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よろしくお願いします。
「食い止めろ! 街には入れるな!」
「ダメだ! 数が多い! 一旦引いて体制を立て直せ!」
「バカヤロウ! 引いてる暇はねぇ! ここで食い止めるんだ!」
ホスドラゴンを走らせ俺たちは森の近くへと到着した。かなりの魔獣や魔物が森から出てきている。確かにここで引いたら一気に街まで来るのではないか?
「まだ間に合う。冒険者たちはよく耐えているようだな」
「ええ、そうね。ガイアス! 突っ込むわよ!」
「ああ! 行くぞ!」
俺たちは魔物の群れめがけて突っ込んでいく。
「俺たちはロングフォードの天空の剣だ!道を開けろ!」
「天空の剣だと?! おい! 道を開けろ! Aランクパーティーが来たぞ!」
「なんだと! おいおい! しかもあれは狐炎じゃないのか!? 道を開けろ!」
「すげえ! 狐炎のサティだ! 勝てるぞ! おい待て! あの青い狼獣人って、あれか? サティさんとチーム組んでるやつだろ! フィルさんと互角だって言う冒険者じゃないのか!? 名前はなんていうんだ?」
「知らねえ! どっちにしろチャンスだ! 俺たちは邪魔しないように周りから援護をするんだ! 天空のガイアスさん! それで良いですか!」
「ああ、そうしてくれ! 俺たちが突っ込むから討ち漏らしを頼むぞ!」
「分かりました! おい、俺たちは後方支援だ! 邪魔するなよ! 広がって確実に抜けてきた奴を仕留めるんだ!」
「おお!」
「俺たちは下がります! あれ? ガイアスさん、そちらの黒い方ってもしかして噂の人ですか?」
「ああ、そうだ。邪魔するんじゃねぇぞ?」
「あの! お名前を教えてもらっても良いですか!」
ガイアスはチラッと俺を見る。俺は何も言わず仮面を指でコツコツと叩いた。
「ダメだ! 仮面の男の正体を探るのはご公儀の秘密に触れる事と同義と思え! 皆にも伝えろ! ここは俺たちで処理する。後ろを頼んだぞ!」
「分かりました!」
「助かったよガイアス。正体があまり広がると商売に差し支える気がするんだよ」
「そんなこったろうと思ったぜ。まぁ謎の男ってのも悪くないな。実はギルドも動いているようでな。アッガスとの一戦はヒロシさんが倒したのではなく仮面の男が倒したのではないか? というふうに情報を書き換えているはずだ。ウインダムとの模擬戦以降、リンクルアデル城の上層部が色々と動いているらしいぞ」
確かに陛下も俺の情報は秘匿するって言ってたよな。そうしてくれた方が助かる。とりあえず目の前の魔獣を一層することに専念するとしよう。
「ガイアス、昆虫系の魔物は全部任せるからな?」
「虫、ホント駄目なのな」
「愚問だな。そうしてくれるなら後は全部引き受けても良いくらいだ」
「自信満々で言うなっての。ヒロシさんが強いのか弱いのか俺には分かんなくなってきたよ」
「おおい! 仮面の男もいるぞ! そうだ! あの噂の男だ! 邪魔をするなよ!」
「ええ! おい! 俺も見たい! あれか!? 本物か!?」
「バカヤロウ! 防衛線を守ることが先だ! 後でガイアスさんに紹介してもらおうぜ!」
「おお!」
何やら周りが騒がしい。俺は事が済んだらすぐ帰るからな。期待しないように。
「ヒロシさん、外野がうるさいから先に進むぜ?」
「同感だ。さっさと片付けるとしよう」
俺たちは魔物の群れに突っ込んでいき倒していく。出てくる魔物と言えばコボルトやゴブリン、フォレストウルフといった小物ばかりだ。たまにオークが混じってはいるが、大きな脅威には感じない。一般冒険者からしたらこれだけ数がいれば確かに脅威と言えるだろうが、何かおかしい。
「森から魔物が溢れる事はよくある事なのか?」
「頻繁には起こらないな。冒険者が討伐に失敗してそこら中の魔物を引き連れてくる、いわゆるトレインっていう現象が起こる時がある。でも今回はトレインではなさそうだぜ」
それならやはり妙だな。何処が妙に感じるかと言えば、襲ってくるというより何かから逃げているという気がするのだ。
「ガイアス、ちょっと気になる事がある。ラースを呼んでくれないか?」
「ああ、いいぜ。ラース! おおい! ラース! こっちだ! ちょっと来てくれ!」
「どうしました?」
「ああスマン、俺が呼んだんだよ。ちょっと魔物の様子についてな。最初のイメージとちょっと違うんだ。こいつら街を襲いに来ているというより、森の奥から逃げてきている感じがするんだよな。悪いけどちょっとクロと二人で森の奥の様子を見てきてくれないかな?」
「ああ、いいですよ。すぐに行ってきます」
「確かに、街を目指してるって感じではないよな。あちこちに散らばって逃げているようにも見える」
「だろう? サティ! 奥からでかいのが来る可能性がある!」
「いつでもいいわよ」
魔獣や魔物はやはり逃げているのか、街に向かうというよりは迂回して森へ帰っていくやつもいる。これは間違いないだろうなと思っていた時だった。
「ガイアスさん、奥からでかいの来ます!フォレストセンチピードの群れとマッドボアが数体います!」
「マッドボアがいるのか? それはまずいな。何だってそんな魔物がここまで出てくるんだよ? 森の奥まで行かないと居ないはずだぜ」
「マッドボアって?」
「大きなボアの魔獣よ。強さ的にはオークリーダーと同等よ」
「ボア...イノシシか? それより俺はセンチピードって言う名前に聞き覚えがあるんだがな」
「センチピードデビルとはまた別の魔物よ。マッドボアの方が厄介ね。来たわよ!」
森から出てきたのはでかい猪の魔獣と、ゲジゲジのバケモンだった。確かにムカデとは違うが俺にとっては同じだ。見た目ではムカデより酷い。ゲロくて吐きそうだ。気持ち悪い。見ろ、あの森から出てきてこっちに動いて来る速さ。グングン迫ってくるぞ。体が金縛りにあったかのようだ。きっと呪いだ。一歩も動けん。動きが速い。気持ち悪い。吐きそうだ。グロイ、モウダメ、オレハク。
「サティ、ヒロシさんにフォレストセンチピードは駄目だろう。俺たちがこっちを受け持つからマッドボアを頼めるか?」
「そうね。マッドボアは任せて頂戴。ヒロくん、ちょっと! ヒロくん、行くわよ! 虫さんの方じゃなくていいから!」
「そ、そうか。あっちの何とかボアで良いんだな! ガイアス、絶対こっちに来させるんじゃないぞ?」
「分かったよ。じゃあ後でな」
相手があのイノシシだったら何の問題も無い。俺は一気にマッドボアとの距離を詰める。確かにオークリーダーよりは強い...な。毛皮が邪魔をして刃が通り難い。その上に膂力とスピードもある。魔獣の厄介な所はその身体能力だ。人間のそれとは違い、予期せぬ動きをしてくる。俺は冷静に突進を躱し、ダメージを与えながら隙を見て横から下腹の辺りを切り裂く。脂肪や体毛に覆われていない箇所、多くの生物がそうであるように猪の場合も腹だ。そのまま刃を振りぬいてやると痛みで動きが止まる。そのまま偃月刀で足元を払い、首を刈って終わりだ。俺はそのまま偃月刀を振り下ろそうとした...が。
ん?
首元に覚えのある首輪がまかれている事に気が付いた。
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