいませ」
「うむ、勤務ご苦労。変わりないか?」
「はっ、何も問題は発生しておりません」
すると、衛兵さんがこちらを見た。
「ゾイド様、こちらの方は?」
「ワシの客人じゃ。名前はヒロシだ。他の者にも連絡しておいてくれ」
「了解致しました。それでは失礼致します」
ドアが閉められ、馬車は中へと進んでいった。中に入るとすぐに大きな噴水が目に入る。噴水を中心に上下左右に石畳が引かれており小道が出来ている。噴水がロータリーの役割を果たしている感じだ。
大きな庭にはメイドらしき人や執事と思われる人間、庭師など幾人かが作業しているのが見える。
池もあるぞ。小さな池ではない。釣りでもできるんじゃないかと思える池だ。日本庭園風ではなく、なんて言うか奇麗に配置された天然の池みたいだ。
馬車は噴水を迂回するとしばらくまっすぐ進み玄関口へと到着した。門を抜けても玄関まで距離があるってすごいな。どうやって中を移動してるんだ? 自転車か?
玄関口に到着すると既にメイドと執事が待ち受けていた。衛兵から既に連絡が入っているのだろう。電気が無いとするとやはり魔法を利用した道具か何かだろうか? じいさん、おばあちゃん。ソニアと娘たちに続いて俺も馬車から降りた。
「お帰りなさいませ大旦那様。そちらの方がヒロシ様でございますね」
「うむ、失礼が無いようにの」
「畏まりましてございます。さぁどうぞ」
執事が手を玄関の方へと向けると、待機しているメイドがドアを開ける。どうなってんだこの家は。じいさんは当たり前のように中へと歩を進める。まぁ自分の家だから当然だけど、俺はそうもいかない。ちょっとしたおのぼりさんとなって周りに会釈と愛想笑いを連発するのだった。
馬車は俺たちを降ろしたのち、執事の一人が乗って行った。セバスは俺たちと一緒に移動している。セバスは歩きながらメイドと執事に何某か指示を出しているのだろう。メイドと執事は聞いた後に直ぐに散っていった。
じいさんの後をついて談話室のようなところへと入ってきた。シェリーとロイはメイドが連れていこうとしていたが、じいさんが少し待つように言い、今は一緒にいる。
大きなソファが並べらえているところ、正面をじいさんとおばあちゃん。左側がソニア一家。そして俺はじいさんの正面に座っている。メイドがお茶を用意してくれているがその手つきは洗練されており、レベルの高さがうかがえる。
こういう専門の教育ってのもあるんだろうな。全員の用意が終わるとじいさんが軽く手を挙げてその指先をドアの方へと向ける。するとメイドは軽くお辞儀をして部屋を出ていった。おい、じいさん、なんかカッコいいじゃないか。
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今日はあと二話程更新したいと考えています。
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