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よろしくお願いします。
ここから話は大きく動きます。
上手く着地できるよう頑張ります。
※注意※
ジェイソンに対する背景及び拉致関わる描写を少し付け足しました。
本編に大きく影響は致しません。
これ以上の描写については以降の投稿で表現していきます。
よろしくお願いします。
奉納金。それは国家を運営していく上で必要な資金となる。年に一度各領地より王都アデリーゼに集められる資金は莫大な金額となり国庫に保管される。その後前年度の支出と残高累計を確認して今年度の予算を決めて行く事になる。リンクルアデルは大きな災害もなくここまで国庫は潤っており、各領には大きな奉納金を求めていないのがここ数年の状況である。一言でいえば財政面ではリンクルアデルは安泰と言う事になる。
リンクルアデルはその地形の理由から各領主が一堂に会する事は余りないし、またそれを強制していない。数年に一度折を見て機会を作り、伯爵家以上の階級を集め王城でパーティーを行う。それ以外は特に謁見の必要はない。
本日の奉納金報告に関してはアルガス伯爵家、バルボア伯爵家の当主が参加している。ウエストアデルとリンクウッドは欠席だ。奉納金は既に輸送されてきており満額を受領済みである。公爵家は王族の系譜にあたるため奉納金の義務はない。侯爵家については伯爵家より奉納金をもらうのだが、税額を引いた金額を受取っているため伯爵家が侯爵家の分も纏めて奉納するという形となる。
つまり奉納金には伯爵だけで事足りるため集まる必要がないのだ。会う機会もそれほどないので顔を見せに来ているようなものだ。
私、ゴードンは定例行事とも言えるこの謁見の場でいつものように話し始めた。事件はアルガス領ローランド伯爵の挨拶が終わり、次にバルボア領ハイリル伯爵の発言で始まった。
「ローランド伯爵、ご苦労であった。それでは次にハイリル伯爵」
「私からはひとつご提案させて頂きたい事があります」
「ほう、なんですかな?」
「バルボアでは大した特産物もなく住民は痩せた土地で苦しんでおります。」
「そうですな。だからこそバルボアの税金は低く設定しており予算は多めに渡しております。そういう意味ではバルボア領では振り分けた予算の使用用途が明確ではないと感じておりますが」
「あのような予算では何をする事も出来ません。特別領地を潤す政策を指示する訳でもなく少ない予算を渡して後は放っておくと言うのは、国策として正しいとは思えません」
「ハイリル伯爵、少々言葉が過ぎますぞ。予算は十分過ぎる程に与えているし領地経営は領主、即ちあなた自身が率先して取り組むべき事案ではないですかな? 国として必要とあらば問題事や相談事はいつでも対応する。その事を知らない訳ではございますまい。あと言い難い事ではありますが、バルボアの市民に対する対応ではあまり良い噂は聞きませんな。重税により住民は苦しんでいると聞く。また奴隷制度についてもだ。良い機会ですからその辺りの事を詳しく聞きたいですな」
私はチラッと陛下の方を見るが今の所何か言葉を発する様子はない。このハイリルと言う男は一体何が言いたいのだ。内容も提案と言っておきながら、王国批判が多分に含まれているよう感じる。
「やはり、温いですな」
「なに?」
「住民が領地の為に税金を納めるなど当然の事でしょう? 税金が重いというならばもっと働けばよいのです。それに獣人は人に非ず。犬畜生をどう扱おうと本来文句など言われるはずもない。それをドルスカーナに遠慮して尊き人間としての立場を疎かにするなどあってはならない事です」
「ハイリル殿、気は確かなのだろうな?」
「もちろんです。バルボアは本来リンクルアデルがあるべき姿を率先して実行しているのです。作業は全て奴隷や獣人にさせれば良いではないですか。住民など私たち特権階級の庇護の下、魔獣に襲われる心配もなく生活できているのです。税金が少々高いからと言って文句を言うなど言語道断ですな。周りの皆さんも何も言わないではないですか。つまりそう思っているという事でしょう」
「何を言っておるのか。何も言わないのは呆れて言葉も出ないだけだ。ハイリル殿、いや、ハイリルよ。貴様の言っている内容はとても許容できるものではない。貴様は領主として不適格であるとしか言えぬな」
「ゴードン卿、やはりあなたも飼いならされた犬ですな。この国には選ばれた者しか住まうべきではない。特権階級で全て支配された国でなければいけないのです。獣人や奴隷、またそこらのただの住民など私たちの肥やし以外の何物でもないとなぜ気づかないのか。全員奴隷でも良いくらいだ。隷属と従属の首輪で全て解決できるではないですか。それすら分からないとはもはや信じられないを通り越して哀れですな」
この後、ハイリルは信じられない言葉を発したのだ。
「その国王もだ」
「貴様!不敬であるぞ!」
まさかの領主のこの発言に衛兵もどのように対応してよいのか分からないようだ。今は定例会の延長のようなもので騎士団は参席していない。衛兵が何名かいるだけだ。
「はっはっは、それでは私の提案を申し上げましょうか」
「......」
「このような温い環境ではリンクルアデルは近い将来他国の侵略を許してしまうでしょう。私が真の国を作るお手伝いをさせて頂こうと考えております」
「それが最後の言葉にならなければよいがな」
「ここにバルボアはリンクルアデルを離れ独立すると宣言致します」
「衛兵! この者を捕らえよ!」
「待てい!」
その時に公爵側より声が上がった。この声はアラン公爵である。飛び出そうとして衛兵は公爵の言葉で一斉に動きを止める。
「ゴードン、なぜ分からぬ。ハイリルが言う言葉は至極当たり前の事ではないか」
「アラン......公爵閣下?」
「この国は既に傾いて来ておる。獣が住まうドルスカーナに媚を売り、引き籠りの第一王女に公務を投げ出して巫女などと言う児戯に傾倒する第二王女。創造神など本当にいると信じているのか? 挙句、後継ぎの王子はまだ年端も行かぬ子供と来た。シュバルツが死ねば簡単にこの国は滅亡への道へと走る事になる。それが分からないのか?」
「そのような事はありません。我ら忠義の臣が何があっても支えて見せましょう」
「待て、ゴードン。それこそこんな茶番に付き合う必要などない」
「シュバルツ国王陛下」
「アランよ、貴様やはり反逆の意をその心に宿しておったか。よもや生きてこの部屋を出れるとは思っておるまいな?」
「今、私を生かしておくこの時点であなたは甘いのですよ」
「なんだと?」
「バルボアは独立宣言を行った。後はそれを認めるかどうかはリンクルアデル次第だ。期間は今日を初日としてこれより10日だけ待つ。もし受け入れられない場合は、我がバルボア国はリンクルアデルに対して宣戦布告を行う」
「衛兵!」
衛兵が動き出そうとしたその瞬間、謁見の場に数人の男が入ってきた。この服装は戦闘衣装ではないか。どこから入ってきたのだ。しかもその手に掴まれている者は......
「動くな! この者達の命が惜しければ誰も動いてはならん!」
戦闘衣装の集団から出てきたのはジェイソンだった。同じく戦闘衣装に身を包んでいる。ジェイソンはアラン公爵の執事で業務などの都合上、王城へは良く出入りしている人間だ。この連中を手引きしたのは間違いなさそうだ。今日に限って待合室を使用する際に人気の少ない公爵側へと誘導した理由がこれか。アンジェリーナ様の為とばかり思っていたが......
「ジェイソン謀りおったな! 貴様正気か!」
「ゴードン卿、正気も正気だ。衛兵を下がらせろ。アラン陛下、ハイリル様、さあどうぞこちらへ」
「そのような事が......」
「動けばこの者達を斬る」
戦闘服の男が集団の奥から覗かせたのはフランツ王子とアンジェリーナ第一王女、そしてソニア様であった。三人ともぐったりとしており意識を失っているのが分かる。何と言う事だ。侯爵専用の待合室とは言え何名かの衛兵が居たはずだ。それを含めて全て無力化、いや排除したとでも言うのか? 今日は騎士団が参加していないとは言え手際が良すぎる。
そして次は違う扉から衛兵が飛び込んできた。
「ほ、報告致します。今森から無数の魔獣が出てきておりアデリーゼへと向かっております! すぐに迎撃の許可を!」
「アラン! 貴様一体何をした!」
「さあ、なんの事ですかな? それでは10日後の返事をお待ちしております。それまでにリンクルアデルが魔獣の手で落ちる事が無ければよいですが」
陛下の両手は怒りで震えている。アランとハイリルは戦闘服の男に囲まれゆっくりと出て行く。衛兵は戦闘服の男を取り巻くように包囲し、並んで動いてはいるが手を出せるはずもない。我々はそれを後方で見ながらついていく事しかできないのだ。
謁見の場を後にし廊下を抜けた先から屋外へと出る。謁見の場の横に配置されている公爵家専用の部屋とは、有事の際に王族がすぐに逃げれるように屋外へとつながっている。いわば最短で逃げる事が出来る非常口の役割を果たしているのだ。よもや公爵が謀反を起こすなど考えられず王族を優先的に逃がす構造にしている事が仇となった形だ。
チャンスを見て何とか人質を奪還しなくては。逃げようがない。逃がすはずもない。そう思っていると広場に大きな影が現れた。空を見あげた我々は絶句した。
「な......なんだと」
空には大型の飛行船が浮かび下降してきているのだった。
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