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よろしくお願いします。
外出自粛の中、これが気分転換になれば嬉しいです。
それではやるか。『ヒロ、鑑定!』
研究室と言う名の工房の机の上に桶に入れられた大量の脂肪がある。しかし透明度が高く見た感じはゼラチンのようだ。今回の目的はコラーゲンの抽出及びコラーゲンペプチドの製造だ。この二つでドリンクと美容液を作りたいと考えている。本当はヒアルロン酸とかがあれば良いのだろうが、そんなものは俺には出来ぬ。悲しいがそれが現実だ。だが、この二つが出来れば十分に世の女性たちは喜んでくれるだろうとは思う。
≪鑑定≫
ソフシェールの脂肪 高コラーゲン物質配合 粉末化にはフラワーリザードの尾の干物と煮る事で分離可能
なんだ、出来たじゃないか。フハハハハ、過去最速だ。こんなもんスライムで煮込んだら一発完了ではないか。フラワーリザードは名前からするとトカゲのしっぽだな。これもギルドで手に入るだろう。意外と早く済んでよかった。アンジェも運動を頑張るだろうからこれでやる気も倍増するだろう。サティとソニアも満足。俺も皆がキレイになって満足。商会も儲かるしおまけに新事業も立ち上げることが出来る。
「クロ、済まないがサティに言ってギルドからフラワーリザードのしっぽをもらって来てくれるよう頼んでくれないか。俺は社長室に戻ってるよ」
「分かりました、後で社長室まで参ります」
と言うとクロは出て行った。俺も部屋に戻るとしよう。
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「ないわよ」
「へ?」
「フラワーリザードって別に害獣ではないのよ。だから討伐依頼も駆除依頼も無いわね。冒険者が非常食として取って食べる時はあるけど、それ以外での用途はないのよ」
「そうなの?」
「ええ。大きさもそうね、大きくてこれ位だし、特別美味しいわけでもないから」
サティは手を拡げて見せてくれる。1メートルくらいか。しかしギルドに依頼が出てないのか。となると依頼をするか自分で狩りに行くかだな。
「ギルドに依頼する事は出来るのかい?」
「出来るけど時間が掛かるわよ?」
「時間が掛かるのはやだなぁ。じゃあ自分たちで狩りに行く方が良いか」
「それもどうかしら? フラワーリザードはアルガスには居ないのよ。自分で狩るにしてもちょっと大変ね」
「そうなの? 確かに原産については全ての生き物に当てはまるからな。で、どこならいるの?」
「ドルスカーナよ」
そう来たか。行く事に関しては元々行くつもりだったから問題ないが、安定供給となると若干心配だな。さてどうしたものか。でもこの眼で見ない事には考えようもないだろう。
「うーん。元々予定にもあったし、一度ドルスカーナに行こうか。神殿にも行かないとね」
「そうね、と言いたい所だけどちょっと今はタイミングが悪いみたいね。」
「え? そうなの?」
「今、ギルドにアッガスが来ているみたいなのよ。話の内容によっては直ぐには無理ね。何かの依頼なら私や天空の剣も出て行くことになるわ」
ドルスカーナとリンクルアデルは友好関係にある事からギルド同士でも依頼のやり取りをしている。ギルドの特性上、各国はギルドと政治は切り離して考える姿勢で基本的にはギルド間のやり方には口を出したりしないが、やはり国家間の状況次第では双方の在り方は変わってくるものだ。
その点、アッガス所属の『灼熱の太陽』と『アルガスの盾』は仲良くしているらしく、たまにアッガスが来て依頼を受けたり、手伝いに来たりしている。ジャングルポッケが大陸でも有名なパーティーと言うこともあるので、天空の剣、サティ、そしてジャングルポッケと懇意にしているアルガスの盾はリンクルアデルのギルド内での発言力も高い。
「ふーん。いずれにせよ、サティは一度ギルドへ行くのだろう?」
「ええそうね。ついでに一緒にドルスカーナまで行けるか聞いておいてあげるわ」
「そうしてくれると助かるよ。じゃあその間に俺は美容オイルの研究を進めておくよ。スライムと煮るだけで済みそうだから、マッサージオイルは作れそうなんだ」
「分かったわ。それじゃ行ってくるわね」
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コラーゲンの分離は簡単なものだった。ポーションを作る工程と同じだからな。あとは残ったゼラチン質のモノとオイル、香料、塩、そして発汗作用のある薬草などを入れて調合する。
その植物を取りに行かねばなるまいて。
「ここに来るのは久しぶりだな」
「そうですね。正直懐かしくて涙が出そうです」
「俺もだ。俺の場合既に泣いているぞ。シンディも今日は頑張ってくれ」
「森へ行くというので討伐依頼かとばかり思っていたのですが......状況がよく分かっていません」
シンディはカゴを背負って呆然としている。
「うむ、今回の採取は魔物や魔獣ではないのだ」
俺たち三人は後ろにカゴを背負い、山肌の斜面に立っている。クロと俺は作業着で首にタオルを巻いている。シンディは戦闘服にカゴを背負っているので場違い感がすごい。
思えば薬草を取りに来ていた時以来だな。あの頃は会社が出来たばかりの頃で金もなく、毎日クロと二人でここに来て薬草の採取をしていた。こちらの世界に来て右も左もわからず、ポーションを作る事だけを考えていた。今、会社はビックリするほど大きくなって国王からメダルを与えられる程になったが、当時からすれば夢にも思っていなかった。
「そのような事が。変な話ですが、ヒロシ様の会社は出来た時から大きなものだったとばかり思ってました。ヒロシ様も最初は苦労されていたのですね」
「苦労はしたが辛いと思ってた訳じゃない。何とか金を稼ごうとしてやれることをやった。ここには毎日来ていたよ。俺がじいさんの好意で今のNamelwssの本店に移る際、俺は服と薬草しかもっていなかったんだ。信じられないだろう? 本当にじいさんには世話になりっぱなしだ」
「私も男爵家にはお世話になっておりますね。もちろんヒロシ様は命の恩人ですが。それでどのような植物を採取すれば良いのでしょうか?」
俺はショウガやトウガラシ、その他発汗作用に該当する植物を伝えた。これもアンジェから聞いたことだ。つらつらと出てくる様は見ていて驚いた。百科事典かよ。引き籠らなくてもその知識量は王国にとって財産になると思うが、引き籠らなければその知識は得て無いわけで。難しいものだ。
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