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お待たせしました。
編集で疲れて放心状態でした、すみません。
リンクルアデル城が遠ざかってゆく。
「外の世界がこんなにも眩しいなんて、わたくし忘れておりましたわ」
「アンジェリーナ様は外に出るのも久しぶりなんですよね?」
「はい。もう何年になる事か。窓から眺めるのと実際に外に出るのでは全く違いますわ」
「そうでしょうね。如何ですか久しぶりの外の空気は?」
「はい、とても...とても新鮮です。あと、ヒロシ様、皆さま、お父さまも言っていた通りわたくしの事はどうかアンジェとお呼び下さい」
「確かに聞きましたが、そう言う訳にもいかないでしょう」
これにはかなり揉めた。仮にも第一王女を愛称で呼ぶなど出来るわけがない。しかし療養という名目、またお忍びであるという状況から、愛称で呼び、敬語も不要との事であった。サティはそれでいいなら良いわよ。と簡単なものであったがソニアとサラリーマン経験者の俺としては中々はいそうですかと了解できることではなかった。
「うーん。それではアンジェさんでお願いします」
ソニアが妥協点を見つけた。それなら普通だな。サティは私はアンジェでいくわよ、と言っている。俺もさん付けでいこう。
「ヒロシ様は...是非アンジェと呼び捨てでお願いします」
そう言うとアンジェさんは下を向いてしまった。サティとソニアの方から冷気が漂ってくるが俺は悪くないはずだ。やめろ、凍えて死にそうだ。そもそも俺は呼び捨てで、なぜあなたは俺を様付で呼ぶのだ。
「そ、そうですか。じゃぁ、アンジェと呼ばせて頂きます」
そう言うとアンジェは小さくコクコクと頷いた。
「ソニア!」
「分かっているわサティ!」
二人は何やらゴニョニョと話し合っている。馬車の中でそんな事をするのはおやめなさい。
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ローランド伯爵家でも第一王女の来訪は大変な騒ぎとなった。あくまでお忍びであり街中に喧伝する訳ではないが、礼を失する訳にはいかない。ローランドさんとサマンサさんは直ぐに執事、メイドを集め対応をした。
「明日には戻ろうかと思ってるんですよね」
「「「えー」」」
おっと、子供たちからのクレームが入ったぞ。二人はローラちゃんと完全に馴染んでるな。良い事だが。
「あまり長居をするわけにもいかないでしょう。二人も我儘言わないのよ?」
「「えー」」
ソニアさんが説得を試みるも難航している模様。一応の用事も全て済んだからな、早く帰ってゆっくりしたいよ。帰りも長旅ですよ?
その時、扉が勢いよく開かれメイドが入ってきた。
「旦那様! いまギルドより連絡が入りました! 北東の森から魔獣の群れが南下している模様です」
「なんだと? 落ち着いて詳細を言え」
「ゴブリン討伐中の冒険者が森にて魔物の集団に遭遇。早い段階に発見できたようで直ぐにギルドへと戻ってきたそうです。数は不明ですがかなりの数がいたとの事です。このまま進むと一時間後には森から出てくる可能性が高いと。ギルドは緊急警戒態勢をとり冒険者は既に北東の森へ向かうとの事です。」
「そうか。警備隊には森に向かうよう通達を出せ。森の近くに居る一般市民については街まで戻るように指示を出すのだ」
非常事態に無いにせよ、問題発生のようだな。俺はサティの方に目を向けると、彼女は既に決めていたようで直ぐに伯爵に進言した。
「ローランドさん、私も冒険者です。その北東の森への討伐に参加します」
流石サティだ。俺も行くぞ。クロもその気のようだ。
「俺とクロも行く事にしますよ。ソニアとアンジェはここで待機していてくれ。ローランドさん、すみませんがホスドラゴンを三頭お借りしてもよろしいですか?」
「君たちが参加してくれるなら心強い。ホスドラゴンは直ぐに用意しよう」
「クロ、悪いが準備を頼む。すぐに出発しよう。天空の剣にも伝えておいてくれるか?」
「畏まりました」
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ホスドラゴンに乗ってヒロシ様は森へと向かいました。真っ黒な衣装を身に纏って。商人服の印象しかありませんでしたので見た時にはちょっとドキドキしてしまいました。なんでしょうか、このドキドキは。
「ソニアさん、ヒロシ様は本当に戦闘もできるのですね。商人なのに...」
「でも商売の方が好きで冒険者にはあまり興味がないのですよ?」
「なんでもロングフォード、いやアルガスで既に一番の商会になっていると聞きました」
「ふふ、そうですね。今は工場という場所で沢山の製品を作ってますね。あとは、道路を作ったり違う薬品を考えたりしてますよ」
「何でもできる人っているのですね。それに比べて私は...」
「アンジェさん、あなたは何も出来ないのではなくて、何が出来るかを探していないのですよ。それをロングフォードで見つければ良いではないですか」
「ソニアさん...」
「特別な事をやる必要などないのです。あなたがやりたいと思えることが見つかればそれをまずやって見れば良いのです。お花は好きですか?」
「え? はい」
「では、お花の水やりが出来ますね。ケーキはお好きですか?」
「はい、好きです。でも私はこんな体で...」
「では、一緒にケーキを食べれますね? 体型を気にせずケーキを食べるにはどうしましょう?」
「ヒロシ様は、まず運動と食事の管理と言っておられました」
「それをやればケーキが食べれますね? 沢山しなくてはいけないことが出てきましたよ?」
「私はこれから沢山の事をするのですね...しかし私に本当にできるのでしょうか?」
「私も大したことが出来るわけではありません。でもヒロシさんと出会ってから毎日が楽しくて仕方がありません。何かをする事で誰かを支えていけるというのは素晴らしい事です。アンジェさんにもきっと見つかります」
「ソニアさん...でも私には自信がないのです。私がこの数年間してきた事と言えば城の書物を読む漁る事だけです。それ以外に出来る事など何もありません」
「自信とは何かを積み重ねて、積み上げて出来て行くものです。やった事がないものに自信を持つことは出来ません。少しずつ色々な事を経験すれば良いのですよ」
なんとお優しい、そしてなんと強い方だろうか。
私も、私もこの人のようになれるのだろうか?
このような醜い私が? 成れるわけないじゃないか。
怖い。成れるわけがない。やはり部屋にいるべきだった。逃げ出したい。出来る人は皆こう言うのではないのか。できない人間の気持ちなど分かるわけがない。
「私は...」
無理だ。私には無理だ。少し勘違いをしていただけだ。森の騒動が落ち着けば城へ帰ろう。部屋に居て時が過ぎるのを待つ方が良い。誰とも会わず誰とも話さず。
そうだこの身が朽ちるまで...
下を向いていた私はソニアさんに突然抱きしめられた。
「怖いのですか? 逃げたいのですか? そんな事は当たり前です。生まれたばかりの馬は走ることが出来ません。立つ事しかできないのです。そこから歩き出し、餌を食べ、走り、時には人を乗せ、時には馬車を引くようになるのです。」
「でも...」
「あなたは今生まれたばかりのようなもの。立ったばかりの仔馬に何が出来ましょう? 怖くて当たり前です。でも逃げてはいけません。暗闇に灯りが欲しいのなら私が灯りになりましょう。その身を守る盾が欲しいのなら私が盾になりましょう。自分を卑下したり苦しめることはしてはいけませんよ?」
私は泣いた。泣いてしまった。このような人がこの世にいるのか。まるで聖母ではないか。優しく私の髪を撫でて背中をさすってくれる。ああ、もし私にお姉さまがいたらきっとこのようにしてくれるのだろう。
「お姉さま...はっ!すみません、私は何を言って...」
「ふふ、そうね。もし姉が欲しいなら、私が姉になりましょう。どうですか?」
「あ...あの...はい」
私はしばらくソニアお姉さんの温もりに触れていた。
駆け足の編集作業でしたので完全ではないかと思います。
時間のある時に少しずつ見直しをしていきます。
ブクマ、評価も頂ければ嬉しいです。
引き続きよろしくお願いします。