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よろしくお願いします。

「アラン陛下、下の階でも戦闘が始まったようですな」


「ふむ、誰が上がってくるのか。ジャッジメントであれば良いのだがな」


「塔へと侵入してきたものは数名。ウインダムが登ってきても問題はありません。ここで決着です」


「フハハ、そうか。そうでなくてはな。聞いたか! お前たちは国の滅亡への第一歩をその眼でみることになるのだ。どうしたアンジェリーナ、震えて声も出せないか? 所詮は微温湯につかってきたガキどもだ。せめて最後までそこで絶望を味わっているが良い」


「そんな事にはなりません」


「チッ、また男爵家のお前か」


「聞こえませんか? あなたを破滅へと導く足音が。あなたは死神の舞踏会へと誘われたのです。最後の時を仮面の男と踊りなさい」


「仮面の男が上ってくるだと? どうしてわかる? とうとう頭がおかしくなったのか?」


「あなたには分からないでしょうね。バルボアは今日陥落します。あなたは勝てません、決して」


「黙れぇ! 男爵家の女如きが誰に向かって口を利いておるのだ! お前はもう今殺してやる!」


 アランは思い切りソニアを殴りつけた。飛ばされて転がるソニアだが、その眼はアランを睨みつけている。その眼に宿る力にアランは一瞬気圧されるが、それが自身の感じる恐怖と認めることが出来ず、怒りと共に腰から剣を引き抜いた。被さるようにしてソニアを庇うアンジェリーナとフランツ。そこでアンジェリーナの中で何かが芽生えようとしていた。それは急速に成長し、アンジェリーナの心の殻を破ろうとしている。


「陛下! いけません」


「離せ、ジェイソン。この小娘を殺さずにいられるか! ハイリル、貴様も余を止めると申すか!」


 ハイリルが慌てて手を放し、アランがジェイソンと振りほどいた時だった。フランツ王子がアランの足へと飛びかかってきた。その小さい手で足にしがみ付き、必死で食らいつく。


「離さぬか! このガキがぁ!」


 アランはフランツを蹴りつける。何度か蹴りつけられ、フランツは毬のように飛ばされるが、ソニアは直ぐに転がるフランツを庇うようにして被さりその身を守る。アランの気は収まらず二人を執拗に蹴りつける。


「見ろ、この光景を! ギャハハハ! 俺の前に王族が平伏している。何と良い気分だ。だが今殺してやる。3人もいるから生意気な事を言うのだ。生への執着が捨てられんのだ! その眼が気に入らん! 泣き叫べ! 命乞いをしてみろ!」


 アランはソニアとフランツを足で蹴りまくる。その光景を見て一歩も動けないアンジェリーナ。怖い。怖くて仕方がない。目の前で蹴り上げられる二人を見て足の震えが止まらない。私は何をしているのだ。何に怯えているのだ。大切な二人がいま目の前で殺されようとしている。


 やめろ、やめてくれ! 怖い怖い怖い助けて助けて助けて。


 誰か助けて!


 その時、アンジェリーナの記憶が時を巻き戻すように遡りはじめる。


『自信とは何かを積み重ねて、積み上げて出来てゆくものです』


 あの人は言ってくれた。


『でも逃げてはいけません。暗闇に灯りが欲しいのなら私が灯りになりましょう。その身を守る盾が欲しいのなら私が盾になりましょう』


 あの人は言ってくれた。


『自分を卑下したり苦しめることをしてはいけません』


 あの人は言ってくれた。


『もし姉が欲しいなら、私が姉になりましょう。どうですか?』


 あの人は私に光を与えてくれた。希望を与えてくれた。そしていま目の前でその言葉をまさに体現しているではないか。あの小さいフランツですらその身を挺して、理不尽へとその小さな牙を剥き出しにして戦っている。

 

 私は変わる。変わらなくてはならない。そして、変わるべき時は......今!

 創造神アザベル様、どうか私に力を! 私に勇気を!


 心から溢れ出す激情。弱きを助ける心。弱きを慈しむ心。理不尽に抗い強気を挫く気概。それを統べる力、統率し民を幸福へと導く光。王族の気品と矜持。是即ち王家の畏怖となる。王家の責任と矜持を正しく理解したその時、鎖で縛られた心の殻は打ち破られ、王女に備わったスキル条件は全て解放され発動する!


「下がりなさい、無礼者!」


「なんだと? 役立たずの第一王女様が偉そうに何を言ったのだ? ああ?! なんて言ったんだ?!」


「この私に何度も同じ事を言わせるなど何たる不敬か。逆賊如きに我がリンクルアデル王家が屈するとでも本気で考えているのですか? なんと幼稚なことか。何と言う稚拙な行いか。人質を取る事でしか優位性を保てないなど滑稽以外の何物でもない。殺すなら殺すが良い! だが忘れるな、反逆者の未来には絶望しかないと言う事を!」


「貴様ぁ!」


 アランはアンジェリーナをも殴りつける。しかし、彼女は下がることなくその眼でアランの目を見据えて動かさない。その眼には断固たる決意、勇気、そして王族としての矜持(プライド)が宿っていた。その眼に自分に対する侮蔑を感じたアランは引きずり倒して傷めつけたい衝動に駆られる。しかしアランはその足を前に進めることが出来ない。何故だ? このような小娘に畏怖を感じているとでも言うのか? アランが後ろを振り返るとジェイソンとハイリルも動けないでいる。


「ハイリル! このガキどもを斬れ! なんだ、その顔はぁ、余の命令が聞けぬと申すか!」


「ううう、うわあああ!」


 ハイリルは剣を抜きフランツを庇うソニアの方と向かっていく。その剣を振り上げた瞬間。


「あなたのような下衆に触れられる程、彼女の体は安くありません」


 ガキンと音がしたかと思うとハイリルの剣は空中で固定されたかのように止まっている。アンジェリーナが何かしたのか? しかし第一王女は能力やスキルを何一つ持っていなかったはずだ。それが理由で数年間籠ってしまい表舞台には一切出なくなった。まさか、発現したとでも言うのか?


「なんだこれは? アンジェリーナ、貴様なにかしたのか。不能のお前が一体何をしたと言うのだ!」


「黙りなさい下郎。臣下の礼を忘れ王族へと謀反を企てたお前にもはや話す事などありません。今こそ私はその責務を果たす時。次期国王と私の大切な人を守りましょう」


 アンジェリーナはゆっくりその両手を下から上へと回し、重ねた掌を頭の上から体の中心へ降ろしていく。


「我に関わる一切の事象を遮断せよ......ハーミッツデザイア(隠者の欲望)


 眩い光と共に三人の周りを大きな球体が取り囲む。彼女の能力(アビリティ)は結界、技術(スキル)は堅牢。大切な人を守るため、そして第一王女の自覚に芽生えた彼女は遂にそのスキルを発動させたのである。我に返ったハイリルが切りかかるがその剣先が彼女たちに届くことは無い。アンジェリーナは重ねた掌を解くことなくソニアへと声を掛けた。


「お姉さま、大丈夫ですか? さあ早くお姉さまのスキルで治療を」


「ありがとう、アンジェリーナ。助けてくれたのね」


「すみません、私が臆病だったばっかりに......今スキルが発動しました。この中には何人も干渉できません。さあ早く治療を」


「そうね。フランツ王子、大丈夫ですか? 私が付いていながら申し訳ありません」


「大丈夫だよ、ソニアお姉ちゃん。庇ってくれてありがとう」


 その光景を見てわなわなと震えるアラン。信じられぬ。このタイミングでスキルが発動するなど。そんな奇跡などあってたまるか。死ぬ寸前でスキルが発動するなど......まるで神話か何かではないか。許せん、許せる事など出来るものか。


 その時、勢いよく後ろのドアが開き仮面をつけた男と獣人が入ってきた。この黒い恰好の人間が例の男か。まだ計画が頓挫した訳ではない。女を殺すことが出来なくなっただけだ。今ここでコイツを殺せば後はリンクルアデル城へと攻め込むだけだ。後から他のジャッジメント達がウインダムを蹴散らして上がってくる。そうだ、まだ計画は何も変わってはいない。アランが口を開こうとしたその時、仮面の男は言った。


「何も話すな。ここに居る人間は全員殺す」




お読み頂きありがとうございます。

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