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30万PV/2万ユニークを突破しました。
皆さんの応援のおかげです。
本当にありがとうございます!
あと、活動報告に編集作業の連絡があります。
このまま読み進めても問題はありませんが、気になる方は一度ご覧下さい。
「これは...前に見た隷属、いや従属の首輪か?」
マッドボアは5体いたが、俺が倒したあとサティがもう一体仕留めた時に、他の個体は突然踵を返して森へと帰っていった。ゴブリンやコボルトもマッドボアが去ったことで森へと逃げ始めた。他の魔獣や魔物も後に続いていく。サティにも声を掛けて首に首輪が付いていないか確認してもらった。ガイアスたちも終わったのかこっちに来ている。
「こっちにもついてたわよ」
「うーん、この騒ぎは人為的なものだと思わないといけないんだろうな。ちょっと事情が事情なんでまずは伯爵の判断を仰ごうか。この時点では他の冒険者へは言わないでおこう」
「わかったわ」
「それが良いだろうな」
それじゃあいったん戻ろうかと思ったが、周りには他の冒険者が集まってきていた。
「ガイアスさん! やったぜ! 魔物を森へ追い返すことが出来た。ありがとう!」
「助かったよ。この街にはあまり高ランク冒険者が居ないからな。大事になるところだった」
「ガイアスさん! 早く二人を紹介してくれよ!」
ガイアスは俺とサティの方を見て少し考える素振りを見せる。
「良いだろう。彼女は知ってるな、狐炎のサティだ。こっちはクロード。たまにサティとチームを組む時もある冒険者だが正式なチームではない。普段は他の狼獣人と組んだり、護衛の依頼をすることが多いようだな」
「おお、クロードさんって言うのかい? 見てたぜ! めちゃくちゃ強いんだな! サティさんとは正式なパートナーではないのか。また組んでる狼獣人も紹介してくれよ!」
「そうですね、サティさんとはたまにですね。パートナーについては機会があればいつか会う事もあるでしょう」
「へぇ。それで黒い人も教えてくれよ、ガイアスさん!」
「さっきも言ったがそれは駄目だ」
何人かの冒険者は食い下がるが、俺は立っているだけだ。騒ぎが大きくなる前に逃げようかと思った時にガイアスが腰の剣を抜きながら静かに言った。ガイアスが剣を抜いたことで冒険者たちは一斉に沈黙する。
「うるせえな。仮面の男についての情報は無しだ。陛下の御達しを聞けないというのなら、それは不敬となる。それでも聞きたいという奴は前に出ろ」
ガイアスはこの数ヶ月の間にAクラスパーティーへと正式にクラスアップしている。元々Aランククラスの力はありAクラスとも名乗ってはいるが、仮免的なものだったようだ。
前にも言ったがクラス分けに関する線引きは曖昧なものが多い。とにかく彼らについては多少気性にムラがあることが懸念されていたようだ。例を挙げれば俺との模擬戦の時の態度のようなものだ。
それから色々な依頼をこなしたり、ロングフォードでのレイラ王女の護衛、オークリーダーの討伐などが評価され正式なAクラスパーティーとしてギルドも認知したわけだ。それが理由で今回の男爵ご令嬢、また国家御用達商店の社長夫妻の護衛にも選ばれた。以上の事から当然ここで暁の砂嵐が選ばれるような事はない。彼らには悪いがそこにはクラスと言う絶対的な序列があるのだ。
元々アルガスにおいては誰でも知っているパーティーだ。Aクラスと言うのは当然その地位はもちろん、各方面への特別待遇や高ランクへの指名依頼もある。サティがいるから目立ってないのかも知れないが天空の剣は十分実力を持った強力なパーティーなのだ。
「ガイアスさん、すまねぇ。本気じゃねえんだ。ちょっと舞い上がっちまったんだけさ。でも、名前がダメならせめて二つ名くらいは教えてくれても良いだろう? 黒い人とは流石に失礼だぜ」
「まぁ、確かにな」
そこでガイアスは俺の方を見た。ちょっと待て。その二つ名は自分で決めるのか? お前それがどれほど恥ずかしい事か分かって言ってるのか? 黒歴史として永遠に語り継がれる事になる。クロを見ると腕を組んでウンウン唸っている。やめろ。ありがたいがお前は何も考えなくていい。嫌な予感しかしない。絶対に何も話すんじゃないぞ! 俺の焦りを感じてくれたのか、サティが先に口を開いた。
「仮面の男よ」
「マスカレード?」
「本来は仮面舞踏会と言う意味合いだけど、見せかけとか虚構と言う意味もあるわ。ぴったりじゃない? 正体不明の仮面の男よ。あまり言いふらすんじゃないわよ?」
こっちにも仮面舞踏会があるのか。いや、それは今はいい。仮面の男か。サティがつけてくれた二つ名だ。悪くない。大事にしよう。でも、最後のは確信犯だろ。
「マスカレードか。ああ、分かった。言いふらさねぇよ。マスカレードさん、今日はありがとうございました!」
「まあ気にする程の事じゃないさ。なに? 強さの秘密? そんなものはないさ。訓練の賜物だ」
あれ? なんだその眼は。まだ何か言って欲しいのか? 無いと言っているだろう。
「......仕事の前にはブルワーク24を飲んだら効果的だ」
「ブルワーク24ですか」
「......買う時は6本セットが少しお得だ」
「わ、わかりました。ありがとうございます! じゃあ、俺たちは討伐の後始末に移るぜ。ガイアス、助けてくれてありがとうよ!」
俺もつられて軽く右手を挙げて答えておいた。
「あなた、何言ってるのよ。もうちょっとマシな事言いなさいよ!」
「いやスマン。咄嗟に思いつかなかったんだよ。でも、売上には貢献出来たはずだぞ。あ、あとサティ、さっきの最後の言葉は言いふらせって聞こえたけどな?」
「ふふ、そうよ。私の旦那様には有名になってもらわないと。正体不明なのが残念だけど」
「えへへ、頑張るよ」
「なに照れてんだよ。そう言うのは後でやってくれ、全く」
「はは、悪い。でもあれだ、仮面の男って言っても、俺は黒髪だろすぐにバレるんじゃないのかな?」
「基本ヒロシさんは真っ黒だからな。髪は染めてると思うかもしれない。それに有名な商会の会長だからな。知らない奴からしたら仮面の男とは簡単に結びつかねぇだろう」
「まぁ、知ってるやつは知ってるしな。今更か。あまり戦う機会も無いから良いだろう」
「それで良いと思うぜ。じゃ、後始末はローランドの連中に任せて帰ろうぜ。首輪の件もあるしな」
「ああ、そうしよう」
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「これがマッドボアの首についていたと言うのか?」
今、俺たちはローランドさんに報告をしている。首輪はやはり前と同じもので従属の首輪であった。首輪の発見は二度目と言う事で流石に伯爵の顔色は優れない。前回の首輪の件も調査はあまり進んでいないようだった。分からないのは目的だ。これを付けた奴は何を狙っているのか。一度目のローラ嬢殺害未遂、そして今回のトレインもどき。首輪をつけるという手口から見て同一犯なのは間違いないとは思うのだが。
「前回の襲撃事件の時の話もアデリーゼまで話は上がっているのですか?」
「ああもちろんだ。伯爵家襲撃だからな。だが何も出てこないのだ。もちろん今回の事も報告はすることになる。アルガスは王都から南側でどの国とも隣接していない。わざわざ他の領を跨いでまでローランドに手を出してくるメリットはないはずなんだが」
ローランドに高ランク冒険者が居ない理由もここにある。アルガスにおけるローランドの位置だが南は海、北はアデリーゼ、アデリーゼの東側から南に延びてアルガスに隣接しているのがバルボア、西側はドルスカーナではあるが友好国であり、国境にはウエストアデルがある。アルガスへ来るにはウエストアデルから山を越えてくる必要があり、超えた先のロングフォードは天空の剣の拠点でもある。つまりローランドの周りには脅威がなく騎士団を置くアデリーゼからの距離も比較的近いという事で警備を必要以上に固める必要がないのだ。
「この従属の首輪って簡単に手に入るんですかね?」
「禁止アイテムなので入手する事は難しいが、基本隷属の首輪の改良版ではあるので製作は出来るだろう。しかしこれは魔物も操れる事からさらに改良が加えられたアイテムみたいだな。ん? 何故かって? それはだな、魔物は意思疎通ができないから従属させれないのだよ。これは出来るようになっていると考えて良いだろう。まぁ簡単な事しか命令できないようだがな。テイマーと言うスキルを持つ者は魔獣や魔物も使役できるから、それと似たような効力があるかも知れない。この首輪の場合はテイマーのように相互信頼なんかは関係なさそうだがな」
「隣のバルボアでも同様の被害は起きているのだろうか?」
「それは分からないな。バルボアへ行くには深淵の森を抜ける必要があり最短でも一ヶ月程かかるんだよ。だからバルボアとの直接関係はほとんど無いんだよね。アデリーゼからは更に日数が掛かるはずだ。だからバルボアからアデリーゼに行くには一度アルガスのローランドまで出てきて北上した方が早いのさ」
「バルボアは陸の孤島みたいなんですね。あ、でも飛行船があるか」
「飛行船は王城にあるだけだ。製作には莫大な金がかかるが金を掛けるだけのメリットが無いのさ。要人を運ぶこと位しか用途が無いからね。周りを見ればバルボアの北東にアネスガルドという軍事国家があるんだけど、そっちの方が距離的には近いくらいだ。リンクルアデルのそれぞれの領主が一同に顔を合わせるのは数年に一度だけだね。往復で最低二カ月で毎年と言うのは流石に無理だから。それ以外ではほとんど会う機会はない」
「へー。なぜバルボアがリンクルアデルなのか不思議ですね」
「バルボアはどちらかと言うと辺境で特産物もないからね。アネスガルドからしても旨味がないのかも知れない。昔神々がいたと言われる神殿が広範囲にあったりしてね。壊すに壊せないから手つかずの状態のはずだ。言っちゃ悪いが財政も苦しいはずだ。リンクルアデルの保護が無ければ脅威にさらされても対処ができない。かと言って頻繁に往来もできない。保護が無いと苦しいが、半分自治領みたいになっているね。」
「そうなんですか。確かに不便そうな地域ではありますね」
「そうなんだよ」
今の段階では答えなどでようはずもない。ローランドは森の近辺に対して警備の強化を進めるほか何もできなかった。ちなみに領地境から一歩森に入ると深淵の森と言う訳ではなく、森に入って数日間はただの森だ。その辺りの明確なラインはないらしいが。
念のためロングフォードへ帰る予定を少し遅らせたが、特になにも起こることなく出発の日を迎えたのだった。
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