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よろしくお願いします。
今日もいい天気だ。俺はシェリーとロイを連れて近所の公園を散歩している。サティも一緒だ。シンディとシャロンもいるぞ。二人の小さな手を引きながら木漏れ日の下を歩くのは何とも幸せな気分だ。向こうではクロとアリスがテーブルをセッティングしてくれている。
「よーし、戻ってあそこで皆でお菓子を食べようか」
「はーい」
と言うが早いか二人はテーブルめがけて走り出した。
「まってー」
シャロンが大きなしっぽを振りながら二人を追いかけて行く。俺は今度はサティと手を繋いで、ちょっと微笑み合うとテーブルへと向かった。公園と言っても狭い空間ではない。少し離れた所でも弁当を広げている家族もいるぞ。多くの自然が残されたこのアルガスは本当にいい場所だ。リンクルアデル全体がそうなのかも知れないが。確かにローランドもアデリーゼも良い街だった。
「シンディは仕事には慣れたかい?」
「はい、お陰様で。戦闘訓練に関してもサティさんから鍛えられてます」
「シンディは元々冒険者家業だったから筋が良いのよ。クロちゃんも油断してられないわよ。まぁ、クロちゃんはお店の事があるから仕方ないけど」
「いえいえ、クロードさんにはまだ遠く及びません。これからも頑張るだけです」
「へー。シンディも頑張ってるんだ。でも無理して体を壊したらダメだよ?」
「ありがとうございます、ヒロシ様。でも私はもっと強くなりたいのです」
「クロは時間がある時に俺に付き合ってもらってるからな。訓練してない訳じゃないんだよ。でも分かったよ。程々にね」
「分かりました」
「なによ、私とは一緒に訓練してくれないじゃない」
「サティとはもう手加減できないんだよな。もう訓練じゃなくなっちゃうと言うか、怖いと言うか」
「失礼ね」
「その代わりに一緒に食事に行く機会が増えて良かっただろ?」
「ま、まぁそうね。そうだわ。でもたまには訓練したいわ」
「分かったよ。たまには手合わせをお願いしようかな」
「いつでもかかってくるが良いわ」
いや、それが怖いから遠慮したいのだが......でもサティは嬉しそうだから何も言わないでおこう。俺たちはテーブルを囲んで談笑していた時だった。ガイアスが何やら叫びながらやって来た。なんだ?
「ここにいたか! 大変だ! 今伝書鳩が届いてな、バルボアが、バルボアが独立宣言をした!」
「独立宣言? バルボアって確かあまり評判の良くない領だったよな? 何考えてんだか」
「問題はそれだけじゃない。バルボアにアンジェリーナ様、フランツ王子そしてソニア様が拉致された」
「なん......だと?」
「そしてだ......ゾイドが斬られた。重傷だそうだ。未だに意識が戻らないらしい」
「ガイアス、嘘だろう? いくら何でもそんなこと......」
「首謀者はアラン公爵だそうだ。全て計算された上での独立宣言、そして一週間後に独立を認めなければリンクルアデルに独立戦争を仕掛けると宣戦布告してきている。今、王都は魔獣に襲われ混乱状態に陥っており、ロングフォードに応援の緊急依頼が届いた」
「ソ、ソニアは、アンジェは無事なのか? あと王子はどうなんだ?」
「独立宣言を認める期限、つまりあと一週間は問題ないだろうとの事だが、正直分からん。今、ケビンさんがBクラス以上の冒険者に緊急招集をかけている。ロングフォードは距離的には遠いが念のため厳戒態勢を引くことになる。やつら飛行船でアデリーゼに乗り込んできたらしい」
「なんてことだ......アランとは誰だ? 顔も思い出せない」
「ヒロシさんはギルドから強制参加のメンバーには入っていないんだ。だが、協力してくr......」
「当たり前だ! 必ずギルドへ行く。それまで待つようにケビンさんに伝えてくれ。サティはガイアスについてギルドへ一緒に向かってくれ」
「あなたはどうするのよ?」
「少し思いついた事がある。それを確認したらすぐにギルドへ行く。いいか、俺が行くまでケビンさんには待つように伝えてくれ」
「分かったわ」
「クロ、シンディ、アリスまず商店へ戻るぞ。アリスは子供たちを後で男爵家へと連れて行ってくれ。店は直ぐに閉めろ」
「おかーさん、死んじゃうの?」
「おじーちゃん、死んじゃうの?」
子供たちは俺を見て泣いている。クソッ、こんな時どう答えりゃいいってんだ? 間に合うのか? こんな状況も分からない中で......俺は......
「ヒロくん、それでもシェリーとロイに応えないといけないわ。お願い、声を掛けてあげて。我慢して待てる言葉を掛けてあげて」
サティも俺と同じ気持ちだろう。その眼は強く、俺の心を押してくれる。そうだな、サティ。ソニアは必ず待っている。俺を待っているはずだ。アイツはきっとアンジェとフランツ王子を守っているはずだ。俺が助けないと誰が助けると言うのだ。
「シェリー、ロイ。お父さんに任せろ。お母さんは必ず連れて帰る。必ずだ。だから心配しないで待ってるんだ。いいね?」
「「うん、うん......おとーさん」」
二人は泣きながら俺に抱きついてきた。サティもそっと二人を包み込んでくれる。
俺たちはサティと別れ商店へと急いだ。アリスは従業員に閉店するように伝え、一人を工場へと走らせた。そして二人の子供とシャロンを馬車に乗せ男爵家へと向かった。クロとシンディは直ぐに出発の準備を進め、御者に馬車を表に回すよう指示している。一通りの準備を済ませ、戻ってきた二人を前にして俺は言った。
「よし、まずラザックの所へ行くぞ。用事を済ませたらすぐにギルドへ行く。恐らくそのままアデリーゼに向かう事になるだろう」
「畏まりました、ヒロシ様」
「そしてシンディ。今回はお前もついてこい。恐らく激しい戦闘になるだろう。護衛を任せる。できるか?」
「この命を懸けましょう」
「簡単に命を懸けるものではないが、今だけは有り難く受け取るよ。よし、では行くぞ!」
「はっ」
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