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真夜中過ぎ、船は陸から離れバルボアへと進路を取る。移動中は出来る限り睡眠をとる事を心掛けた。心配で仕方がないが肝心な時にミスをする訳にはいかない。仮眠でも良いからとにかく体を休める事が大事だ。ラザックが知り合いの船乗りに頼み船を出してくれた。漁を行うように偽装するためいくつかの船を併走させる。絶壁の影で城から目立たないところで船を止め俺たち8人は海の中を泳ぐ。海の魔獣と出会うと厄介なので絶壁ギリギリまで寄せてもらった。ラザックとはここで別れる。彼らは速やかに沖合へと船を戻していった。彼らにはそのまま沖合で待機してもらう。最悪飛行船が壊れてしまった場合は船で移動する事になるからな。
暗闇の中、断崖絶壁の斜面を登り切らなくてはならない。獣人組とラースは結構簡単そうに登っていく斜面だが、俺たちはそうもいかない。だが獣人たちのサポートが非常に大きく、慣れないながらも意外と早く登ることが出来た。人間だけならこうも早く登りきる事は出来なかっただろう。袋の中から戦闘服を取り出し着替えを済ませると物陰に隠れた。どこまで近づくことが出来るだろうか? 民家の裏側に潜むのとはわけが違う。
「城まで距離があるがしばらくはここに潜み様子を見ながら少しずつ近づいていくことにする。飛行船が見えて騒がしくなってきたら、全面的に行動を開始する。東門から侵入だ。中に入ったら極力戦闘を避け、人質を奪還する。場所が分からなければ適当なやつを捕まえて吐かすしかないな」
「もしラースが潜入に成功して情報が取れたらあの東門横にある木に矢文を放っておいてくれ。無理はする必要はない。最悪は城内で合流してから情報の共有を行おう」
「了解、分かったよ。アデリーゼでバルボア城内の地図は見せてもらったからある程度は頭に入ってる。とにかく最善を尽くすさ。じゃあ僕は早速潜入してくるよ」
ラースはそう言うと城の方へと走っていった。飛行船が到着するまでに調べられるかが一つのカギとなる。無理はしなくていいと言ったが頼むぞラース。後ろを振り返るとセイラムがいる。流石にあのフルプレートメイルは運んでこれなかったが、少し軽装過ぎるのではないだろうか?
「セイラムはその格好なのか? 武器もナイフしか持ってないようだが?」
「僕はこれで大丈夫、剣は現地でも調達できるしね」
人それぞれ戦闘スタイルがあるから多くは言うまい。そう言う俺は背中に偃月刀を括りつけてきたがな。うっすらと夜が明け始めた。夜の間は上空高くに待機して夜明けと共に下降を開始するはずだ。夜間の襲撃は魔獣は夜目が効くので、こちらにメリットが無いと判断した為だ。
「来た」
かなりの速度で下降してきている。だが流石にスローンオブスカイの大きさでは目立つな。一斉に森から魔獣が飛び出してきた。バルボア兵も向かっており一部魔法での攻撃が開始された。ある意味これだけ目立つと俺たちに対する陽動にはむしろ良かったかも知れない。王族専用船と言う事もあってかなり重厚に作られているのか魔法での攻撃にも十分耐えているようにも見える。
まだだ。まだ我慢だ。飛行船が着して戦闘が始まるまで待つんだ。飛行船は下降状態からゆっくりと船首を振りバルボア城の方へと進路を変える。ゲートを開き、そのまま城へ向かう形でやや前方に流れるように着地した。ゲートから騎士団と冒険者たちが流れ出てくる。森側と城側に挟まれる形となるが、船体を背にして一斉に城の方へと走り出す。ややあってバルボア兵と騎士団は激突した。
「行くぞ!」
俺たちは飛び出し、全力で東門へと走る。東門は閉じられており、その横にある通用門をどれだけ早く破られるか......俺たちに気づいた時にバルボア兵士が東門を開けて攻め出てくれたら、逆に突破し易くていいのだが。とにかくまずはそこまで走る事が先決か。そう思いながら走っていると前方の木に矢が突き刺さった。ラースか? ガイアスは矢についている紙を読み上げる、と同時くらいに東門の上から声がする。
「おい! こっちにも敵がいるぞ! 東門に侵入者発見!」
やはりこれ位近づくと分かるよな。通用門迄あと少しだ。
「ヒロシさん、通用門は無しだ。そのまま北側に沿って走ると地下水路があるらしい、用水路入り口の鉄棒を外していると書いている! 敵が東門から出て来なかったらそっちに向かおう」
「分かった! ラースはそこから入ったのか、助かる」
敵は弓を門の上から放つが、門が開く気配はない。やはり城内には兵士があまりいないのか? 多くの兵を配置しているなら8人程度に対しては弓矢を使うより、門から出てきて数で圧倒した方が確実だろう。城門の上から矢を放つ兵もそれほど多くはない。何にせよ門が開く気配がない以上、向かうは用水路だ。俺たちは木を盾にしながら門の脇を一気に駆け抜けた。
水路脇の道を走りながらガイアスは説明を続ける。水路左側3番目の階段を上ると穀物貯蔵庫に入るらしい。そこから右の階段を上っていくと城内に入れるみたいだな。そっちの方が助かる。城内の下まで走るわけだから結構な距離だが、敵兵と会うくらいならよっぽどマシだ。
「人質は地下には居なかったと書いてある。恐らく上だろう。ラースは俺たちと合流するまで身を隠しておくらしい」
「上出来だ!」
俺たちは階段を見つけ一気に駆け上がった。
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バルボア城、領主の部屋にはアランとハイリルそしてジェイソンが居た。
「騒がしくなってきたな」
「はっ、リンクルアデルの騎士団が攻め入ってきた様子。魔獣どもと戦闘が開始されました」
「予想通りだな。集中的に騎士団の隊長クラスを狙うのだ。統率できなければ騎士団など烏合の衆に等しい」
「恐らく連れて来れて5番隊位まででしょう。騎士団で能力が高いのはせいぜい3番隊まで。残りはアデリーゼの防衛もあるでしょうから。冒険者がついてきていたとしても我々の有利は変わらないでしょうな」
「それでは我々も念のため塔へと移るとするか。ジェイソン、ジャッジメントにもそう伝えよ。もし騎士団が抜けてくれば塔で相手をしてやるが良い。そこで騎士団の隊長クラスは確実に仕留めるのだ。私は最上階へと敬愛する両殿下にご挨拶に伺おう。リンクルアデル落日の第一歩を共に見たいのだ。クァハッハッハ」
「畏まりました」
「ハイリルは余と共に参れ」
「はっ」
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