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閑話 神々たちの憂鬱 2

これで閑話は終了です。

「えらいことしてくれたわね、アーレス?」


「そういうなよ、こっちは地獄行きが決まる寸前だったんだぜ?」


 残ったリーダーは場所を移して会議を始めていた。


「家内安全って何よ?」


「知るかよ」


「あと1か月しかないのよ? どう対応するの?」


「知らないわよ」


「知らないで済むわけないでしょ? あなたの不老長寿も大概おかしいのよ? もし彼が風呂場で滑って死んだらあなた地獄行きよ?」


「そうなのよねぇ」


 ここに集まったのは、戦の神アーレス、商売の神ダンティア、慈愛の神アントリテ、治癒の神パケイア、自然の神メテイルである。男性の神はアーレスだけであり少し肩身の狭い思いだ。


「大体何かっこつけちゃってんの? 何が多様性よ? バカじゃないの?」


 アントリテが言う。慈愛のかけらもない。


「すまん......」


 散々である。


「あなた一人でやりなさいよ! なんで私も入ってくんのよ。他にも山ほど仕事抱えてんのよ? 冗談じゃないわよまったく!」


「おまえ、それアザベル様に言えんのかよ......」


「言えるわけないでしょ! あなたが言いなさいよ! 責任取って言いなさいよ! また多様性とか慣れない言葉でも使って舌でも噛んだらいいんだわ!」


「黙って聞いてりゃこのアバズレがぁ!」


 そこへ天使が入ってきてメテイルにメモを渡す。伝言のようだ。


「やめなさい、あなた達! この会議室、()られてるわよ?」


 ピタッと動きが止まる。


「情報の神インタネトからよ。見てるこっちの寿命が縮むからほどほどにしとけって」


「むぅ。確かにいがみあってばかりでもダメだな。もう少し建設的な話をしよう」


「そ、そうね。私もちょっとテンパってたわ」


 誤魔化し方がどうもわざとらしく大きな声だが仕方あるまい。


「ダンティアってこういうの慣れてるんじゃないの?」


 アントリテが聞いた。


「そうねぇ。こういう新規の場合はチームを組んで、その都度最適かつ必要なモノを必要な時にリリース出来る体制が必要よ。でも私たちが四六時中見張ってるわけにはいかないわ。じゃぁ、どうするか」


「ど、どうすんの?」


 ダンティアは一旦間を置いてから力強く宣言した。


「特別対策本部の設置よ!」


 神殿内の一室にものものしい機材が運び込まれ、集められた天使達にダンティアが説明している。各神達より選抜されたメンバーである。


「という訳よ。いい事貴女達? 部署間の垣根は全て取り払って頂戴。もし相原比呂士に万が一のことがあったら私達全員の地獄行きが決定するわ。もしそんなことになってご覧なさい? どんな手を使ってでも貴女達も道連れにするからね?」


 ダンティアも中々いい性格をしていた。


 アーレス達のランクは神々の中でも上位に位置する。その神々に選ばれた事は大変名誉な事なのだが、大いなる事象には大いなる責任が付きまとう。天使たちにも緊張が走るのはしかたのないことだ。

だが、成功に導けば彼女らのランクも上がるというもの。


 天使達は燃えていた。

 

 因みにこの世界の天使達は皆うら若き女性である。


「しかしダンティアさー、これ金掛かってそうだよな? ここまでする必要あんの?」


「アーレス、あなた本当にバカなの? このプロジェクトに失敗は許されないのよ? 腕が千切れた程度なら無理やりでも繋げるけど、それこそ何かの拍子にポックリ逝かれたら私たちも全員ポックリよ? しかも地獄行きよ? 万全の態勢で臨む必要があるのよ?」


「いやまぁ、そうなんだが......それはギガヒールか特級ポーションでも可能だろう、だがもし千切れた部位が無くなった場合はどうする? 四肢欠損を治すなんてそれこそ神の涙(エリクサー)か特級魔法の更に上だぜ?」


 アーレスは続ける。


「しかもエクスヒールを付与するなんてパケイアも承諾してんのか? セントソラリスの聖女ですら持ってないんだぞ? 神の涙に至ってはあのアントリテの涙が必要なんだぞ? この冷血女が泣くなんて死んでもないだ......グボァ!」


「あんた、マジ殺すわよ?」


「す、すまねぇ、うっかり口が滑っちまった......グァ、やめろマジ止めろ!」


 アントリテがアーレスの胸倉を掴んでいる。


「パケイアからの承諾はまだ得てないけど話は通しているわ。もし彼自身や彼の近しい人間が被害にあった場合、彼の精神が病む可能性がどうしてもあるの。体だけが健康ならいいって訳にはいかないわ。そうでしょ、パケイア?」


「うん、でも考え中」


「しかし......」


 脳筋のアーレスだが、実はこのメンバーの中では意外と常識人であった。


 対策本部は以降その規模を拡大し遂には国際宇宙ステーションの地上管制室のようになっていった。その隣では上級神が集まり会議を行うためのシチュエーションルームまで用意されている。


 そしてついに対策本部設置より一月後、相原比呂士が転生した。


「さぁ、みんな頼むわよ!今までのシミュレーションを生かして、その能力を存分に発揮しなさい!」


「イエス、マム!」


 アーレスとアントリテが壁際でその様子を見守っている。


「ダンティア流石だぜ。俺じゃぁこうはいかなかった」


「貴方みたいな脳筋では一生無理ね」


「お前、本当に慈愛の神なんだろうな?」


「愛のムチよ」


「なんだよ愛に無知ねって? 俺に惚れてんのかよ?」


「バ、本当にバカね! 愛のムチよ! もう、死んだらいいわ!」


 ツンデレ系と鈍感系。本来絶対に交わることのないこの2本のラインが数百年後に交わる事になるなど当の本人達はもちろんアザベルですら予期していなかった事だと言う。


「対象Aの意識が戻りました!」


 その声に全員がモニターに注目する。


「どうします? 世界の声でまず説明を、あっ、何者かがAに接触。一方的に話しかけてます。Aの脈拍上昇、軽度の混乱状況が発生!」


「落ち着きなさい。慌てずに商いの神より言語理解のスキルを付与して頂戴。そうよ。そして世界の声でスキル名を案内してあげて。そう、それでいいわ」


「対象Aに付与完了。対象はそのままアザゼル教典を手に取りました。言語理解が付与されている事に理解が追いついてない様子です」


「それは、仕方ないわね。聞くところによると彼はスキルとかない星から来たらしいから。どこか少し落ち着いたタイミングでスキルの説明をしてあげて頂戴」


「おいおい、世界の声を個人に聞かせるのか? しかも何回も?」


 アーレスが問いかける。元々世界の声は神託や神のお告げ、啓示など色々あるが基本、神聖な職についている者しか受け取ることが出来ない。つまり聖職者や巫女などだ。


「叡智の神であるエルリアに許可は得ているわ。アントリテから話してもらったの。何か起こるたびに神殿に行かせる事なんてできないでしょう? その場で即、発現発動、即、付与完結よ!」


「そうよ、了解済みよ。あんた偉そうに意見ばっかしてるけど、ちょっとは役に立ちなさいよね?」


「す、すまん......」


「ダンティア様、それでは世界の声についてはそのまま通知継続との事で了解致しました。しかしそんな星があるんですね。文明レベルが原始なのでしょうか?」


「いえ、文明は発達しているそうよ。発達しすぎて神のことを忘れそうになっているとも言ってたわね」


「あー末期ですか」


「そうね、近い内に星ごと消えてなくなるんじゃないかしら?」


「どうやらこの後はギルドへ移動するようですね」


「一応魂歴隠蔽のスキル付与の準備をしておきましょう。とりあえず今はこれくらいかしら? 貴方達くれぐれも仲良くするのよ? 連携を乱さないでね」


「大丈夫ですよ、上役達とは違いますから」


「言うわね、貴女......まぁいいわ。では貴女、これから貴女がここを仕切りなさい。名前は? アイシャね。では、アイシャ、他のメンバー含め継続してモニターを続けなさい。落ち着くまで付与は惜しんではダメ。問題発生時には直ぐに報告すること。いいわね?」


「アイ、マム!」


「よろしい」


 順調な滑り出しを見せたかに見えるこの特別対策本部のメンバー達。その後、失敗できない上司たちと失敗を恐れる部下たちにより付与は際限なくエスカレートしていくのであった。



引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
大変楽しく読ませていただいております、ここでの神々や天使のやり取りを見ていると本当笑っちゃいました続きを読むのが楽しみです。 神々や天使も勘違いをしてスキルの付与に暴走するんですね、面白いと思います
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