閑話 神々たちの憂鬱 1
ヒロシの転生に際して神々達が相談しています。
「集合」
創造神であるアザベルは神々たちを神殿へと集めた。
「ちょっと突然何よ。忙しいんだけど?」
「いきなり集合をかけるなよ」
等々言いながら各地から神々が集まってくる。
当然アザベルの前では言えないが。
アザベルの前に跪く神々。アザベルは偉いのだ。
「諸君、忙しいところよく集まってくれた。転生部門の天使たちからの報告で一部処理に困っておる事案があるようなのだ。そこで君たちの叡智をもって問題の解決にあたって欲しい」
アザベルは天使からの報告を受け掻いつまんで状況を説明した。
要するに能力の与え方についてだ。通常の能力とスキルを選んだ後に転生者の想いを聞く。大抵は魔法や顔の造形や背の高さ。下種な所ではモテるためのスキルなどを欲する奴らがいる。
どうせその類か。下っ端(天使たち)で処理しとけよと思いながら聞いていた神々。その思いを見透かしたようにアザゼルが言う。
「彼が回答してきたのはこのような内容です」
天使がいそいそとプリントを神々に配る。
どのような能力なのか?
1.家内安全 家の中が安全であること。
2.一騎当千 一人で千人相手にできるくらい強いこと。
3.不老長寿 死んでもいいから長生きができますようにとの願い。
4.商売繁盛 商売がうまくいきますようにという願い。
5.無病息災 病気や災難に会いませんようにと言う願い。
上記内容を見て考え得る適切なスキルを述べよ。
神々は配られたプリント用紙に目をやり首をひねった。なんだこれ? 皆初めて見るその文字にざわついている。その時に戦の神であるアーレスが言った。
「アザベル様、これの能力って例えば自分なら『一騎当千』ってやつになるかと思うんですけど、身体強化くらいやっとけばいいんじゃないですかね?」
アザベルはニッコリと微笑み、アーレスに答えた。
「あ?」
その瞬間アレースだけでなく神々が一斉に沈黙する。あれはアザベルの地雷を踏み抜いた時にでる癖だ。
他の神々は思う。アーレスやっちゃったな......と。
「一人で千人相手するのに身体強化だけで対応できるってバカなの? 敵はどんなだよ? 敵は何も武装してないって言うの? 魔法も魔道具も無しで? 何言ってんの? 考えてんの? ねぇ?」
「いや、いえ......その」
「じゃぁ、なに?」
ジッとアーレスの目を見て視線を外さないアザベル。
アーレスは目を逸らしたいが逸らしたらどんな目にあわされるか恐ろしくて逸らせない。
「地獄行く?」
「それだけは勘弁して下さい」
アザベルはアーレスから視線を外し皆に言う。
「この相原比呂士ってのは、地球と言う惑星の日本と言う場所からの転生となります。日本は神々に対しての信仰が特に高いわけでもありません。この世界のように創造神アザベルを絶対神として崇める。そういう意識のない民族です」
「そんな国は早々に滅ばないのでしょうか?」
一人の神が質問する。
「それが日本の面白い所で、特定の神を崇拝していないようでしているんだよ。この民族はこの国に八百万の神々がいると信じている。その全てを信じているんだ」
「どういう状況なのでしょうか? 八百万などと......」
「全てのモノや現象には神がいるって信じているのさ。トイレにはトイレの、台所には台所の神様がいるって信じているんだ。そしてそれは実際に居るんだよ」
「すごい星もあったもんですね」
「その国で育った相原比呂士は無神論者でありながら八百万の神は信じてきた。そこでもう一度問おう、アーレスよ。一騎当千とは身体強化だけで対応できるのか?」
アーレスはじっと考えて答える。
「アザベル様、これは非常に難しい問題ではないでしょうか? 他の連中のように世界最強という方がよっぽど楽です。1対1での限定版にできますから。しかしこの一騎当千という言葉と八百万の神々との話を聞くと、途端に難しくなる。もしかしてこれは多様性を持たせているのではないでしょうか?」
「うんうん、続けて」
「そもそも一騎で千もの軍勢を相手にするのが正気の沙汰ではありません。また、千もの人間が1人に向かっていく事も考えられません。言葉の響きを考えて千といっておりますが、意味を紐解くと何人来ても負けないという、そういう比喩表現ではないでしょうか?」
「素晴らしい! やはりそう思うかい?」
「はい。そうだとすると八百万の神々と言う内容からこれは失礼ながら私だけの加護でどうにかなるモノではありません。基本的な加護は私としても他の神々からもスキルを集める必要があると考えます」
「よろしい。よくできました」
「はっ」
「そう言う訳で皆さん協力して解決に向けて対応して下さい。主なリーダーは、不老長寿は自然の神。一騎当千は戦の神。商売繁盛は商いの神。家内安全は慈愛の神。無病息災は治癒の神。で対応して下さい。それ以外の神々の協力体制も期待します。では解散」
選ばれたリーダーは言った。
「えらいことになっちまった(わ)」
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