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よろしくお願いします。
本日3話目となりますのでここから始める方はお戻り下さい。
「ヒロシさん、今日はここで休みましょう。中間地点は既に過ぎております。明日早朝に出発すれば昼を越えた辺りで国道は抜けれるはずです」
「出来るだけ進みたい所ではあるが......」
「もうしばらく舗装されてない道を走るので、このまま夜間に馬を全力で走らすのは危険ですから」
「わかった、そうしよう。すまないな、巻き込む形になってしまって」
「いえ、とんでもない。言いたくはないが私はもう少しで没落するところだったのです。そこに手を差し伸べてくれたのがあなただ。受けた恩は必ず返さなければならない。それに私も元冒険者として国の有事に黙っている事など出来ないですよ。全て当然の事です」
「ラザックさんは冒険者だったのか」
すると会話を聞いていたガイアスがラザックの代わりに話をはじめた。
「そうだぜ。冒険者で売り出し中だったんだが、途中で士爵級を下賜されてな。丁度結婚して子供もできたって事で商売の方へとその活動の場を移したんだ。ちなみに俺も士爵級だぞ? 冒険者は大体Bランク位になってある程度実績を積むと士爵にはなれるんだ。一代限りなんで国としても下賜しやすいんだろうな。何と言うか自動的にもらえる感じだ。ラザック、別に軽んじてるわけじゃないぜ?」
「分かってるよ。士爵までは実績次第で意外と早くなれるんですよ。しかしそこからはそうはいかないんです。ゾイド様はそれから商売を成功させて男爵になりましたが、男爵から敷居は驚くほど高くなる。別次元と言っていい程だ」
「そうなのか」
「ラザックの言う通りだ。士爵で商売を始めると付き合いなんかが出てきてしんどいんだよ。俺は冒険者だから富裕層や特権階級との絡みは余りないから気楽なものだ。上手く士爵と言う名前と階級だけを利用させてもらってる。士爵はハッキリ言って冒険者向きなんじゃないか? 特権階級や富裕層と渡り合おうと思ったら本当に大変らしいからな。」
「そうなんだよ。士爵とは国から給金は出ると言ってもそれだけではとても食っていけない。言いたくないけど、爵位がない方がよっぽど気が楽だと思う時がある。俺は相当苦労したよ。一応その下に騎士爵ってのもあるけど、あれは騎士団や衛兵、警備専用の爵位みたいになってるな。状況は士爵と変わらないと思う。」
なるほど、士爵と騎士爵か......なんとも微妙な位置づけなんだな。手当の一番少ない名ばかり管理職の人みたいだ。名誉だけでは腹は膨れないか。世知辛い話だ。向こうでは暁の砂嵐を始めとした冒険者が野営の準備を進めている。こうみると何気に冒険者の中でも序列ってのがあるとよく分かる。悪いな助かるよ。ちなみに俺の場合は富裕層枠に入るのだろうが、男爵と国王のメダル保持者だ。自分で言うのはおかしいがかなり特殊な位置づけだろうな。
俺はこの移動中、様々な可能性を考えて走っていた。俺にとってメインは人質の奪還だ。そこは揺るぎないのだが、事の発端については詳しく知らない。仮にバルボアの独立宣言が至極真っ当なもので、リンクルアデル側に非がある場合はどうすれば良いのだろうか? あのシュバルツ国王陛下が間違っているとは考えにくいがな。いつか、アザベル様はリンクルアデル国王は上手くやっていると言っていた。問題ないと思いたいが......
そして早朝から俺たちは出発しローランドを抜けアデリーゼへと到着したのだった。
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「陛下! ロングフォードからの応援が到着しました! さあ、皆の者こちらへと入られよ」
俺たちが部屋の中へと通された場所は大臣達が論議を交わしている真っ最中であった。テーブルの上と壁にはバルボア領の見取り図が開かれている。周りには見知った騎士団の隊長連中もいる。ここに入ってきたのは、俺、サティ、クロ、シンディ、ラザックと天空の剣だ。他のパーティーはリーダーだけ参加している。
部屋には騎士団の横に席が用意されており、俺たちはそこに座った。ゴードン内務卿、レイヴン軍務卿からゾイド男爵に関しての状況、死傷者の数、経緯や現在に至るまでの説明を受ける。じいさんの意識がまだ戻っていないことが気になるが、命に別状はないと言う事でひとまず安心した。
また、アラン公爵の屋敷にも既に警備が入り関係者全員が捕縛された。残された人たちは状況を理解していないようで、アラン公爵との関連があるかどうか慎重に取り調べが行われているとの事。その反面、アラン公爵の自室には獣人が数名が首輪をつけられた状態で放置されており、同時に拷問用の道具などが押収された。極度の獣人反対派であったことが保護された獣人や部屋の状況から確認されたようだ。
今回の件はアラン公爵自身とその側近、及びバルボア領の関係者で企てられたと見られ、バルボア領での異様なまでの獣人に対する惨い扱いはアラン公爵の指導のモノだった可能性が非常に高いと言う事だった。選民意識の塊で独占欲が強く、頭もキレる。そして計画を実行に移すだけのカリスマと財力。アデリーゼの混乱ぶりを見るとここでケリを付けないと本当の脅威になっていくだろうな。なんとなく某国の独裁者が頭に浮かぶが、とにかくここまで聞くと流石にバルボア側に非がある事はアホでも分かる。これで俺の怒りは迷うことなくぶつけることが出来ると言う事だ。
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