表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/362

141

よろしくお願いします。

「ローランドに行くの?」


「そうじゃ」


 じいさんは、ローランドに行くらしい。税金を収めに行くのだ。毎年の事などであまり気に留めていなかったがもうそんな時期か。ちなみにウチはロングフォードに税金を納める格好だからローランドに行く必要はない。なんだか楽させてもらっている気がするが仕方がないのだ。ちなみにアルガスはリンクルアデルにある4つの領の中で一番納税額が多いらしいぞ。Namelessが貢献しているからな。フッフッフ。じいさんの株が上がれば俺の鼻も高いぜ。


「それでローランドへ行くその時に一度アンジェもアデリーゼまで連れて行こうかと考えておる」


「まぁ、それがいいかもなぁ。アンジェの変貌ぶりを見たら皆ビックリすると思うよ」


「でも私はまだ自信がありません。なんと言うか皆の視線が怖いというか」


 アンジェは少し心配そうだ。それも無理ないかも知れないな。引き籠った原因は皆から晒される視線だと言っても過言ではない。ただ、それに過剰反応してしまった部分も大きいが。だが、今のアンジェは違う。コンプレックスだった体系は美しく保たれ、何よりその豊富な知識、そして王族に相応しいスキル。足りないのは自信と少しばかりの勇気だ。


「大丈夫よ、アンジェ。あなたはもう生まれ変わったと言ってもいいくらいよ? 私が保証するわ」


「でも......私まだスキルが発動しませんの」


「スキルだけが大切なものではないわ。あなたがあなたらしいだけで良いのよ? 自信を持ちなさい」


 そう、アンジェは何故かスキルが()()しても()()しないのだ。本来スキルは発現と発動は同時期に行われる。発現したらどのようにスキルなのか、どのように使うのかそれが元からあったように体と頭に沁み込んでくる。神様が言う体のアップデートが行われるはずなのだ。


 ところがアンジェはそれを使用することが出来ないでいる。元々成人の時には無かったもので後天的に発現したのではあるが、よく考えたら発現した時点でアンジェが認識していないのもおかしい。俺が鑑定を行うまで本人も知らなかったからな。ちなみに王族のスキルは秘匿される。政治的なことや軍事目的など悪用されることを避けるためだ。だからアンジェのスキルについてはギルドにも知らせていない。じいさんとその周りの限られたメンバーしか知らない。陛下に知らせてからの方が良いと判断した為だ。


「アンジェよ。一度陛下とはちゃんと会って話をした方が良いだろう。もしロングフォードに戻って来たければそうしたら良い。ワシの方から断るような事は絶対にせんわい。スキル発現の事を陛下に伝える必要もあるし、なにより陛下や王妃様もお会いになりたいじゃろう」


「でも......」


「一人で行くのが怖いなら、私もついて行ってあげましょうか?」


「お姉さま!」


「可愛い妹が怖いのなら私が守ってあげないと」


 飛びついたアンジェをソニアは優しく受け止めて髪を撫でてあげている。


「お、お姉さまが一緒なら帰っても良いです」


「うーん、しかしのう。とは言ってもソニアは男爵家の孫娘だ。ロングフォードであれば大丈夫だが、伯爵以上が集まるアデリーゼでは何の役にも立たんぞ? それこそ一番下っ端みたいなもんじゃ」


「そのような事は何の心配もありませんわ。私が持てる知識と権限の全てを使ってお姉さまをお守り致しますわ。そもそもお姉さまに意地悪をするなど万死に値します」


 恐ろしい事を言うんじゃありません。この世界の女性たちは物騒な人しかいないのか? 確かにアンジェは第一王女だ。そこらの伯爵や侯爵など相手にならんだろうが......あれ? それだけの権限と覚悟があれば別に一人ででも大丈夫なんじゃないだろうか?


「そう? でもそれならアンジェだけでも大丈夫じゃないかしら? そんな気がするわ」


 そう、ソニアさん。その通りだと思います。


「いやです! お姉さまと一緒じゃないと嫌ですわ!」


 うむ。駄々っ子ちゃんなだけであったか......


「もう、アンジェは駄々っ子ですね。シェリーやロイに笑われますよ?」


「お姉さまと一緒に居れるのなら笑われても構いません」


「ふふ、分かりましたわ。おじいちゃん、私も行くわ。ヒロシさんも良いわよね?」


「仕方ないのう」


「分かったよ。気を付けて行ってくるんだよ」


 サティが帰ってきたと思ったら今度はソニアが出て行くことになった。ウチの家は結構忙しいんだな。往復を入れても一ヶ月程度か。数日後には出発するらしい。当然男爵家、及びお忍びとは言え第一王女が移動するのだ。しかも奉納金をもって。当然通常の警備以上の準備が必要とされる。Aランクパーティーが出払っているため、今回は男爵家の衛兵と警備だけでなく、身の回りの世話人など大人数が同行する事になった。因みにセバスさんは留守中の男爵家を預かるため、今回はリンクルアデルで待機だ。


「では、行ってくるわい」


「悪いけどシェリーとロイをお願いね」


「大丈夫さ。アリスや他の皆もいるからこっちは心配しなくていいよ。楽しんでくると良い」


「ヒ、ヒロシ様。私は必ず帰ってきます!」


「はいはい、陛下と王妃様によろしくね」


 男爵家の旗を靡かせながら遠くなって行く馬車を眺める。空は晴れて出発には最高の日だ。俺はサティと手を繋ぎながら、ソニアが帰ってきたら一緒にドルスカーナへ行こうと話をしながら商会へと戻った。商会に戻ると国道作りを任せている加盟店のラザックが居た。


「あれ? どうしたのラザックさん?」


「あ、社長。近くまで来たので報告に寄らせてもらいました。突然訪ねてきてすみません」


「いいよいいよ。折角だから中に入ってよ。アリス、社長室に飲み物を頼むよ」


「畏まりました、旦那様」


「ラザックさん、ごめんね。最近工事の方にはあまり顔を出せてなくて」


「いえ、全く問題ありません。工事の方はレイナさんと進めておりますので」


 ラザック士爵の屋敷は意外と商会から近い。それが理由だかどうだか知らないがラザックさんはよく商会に顔を出してくれる。そこに多少の俺に対するヨイショと言うかゴマすりが入っているのは分かってはいるが、この人はなにせ真面目な人なので好感が持てるのだ。歳が近いというのも理由の一つだが嫌みが無いというのが大きい。


 あくまで俺個人の意見だが仕事と言うのは人だと思う。どんなに仕事ができる奴でも、気の合わない奴とは上手くいかない。やってても楽しくないだろう? どちらが上司であってもだ。そこには多少の気遣いなども必要かも知れないが、自分の感情だけで回りを気にしない奴は遠慮したい。一匹狼を名乗るなら声を掛けるなと言いたいくらいだ。多少仕事が出来なくても、普段から互いを良く知っているなら助けてあげようという気持ちがお互いに出てくるものだと思う。


 話の内容は装飾品店をエステサロンのある通りに出店できたことのお礼だった。エステの好調ぶりも知っているようで、奥さんも既に利用して会員になっているらしい。喜んでくれて何よりだ。最近効果が目に見えて出てきているのでラザックさんとしても嬉しい限りだという。ちょっと料金設定が高くてゴメンね。


 俺は少し申し訳ない気持ちを隠しながら彼にスイートメモリーズを数本プレゼントしたのだった。



お読み頂きありがとうございます。

引き続き応援頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ