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よろしくお願いします。
二人は抱き合って泣いている。
これで良かったよな?後は俺が死ぬ気で頑張れば良いのだ。
「ミランダさん、すみません。あなたの事を話してしまった」
「いえ、ヒロシ様。私は、私たちはこのような日が来る事を信じてずっと待っておりました。マリー王妃様、私はどんな処罰でも受け入れます。最後にアンジェリーナ様の元気なお姿を見れて良かった」
『ミランダさん、それは大丈夫だと思いますよ?』
『それはどういう...?』
「お母さま」
「ええ、ええ、分かっております。ミランダ、アンジェが頑張ってこれたのはあなた達がいてくれたからでしょう。私や陛下ですら迷っていたというのにあなた達はずっとアンジェを支えてきてくれていたのですね。感謝こそすれ処罰などするはずはありません。引き続きアンジェを支えてあげて頂戴」
「勿体ないお言葉です、王妃様...」
ミランダさんの頬を涙が伝う。俺ももらい泣きをしてしまうところだったぞ。
「ヒロシさん、ありがとう。あなたには大恩が出来てしまいましたね」
「大袈裟ですよマリー様」
「ヒロシさん、私はこれからどうすれば良いでしょうか? すみません、何も分からないのです」
「そうですね、まずはご家族で夕食を取るのがよろしいでしょう」
「夕食...ですか?」
「恐らく夕食もお一人で召し上がっていたのでしょう?どれくらい部屋でお過ごしだったのですか?」
「7年ほどかしら?」
筋金入りやんけ。
「では尚の事そうした方がよろしいでしょう。皆で夕食をする、それすらもアンジェリーナ様にとっては大変な事でしょう。しかしそれが新たな一歩となるのです」
「そうね、それが良いわ。そうしましょう!ミランダ!直ぐに手配をして頂戴。夕食は家族だけよ」
「し、しかし王妃様、本日はゴードン様やローランド様たちと晩餐会を...」
「そんなものいつでも良いわ。アンジェとの夕食が最優先です。そうね、彼らには別で用意しておきなさい。陛下には私から言います」
大掛かりな晩餐会の準備をしていたのではないのですか? 良いのですか? そんなに簡単にキャンセルして。
「畏まりました」
良いのか...
「あと、ヒロシさんご一行は別よ。彼らは私たちと一緒に食事をとります。奥方2名と執事1名です」
待て。それは必要ない。ローランドさんと一緒に食べるから気にしないで良い。
「いえ、マリー様、お気遣いなく。私どもはローラン...」
「いけません」
「はい...」
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その後、夕食の準備が出来ましたとの連絡が入ったので俺たちは食堂へと移動することにした。ちゃんと俺はサティとソニアに事のあらましを説明したぞ。問題は美容液がない事だ。しかしある程度はなくても対応は可能だとも伝えた。二人は呆れてたが協力はしてくれると言ってくれた。すまないな、感謝してる。
「すまない、待たせてしまったね」
言葉と共に陛下達が入ってきた。お妃様、アンジェリーナ王女、レイラ王女、そしてフランツ王太子殿下だ。ちょうどいい機会だ。正式に紹介させてもらおう。
「夕食の場にお招き頂きありがとうございます。改めて紹介をさせて頂きます。私はロングフォードから来たヒロシと言います。こちらは妻のサティです。そしてこちらはゾイド・ロングフォード男爵の孫娘でソニア・ロングフォードです。私の許嫁となります。彼は執事のクロードです。どうぞよろしくお願い致します」
「「「よろしくお願い致します」」」
「うむ、遠い所よく来てくれた」
「ご家族での団欒を邪魔しているのではないかと心配しております」
「ヒロシ、そんな事を言うでないぞ」
「そうよ。ヒロシさんのおかげでアンジェリーナが私たちと一緒に食事を...」
陛下とお妃様は目頭に手を当てている。泣いているのか。部屋の扉の前に食事のトレーを置かすほどの剛の者ではないにせよ、アンジェリーナ様の引きこもりは徹底していたからな。家族とも滅多に顔を合わせない程に。そしてスキルが発現するほどに。
そう、彼女はスキル無しと言っていたがスキルは発現していたのだ。王妃様の私室でアンジェリーナ様の手を握ると同時に≪鑑定≫と≪診断≫をかけた時の事だ。簡単に言うとこんな感じであった。
≪鑑定≫
名前 : アンジェリーナ・フォン・アデル
能力 : 結界
技能 : 堅牢(物理無効 魔法無効 内部から外部への干渉不可)
≪診断≫
状態:運動不足 肥満(中)セルライト 血中脂肪(大)
能力が無いと言っていたが、すごいのが発現していた。ほとんどの攻撃が無効になるという王族では喉から手が出るほど欲しい能力なんじゃないだろうか。引き籠ってから発現したのだと思うが、それで得たスキルが結界で堅牢とは皮肉なもんだ。スマン話が逸れた。
「姉さんと一緒にまた食事ができる日が来るなんて...私嬉しくて...」
「僕も姉さんと一緒に居れるなんて夢のようです。初めてです」
「みんな、本当にごめんなさい。私がバカだったのよ。心が弱いばかりに」
「良い! もう良いのだアンジェリーナ。余は...余は...」
おいおい、みんなで泣いているぞ。俺はどうしたら良いのだ。後ろに控える執事やメイドももれなくハンカチで目元を拭っている。嗚咽も聞こえるぞ。
というか、王太子殿下、アンジェリーナ様と食事するのは初めてかよ。そうだろうな、まだ幼いからな。ほとんど見たこともなかったんじゃないのか?
「ヒロシよ、またお前には一つ世話になったな。余はどうお前に恩を返せばよいのか分からぬ」
「いえ、そんな。まだ何もしてないですし、そもそも恩に感じる事などございません」
「それでは余の気が済まぬわ。それは必ず後で報いるとしよう。しかしこれからどのようにしていくのだ?」
「実はこうしてアンジェリーナ様が部屋から出た時点で目的は半分達成されているんですけどね」
「どういうことだ?」
「外に出る事が一番難しいんですよ。後は少しずつ体を慣らしてメニューをこなしてもらう形になるかと」
彼女の状態は要するに運動不足と食べ過ぎによる肥満じゃないのかと思う。意外と美容液無しで済みそうな気もするが、セルライトがあるしエステサロンを作る上ではやはり美容液を使用してマッサージは行った方が良いように思う。弛んだ皮を引き締めないといけないしな。
「ただ、美容液はまだ出来ておりませんので、まずはそれ以外の所からとなりますね。食事と運動です」
「そうか、どのようにするのだ?まさか放っておく訳ではあるまい? 当然ヒロシの事だ、何か考えがあるのであろう?」
「当たり前じゃない。ヒロシさんはハッキリ仰いましたわ。わたくし感動に打ち震えました」
「い、命を懸けて支えてくれると仰って下さいました」
アンジェリーナ様は頬を染めて俯いている。その姿を見てマリー様が即座に反応した。
「まぁ、あなた!」
「うむ。マリー、みなまで言うな。こんなに嬉しいことはない。ヒロシ、聞かせてくれるな?」
「え?」
何を聞かせるのだ? 食事と運動だって言っただろ。言ったよな?
『ちょっと、アンタそんなこと言ったの?』
『サティ、言ったけどあくまで美容に関してだぞ? 勘違いするなよ? 美容液も無いんだからさ。それが出来るまでは、こっちで体調を整えていればいいだろう? 陛下は何を言ってるんだ?』
『はぁ...ホントバカね。』
『流石に軽率としか言いようがないですよ、ヒロシさん。おバカさんですね。』
『ソニアまで! 何故だ、軽率とはどういうことだ? 彼女はこっちで運動、俺はロングフォードに帰って美容液を作って持って来る。それ以外に何をどうするんだ?』
『僕に鈍感だのなんだの言えませんねそれは。僕でもわかりますよ。』
『まさか、クロにまでそんな事を言われるとは...』
「どうした、ヒロシ?」
「いや、そのですね...」
質問の意図が分からん。美容液は無いと何度も言っているだろう。ここで食事制限と運動をすれば良いかと思っていた。それが違うというのなら何をどう答えたら良いのか分からん。
しかし言葉を選ばないと何かと良くない気がする。どうしよう...
その時、ソニアが口を開いた。
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