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お待たせしました。
翌日の朝、まずじいさんの所に行った。
「と言うわけでリンクルアデルの第一王女のアンジェリーナ様が一緒にやって来た訳です」
「お前、簡単に言うがな。エライ事なんじゃぞ」
「ゾイド男爵、私の事はアンジェとお呼び下さい」
「流石にそれは恐れ多くてのう......いや、わかった。そう言うのならそう呼ばして頂こうか。お忍びと言う事だから、素性は公には出来まい。セバスよ、彼女に男爵家のメダルを渡しておいてくれ。あと護衛については、基本はヒロシが何とかすると言っておるが男爵家からも何人か目立たぬように護衛はつけよう。ヒロシよ、もし足りぬならいつでも言うてくるんじゃぞ」
「まあ、基本俺とクロが一緒に居るし、あとはサティ、シンディ辺りで対応できると思うよ」
「そうか、わかった。アンジェよ、男爵家にも気軽に来てもらって構わんからの」
「ご厚意に感謝致します。よろしくお願いします」
その後、俺は部屋に残ってサティとクロと一緒にアデレーゼデの話をした。じいさんも首輪の件では驚いていたがやはり思う所はないらしい。じいさんへの商会と事情説明も終わった所で一旦商会に戻ることにした。昼食はご馳走になったけどな。
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商会の社長室。俺は皆とエステについて自分の構想を話している。問題はアンジェの体にどうやって触れるかだ。基本的に女性の体に簡単に触れて良いわけもなく、それが王族なら尚更だ。俺がやれば良いじゃないかと言う話も聞こえてきそうだが、そんなぶっ飛んだ話ではないのだ。ここは何でもありの世界ではない。王族は確かに特別だが、他の女性なら良いのかと言えばそうではない。当然ソニアやサティもそうだぞ。前世のように男性トレーナーが手取り足取りなんて出来ない。
ミランダさんとアリスがお茶の世話をしてくれている。よく見れば中々錚々たるメンバーが集まっているぞ。大陸有数の冒険者、男爵家令嬢、極めつきに第一王女。俺も確かに成り上がっているのだろうが、本来なら生涯会うことの無い人達ばかりだ。毎回思うが自重しなくてはなるまい。調子にのってはいけない、決して。
「マッサージねえ」
「うん、アンジェは王族だから当然だが、どこの誰かも分からない奴にサティやソニアの体を触られるのは嫌だ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」
「まあヒロシさんたら」
「えへへ」
「ちょっとヒロシさん、なに照れてるんですか。真面目にやって下さいよ。アンジェさんが固まってます」
「いや、クロちゃんよ。大真面目な話なんだぞ。基本は個室で施術する訳だがエステティシャンが暗殺者なら大変な事になる。かと言って全裸に近い状況を皆の前で晒す訳にもイカン。どうしたもんか」
「いや、まあそうですねぇ」
「あの、ミランダはどうでしょうか?」
「ミランダさんか」
この場には当然アデリーゼからやって来たミランダも居る。彼女も商会でアンジェと一緒に過ごす事になるのだ。ミランダさんは妙齢の女性でリンクルアデル城での勤務歴も長い。確かに信用度としては高いな。
「彼女は私を支えてきてくれた優秀なメイドです。レディースメイドに該当します」
レディースメイドとは主人にとって専属のメイドさんの事だ。恐らく彼女はマリーさんのレディースメイドであったが、同時にアンジェの世話もしていたのだろう。言うなれば王族専属メイドだな。ウチのメイド衆が羨望の眼差しで見ていた事が初めて理解できた。彼女はメイドの頂点に位置する人だったのか。いいのか、この家に来て。
「そんなに凄い人だったとは......ミランダさん良かったのですか? ロングフォードまでついてきて」
「もちろんです。アンジェリーナ様のお世話ができるのならたとえ火の中水の中。それにレディースメイドは私だけではありません。奥様には複数のメイドが居りますので心配ありません」
「そうか、それならいいんだけど。手の空いている時にウチのメイドにも色々教えてやってよ」
「もちろんでございます。しかし何分私はまだ来たばかりですので、クロードさんやアリスさんに教えてもらっている所でございます」
「アリスは若いですが、毎日頑張ってくれてます。是非よろしくお願いします。しかしミランダさんはマッサージなどの経験はおありなのですか?」
「アンジェリーナ様はお部屋から出る事があまりありませんでしたが、本をお読みになると肩が凝るという事でたまに肩や首をマッサージしておりました」
「そうですか、エステティシャンになる事については如何ですか?」
「そちらも当然問題ありません。アンジェリーナ様のレディースメイドとして主人に尽くす事は至極当たり前の事でございます」
「なら、良かった。じゃあお願いしようかな。マッサージのコツは、僕がクロードに行いますので、それをまねて覚えてもらいましょう。ただ結構体力が要りますよ?」
「望む所です。アンジェリーナ様の為になるのなら惜しむ努力などございません」
「そ、そうですか。それではよろしくお願いします」
「僕はヒロシ様にマッサージしてもらえるのですか?」
「まあ最初だけな。でもマッサージって慣れてないと痛いからな。それなりに覚悟しておいてくれ」
「これもアンジェさんの為です。任せて下さい」
手順としては俺がクロにマッサージを行う。ミランダさんはそれも見て覚えクロにマッサージを施す。これを何日か行う。大体流れを覚えてきたら今度はミランダさんにウチのメイドの誰かに施術を行ってもらう。そのメイドは違う女性に施術を行ってもらう。この繰り返しでエステティシャンを増やすわけだ。
ミランダさんはアンジェ専属に。メイドはサティとソニア、そして後のエステサロンオープンの為にエステティシャンの育成だ。エステティシャンについてはバーバラさんと話をするか、レイナに言って信頼できる従業員を回してもらうかだな。うん、この線で良いだろう。
当面の間はココナッツオイルなど各種オイルに塩を混ぜて香り付けしたもので対応する。これは練習用だからな。あくまで人員教育用としてだ。効果がないわけではないのでアンジェがしたいならもちろんしたらいいと思う。
施術が終わった後は体を良く拭いた後でサウナに入ってもらい汗を流してもらう。そして入浴だ。石鹸を使用して体を奇麗にしてもらう。それに思いつくサービスを入れながらエステの事業プランを構築するぞ。ターゲットは富裕層だからゴージャスで極上のサービス、そして確かな効果。これが出来るようにする。飲み物一つにとってもこだわりが必要だな。
「よし、次はアンジェの肉体改造計画について説明するぞ」
お読み頂きありがとうございます。