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よろしくお願いします。
そして一通り説明が終わった時に陛下が口を開いた。
「よくロングフォードより来てくれた。まずはその礼をいう。状況については今ゴードンとレイヴンから説明があった通りだ。明日にでも飛行船でバルボアへと仕掛けたいと言うのが本当の所だ。概ねこの流れで話は進んでいるが、何か他に考えがあれば聞こう。ここに居る全員の忌憚ない意見を求める」
「天空の剣のガイアスだ。レイヴン軍務卿にお伺いしたいのだが飛行船でバルボアへと向かうと言う点についてだが、的になるだけなんじゃないのか......ないのでしょうか?」
「もっともな意見だ。しかしそれについては何度も議題に上がっている事なのだ。バルボアへと向かう森を抜けるには日数が圧倒的に足りない。下から狙い撃ちされようとも領主の城の近くに着地するしかないのだ」
「しかし、無事着地できなければ......言いたくはないが無駄死にするだけだと思いますが......後向こうの戦力も知りたい」
「着地前から魔法での打ち合いが始まるだろう。ゲートを開いての高速下降になる。無事着地できるに越したことは無いが、少々飛行船が傷んでも一撃で墜ちる事はことは無いと考えている。あとは向こうの戦力だが、衛兵と警備、後は魔獣が多数いると思われる。民衆は領主のやり方を快く思ってないので協力はしないだろう。かと言って表立って反乱を起こせはしないだろうから街で籠っていると思う。奴隷を使っての戦闘はアランの言葉を正とすれば居ないはずだ。これは獣人奴隷を戦争の道具に使うとドルスカーナが黙っていないと思われるので、信憑性は高いと考えている。あと先の話に繋がるのだが、向こうは魔獣を中心とした戦力であるため、白兵戦になる事が予想されるのだ。魔法攻撃に特化した人間は少ないと思われる」
「なるほど、分かりました。人質が囚われている場所の予測は立っているのでしょうか?」
「通常の捕虜や人質の取り扱いに則ると今回のケースはバルボア城上部で幽閉されている可能性が高い。利用価値が低くなれば地下の牢獄へ移されることもあるが......それは断定できない」
「一発勝負で決め打ちは危険ですね......」
「レイヴンさん、飛行船だとここからバルボアまで何日かかるのですか?」
「何日もかからんな、半日程度だ。ヒロシ何かいい案があるのか?」
「皆の意見を聞いてからになるが、もしここが使えるなら仕掛けるのは明日でも良いと思う。無理ならもう少し作戦を詰めた方が良い気がするな。やはり飛行船だけではリスクがあると思う」
俺は地図の東側、海を指さした。
「バルボアの東側は確かに海だが、断崖絶壁だ。そこを隊列を組んで登るのは至難の業だ」
「なら尚のこと良いじゃないか。それを見越しての事だろうが城の位置も海側だ。ここを登るのは数名だけにするんだ。アランは飛行船でのバルボア上陸に警戒を強めてるだろうからいけると思う」
俺は説明を続けた。恐らくアラン側は飛行船での乗り入れを警戒しているだろう。断崖絶壁であればそんな場所に人員を割くことはしない。まあ多少はいるだろうが。またバルボアは人間の兵士が圧倒的に足りていない。ほぼ魔獣を従属の首輪で操っている事が予想される。それなら城の近くではなく森の方へ隠しておくはずだ。統制が取り難いものを城の近くや裏側には配置しないだろう。以前ローランド付近の森で見たあの光景が思い出される。従属の首輪で数体の魔獣を操って森の奥から魔獣を引き連れてくるパターンになるのではないか?
まず俺たちが夜の内に海側から上陸し、飛行船の到着を待つ。その間に城へと斥候を出し城内を調べる。飛行船が城から少し離れた所で着地し戦闘が始まり城内外が慌ただしくなった所で俺たちが城内へと侵入する。この作戦で問題なのは大きく三点。海を渡ることが出来るか? 斥候を出せるか? そして飛行船は無事着地できるか、だ。海を渡ることが出来れば断崖絶壁は絶対に登る。そこに登れないと言う選択肢はない。
城内には魔獣はいないだろう。つまり殆どが衛兵、そしてジャッジメントの主要部隊が居ると思われる。断崖絶壁を登る以上、こちらも少数精鋭で臨む必要がある。アランがウインダムを殲滅したいと思う理由、そのチャンスがあれば確実に城内で仕留めたいだろう。城外での戦闘の場合、行き違いで城内にウインダムに突入される可能性がある。そんな危険は冒したくないと思う。外は魔獣、内は主要部隊で固めるはずだ。
「街には既に噂が広まっておる。船を出す必要があるが時間が掛かるやもしれんな。王令を出せば協力はしてくれるだろうが戦闘が始まるバルボアに近づきたい船主がいるかどうか」
「レイヴン卿、船の手配については問題ないかと思います」
「ラザック士爵だったな? それは本当かね?」
「はい、私は元々ローランド出身で腕のいい船乗りにアテがあります。必ず協力してくれるでしょう」
「斥候は僕がやるよ、隠れるのは得意なんです」
「天空の剣のラース君か? そうか、君はスキル所持者か」
「着地に関してはどっちみちやらないといけない事だ。その時には俺の部隊はそっちに乗る」
「ホークス?」
「軍務卿、俺はこの体格だ。断崖絶壁を登る事は難しいだろう。心配するな、大暴れして敵の目を引き付けるさ。騎士団をコケにしたジャッジメントをぶん殴ってやりたいがな」
その後も色々な論議が交わされ、最終的にこの案で行く事が決まった。飛行船は騎士団の3番隊から7番隊及びロングフォードの冒険者たち。潜入部隊はセイラム、カルディナ、サティ、クロ、ガイアス、ラース、シンディそして俺の8名となる。それ以外はアデリーゼでの魔獣殲滅だ。首輪の事に関しては再度説明しておいた。優先的に従属の首輪をしている魔獣を倒す事で他の魔獣は森へと帰る可能性が高い。
作戦は決まり出発の前、俺はサティとクロ、シンディでじいさんの様子を見に来ていた。じいさんは規則的な呼吸をしながらベッドで眠っていた。見た所大丈夫そうで良かった。しばらく寝顔を見てからドアの方へと
向けた時だった。
「ううっ」
「じいさん! 目が覚めたのか?」
俺はベッドへと駆け寄りじいさんの手を取って声を掛け続けた。
「ヒ......ヒロシか?」
「ああ、ああそうだ。良かった。目が覚めたんだな」
だが目は開いておらず、どこか意識が朦朧としているようにも思える。
「頼む......両殿下とソニアを......」
「もちろんだ、これからすぐに出発する。安心してくれ、必ず連れて帰ってくる」
「ヒロシか......? ヒロシ......約束してくれ......」
なんだ? よく聞こえない。
「なんだ? もう一度言ってくれ。じいさん、俺だ、ヒロシだ!」
「ヒロシ......約束を......絶対に......」
俺はじいさんの口に耳を近づけ言葉を拾った。その言葉は俺には到底信じられないものだった。
「......何故だ」
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