151
本日三話目の投稿となります。
ここから始める方は一度お戻り下さい。
次の部屋には二人が待っていた。本当にこのやり方で行くのか?
「また一騎打ちをご所望なのか?」
「もしかしてお前が噂の仮面の男か? 戦争の最中でも一騎打ちは珍しい事ではない。それが戦争の行く末を決める事すらある。冒険者には理解できないだろうがな」
「騎士団をバカにするつもりはないが、人質の命が掛かってるんでね。今は騎士道だのはどうでも良いんだ」
「人質はまだ大丈夫だ。君たちが勝てば手に入るだろう。私たちが勝てば国が手に入るがね」
「あと上に何階あるんだ? 大丈夫かどうかなど信じられると思ってんのか?」
「あと二階だ。心配するな。残りは階につき一人しかいない。四対四で丁度良いだろう」
「ヒロシ、いいわ。ここは私が残るわ」
「では、私も」
「シンディはヒロシについて行きなさい。あなた護衛でしょう?」
「しかし......」
「昨日言った通りよ。私がダメな時はあなたがやるのよ。この二人の相手をするにはシンディにはちょっと早いからね。ヒロシを頼んだわよ」
「......はい!」
「何の話だ? サティ、一人で大丈夫なのか? こいつらの目は少し気に入らないが」
「大丈夫よ、すぐに後から追いつくわ」
「ヒロシさん、先を急ぎましょう」
-------------------------------------
「はっ、誰が残るのかと思えば......いささか心外ですな。ケダモノ風情が私たち二人を同時に相手すると言うのですか? 劣等種族がジャッジメント二人を相手にするなど思い上がりも甚だしい」
「バルボアの人間は皆こうなのかしら?」
「何を当たり前の事を。ケダモノと下層住民は奴隷、選ばれた者に尽くすのは当然の事だろう。まぁ、それでは名乗らせて頂こう。私はジャッジメントのロレンツ」
「劣勢種族なぞに名乗る必要などないと思うがな。私はダニエルだ」
「ダニエル、名乗る事は騎士として当然の事だ。冥途の土産にしては勿体ないとは思うがね」
「バルボアの選民主義には前から思っていた事があるのよ」
「なんだ?」
「こういうチャンスが来ないかと。虐げられた同胞の恨みは今日晴らされるわ」
「このクソアマァ! バラバラにして壁に飾ってくれるわ!」
その言葉を最後に二人はサティへと襲い掛かってくる。二人の武器は短剣より少し長い程度だ。それを両方の手に持っている。
「四本の剣を捌ききれるかぁ?」
サティは腰から二本の剣を引き抜き構える。次々と迫る剣を捌き、躱す。二人がかりの攻撃かと思えばそれだけでは無い。巧みに一人が死角へと回り込み攻撃を繰り出してくる。ロレンツとダニエルは常にサティの打ち終わりを狙い、そして自らの打ち終わりをカバーする。大人と子供ほどの実力が離れていれば一体多数の戦いでもその優位性は変わらないが、実力が拮抗してくればたとえ一人増えただけでもそれは確実に脅威となって圧し掛かってくる。スキルの優劣がその実力差や人数の不利を覆す事はままあることだが、相手もスキルを持っている以上、大きなアドバンテージにはなり難い......普通は。
「狐月」
サティの剣がブレる。左手から放たれた剣先は一瞬波打ったように見えて構えるロレンツの剣の間を抜け肩口へと突き刺さる。そのまま身を翻し右手の剣で足元から上へと切り返す事でダニエルを牽制したあと、そのまま勢いを殺すことなく引き抜いた剣を今度は回転を加えて両手剣を一気に肩口から切り落とす......かと思われた時に、ダニエルがロレンツを斜め後方へと蹴り飛ばした。肩口から胸元へと抜けるかと思われた剣はそのまま空を切る。
「よく咄嗟に後ろへと蹴ったわね。どっちか知らないけどダニエルは命拾いしたわね」
「チッ、俺がダニエルだ!」
ダニエルは交差させた二本の剣をサティへと叩きこむ。サティは受ける事はせず二本の剣で斬撃を受け流す。その時ダニエルの肩越しから炎が飛んでくる。少しバックステップで距離を取り剣速で炎を掻き消すサティ。そのままダニエルへと再び近づく。ダニエルは交差させたまま突きだした剣を高速で左右に開く。その剣を余裕をもって避けたサティだがそのわき腹からは血が噴き出した。
「避けたと思ったけど......魔法剣かしら?」
魔法を帯びた剣はその属性を纏うことが出来る。以前ガイアスがヒロシとの模擬戦の時に見せた時のように。ダニエルの剣には風の魔法が付与されており、その間合いから少し先まで斬撃を放つことが出来る。ロレンツは次々と炎を投げつけダニエルが魔法剣でその軌道を変えて攻撃に幅を持たせる。戦列に復帰したロレンツは斬撃と魔法を織り交ぜサティを追い詰めて行く......だが。
「ブレスオブファイア」
突然サティの周りに炎の壁が出来たかと思うと周り360度全方向へと爆散する。二人は両手を交差し炎を凌ぐ。しかしその熱量は高くダメージを防ぎきれない。
「グゥオオオオオ! 貴様、魔法が使えたのか!」
「使えないとは誰も言ってないわよ。でも流石、中々タフにできてるわね。もうやめておいたら?」
「ふざけるなよ、このケダモノがぁ! ぶち殺してやる!」
「ダニエル、さっきから言葉使いが騎士とはかけ離れているわよ。やっぱりバルボアの男はクズが多いわね」
「やかましい! おれはロレンツだ!」
ロレンツは切りかかるがその威力は衰えてきている。サティは体を捩り避けながら相手を蹴り飛ばす。それを見たダニエルは後ろからサティへと切りかかるが、それすら剣で軽く払われてしまう。耐えたとは言えブレスオブファイアを正面から受けてしまったのだ。その体のダメージは計り知れない。
「クソがぁ! お前も! 上の女もぶち殺してやるからな!」
「......その言葉は頂けないわね。あなた、殺すわよ?」
サティはゆっくりとロレンツの方へと歩き出す。明らかに雰囲気が変わったその体から出るものは......殺気である。
「舐めるなぁ!バインド!」
ロレンツはサティの足元に狙いを定めて魔法を放つ。次々と放たれる魔法は足、手、体あらゆる所へ巻き付き、体を締め付け動きを大きく阻害する。
「ハァハァ、家畜の分際で......ケダモノのくせしやがって......生きたまま刻んでやる!」
二人は四本の剣を両側から薙ぎ払うようにサティへと襲い掛かる。サティの体は締め付けられ身動きが取れない。無情にも四本の刃はサティの体を刻む......かのように見えた。
「特別に三本であの世に送ってあげるわ」
「ケダモノ風情が人間様を見下ろしてんじゃねぇ!」
サティの目が一瞬細くなったかと思えば、体を包み込むような紫色の気が充満する。急速に膨れ上がっていく気が周りの大気に呼応しているようにチリチリと音を立てる。それは影か、それとも幻影か? サティの体に何か異変が起きているようにも見える。
「狐炎......紫面三尾」
「ガハァッ!」
大きく大気が弾けたかのような衝撃に二人は弾き飛ばされる。即座に態勢を取り直して二人が見上げた先に目にしたものは......
「こここ、こん......な......ゆる、ゆるしt」
「た、たすk」
刹那、鈍い音と共に二人の男は下半身を置き去りにして壁に激突しはじけ飛び、残された半身はユラユラと数度揺れたかと思うと贓物を撒き散らして床へと崩れ落ちた。
「やめておきなさいと警告はしたわ」
これで虐げられてきた同胞の仇を討ったとは言わないが、それはもうすぐバルボア陥落と共に達成されるだろう。そう思えばここで戦えたことで多少は報いたことになるのではないか? サティは服装を正しながらそんな事を考えていた。そしてドアを抜ける前に何事か思いついたのか、振り返ると部屋の様子をもう一度確認した。
「ちょっとやり過ぎたかしら? 紅面一尾でも十分だったわね」
サティは肩口の髪を後ろに流しながら踵を返すともう振り返ることもなく部屋を後にした。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。
下記、おまけです。
「ちょっとアンタ。待ちなさい!」
「やはり来ましたか......カルディナさん」
「舐めた真似してくれたわね。どうして私の戦闘描写がないのよ!」
「......」
ダッ!
「あっ、こら待ちなさいよ!まてー!」