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よろしくお願いします。
「作戦は終了致しました」
「そうか、ヒロシと言う男は噂通りであったのか?」
「戦闘自体は天空の剣が中心となっておりましたが、ヒロシと思われる男はマッドボアクラスは問題なく討伐できていたとの事。ただ仮面をつけていた為、その男がヒロシであったのかは分からなかったとの事です」
「私も模擬戦の時は見ていないが仮面は付けていたようだな。商人のヒロシと言う男とは晩餐会の時に一度見たが、飄々として戦闘なぞ出来るようには見えなかったが......」
「天空の剣はもちろん、狐炎のサティと狼獣人の強さが際立っていたとの事を聞いております。狼獣人もフードを被っていたのではっきりと顔を認識できたわけではありませんが。まず黒いコートを着た男がヒロシと言う男で間違いないでしょう」
「他には?」
「その男の事を周りの冒険者は仮面の男と呼んでいたようですな」
「そうか。そいつがまずヒロシと言う男なのだろうな。二つ名がついているのであれば、そこそこ実力はあるとみておいて良いだろう。ただ狼獣人の方が際立っておったのなら、注意するべきはそっちの獣人かも知れん」
「そうですな。ただ天空の剣をはじめ全員数日後にはロングフォードへ戻るみたいですぞ」
「ありがたい話よな。狐炎は元より天空の剣までいなくなるのだからな」
「例のモノはあと数ヶ月で完成致します」
「それが完成したらいよいよだ、抜かりなく計画を進めよ」
「はっ」
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馬車に揺られ数日、もうロングフォードは目の前だ。子供もいるし焦る理由もないのでゆっくり馬車は進んでいる。護衛の者たちが用意してはくれるが、キャンプも慣れてくれば楽しい。シンディは子供の護衛だが、暇を見つけてクロと組み手をしたりリーシアと話をしている。
シンディが少し拗ねているとクロから聞いたのは出発前の事だった。トレインもどきの騒ぎの際に一緒についていけなかった事が気になっているらしいとか。シンディは子供たちの護衛がメインなので当たり前だろう、と言ったら思いのほか自身も納得できたようで思慮が足らず申し訳ないと逆に謝られてしまった。でも、声に出して伝えるというのは本当に重要だとこういう事で気付かされるな。俺も反省しないと。
そして何より気になっているのがこれだ。今俺の隣にいる彼女たちだ。伯爵との話が終わり部屋に戻るとアンジェがソニアから離れなくなっていた。ソニアお姉さまと呼んでいるように聞こえたが、あれは気のせいだろうか? たしかアンジェは第一王女だ。しかしどう見ても立場が逆に見えて仕方がない。馬車の中でもその雰囲気は変わらず、我慢できなくなった俺は事情を聴くことにした訳だ。
「で、どういう事なんだ?」
「自分で聞いてみれば良いじゃない」
「確かにそうだ。なぁソニア、なんと言うかアンジェの雰囲気が少し変わったよな。変わったよね?」
「ふふ、私アンジェのお姉さんになったのよ?」
「そうか。なるほどな。で、どういう事なんだ?」
「なんでこっちを見るのよ。自分で聞きなさいよ」
「確かにそうだ。もうちょっとその辺詳しく」
「アンジェは部屋から出たばかりで不安なのよ。だから私がお姉さんになってあげたの」
「お姉さんになってあげたのか。アンジェは妹なんだな」
「はい、ヒロシ様。私、ソニアお姉さまの妹になったんです」
「そうか、しっかりな」
俺は何を言ってるのだろうか。何がしっかりだ。自分で言っておいて意味が分からんぞ。まあ良い。俺も知らない間にセイラムと言う妹が出来たんだった。いや、危ないアイツは弟だ。よく考えたらサティもウサ耳の妹がいたんだっけか。
うむ。何てことない。これは普通の事だ。身内が増える事など大したことじゃない。恐らく内容的には『ずっ友』位のレベルだろう。少々例えが古くて申し訳ないが。
「とりあえず、アンジェには店の手伝いでもしてもらいながら、運動と食事療法だ。これで問題はほとんど解決するとみてる。食事に関してはアリスに頼めば良いだろう。問題は美容液だ。これの研究を帰ったらしないといけないのだが、ドルスカーナへも行きたいと思っているんだよね。さてどうしたものかと思ってな」
「そんなの美容液が先に決まってるじゃない。ねえソニア」
「当たり前ですよね」
「お姉さまがそう言うなら当たり前だと思います」
アンジェ、お前乗り換えが早すぎやしないかい?
「それなら美容液が先だな。問題は材料なんだよなぁ」
必要な材料自体は考えてある。問題はどこで手に入るかなのだ。頭に浮かぶのは基本と言えるべきものばかりだ。岩塩、オイル、コラーゲン、ヒアルロン酸、その他ビタミン類だ。この中でアテがないのがコラーゲンだ。早い話動物の油か魚系の油なのだと思うのだが。テレビの何とかガッテンでも言っていたが油からゼラチンを抽出、細かく砕けばいいらしい。簡単に言っているが鑑定を使いながらやればできる気がする。基本的には抽出して乾燥させればいいはずだ。ちなみにヒアルロン酸については最初から諦めている。
後は、マッサージをどうするかなんだよなぁ。アンジェを素っ裸にしてマッサージを俺がするとなると、恐らく俺は死ぬ。かと言って知らない人にも試せない。俺がサティにするってのも手だが、元々スタイルが良い人間に効果の確認を求める事は難しい。
帰ったらゆっくり考えるとするか。
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